Zio Vision 画像の本質を診る(ザイオソフト)
第79回日本医学放射線学会総会など3学会の合同によるJRC2020が,5月15日(金)〜6月14日(日)までWeb開催された。共催セミナー27「見えないものを診る〜AIと動態画像による胸部診断イノベーション」(ザイオソフト株式会社 / アミン株式会社)では,坂井修二氏(東京女子医科大学画像診断学・核医学講座教授/講座主任)が司会を務め,永谷幸裕氏(滋賀医科大学放射線医学講座助教)と岩澤多恵氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター放射線科部長兼医療局長)が講演した。
2020年8月号
見えないものを診る〜AIと動態画像による胸部診断イノベーション
講演1:呼吸ダイナミックCT:導入までのプロセスから臨床現場への有用性
永谷 幸裕(滋賀医科大学放射線医学講座)
人工知能(AI)や動態画像の活用により,胸部疾患の診断・治療がさらに発展することが期待されている。本講演では,320列CTを用いた胸部CTに関する多施設共同研究“ACTIve Study”の一環として当大学にて検討を行っている呼吸ダイナミックCTについて,臨床的有用性や臨床応用の可能性について述べる。
胸部CTにおける被ばく低減
胸部CTにおける被ばく低減については,全米肺検診試験(NLST)や,欧州で行われた大規模無作為化比較試験(NELSON Study)で,肺がんスクリーニング検査としての低線量CTの有用性が示された。また,ACTIve Studyでは,逐次近似法/逐次近似応用再構成法を用いた20mAの超低線量CTにて,肺野の充実性結節や5mm以上の非充実性結節が,低線量CTと同等に検出できることが明らかとなった1),2)。末梢血管構造も,超低線量CTにて視覚的に評価可能であることが確認された1)。こうした結果を踏まえ,ACTIve Studyでは次のテーマとして,呼吸ダイナミックCTの臨床導入が検討された。
呼吸ダイナミックCTによる胸膜癒着 / 浸潤評価
近年,肺がん治療において頻度が増加している胸腔鏡補助下手術(VATS)では,限局的な胸膜癒着を有する症例の場合,トロッカー挿入時に意図しない肺実質障害が生じ,手術時間の延長や,術後呼吸器合併症を引き起こす可能性がある。そこで,呼吸ダイナミックCTによる胸膜癒着の術前評価について,その妥当性を検討した。
1.事前検討
呼吸ダイナミックCTの臨床導入に先立ち,生体外肺ブタファントムを用いて撮影条件の事前検討を行った。撮影パラメータは,管電流:20mA,管電圧:120kVp,管球回転速度:0.35秒とした。
2名の胸部放射線科医により評価された103か所における,専用の解析ソフトウエアによる中枢気道の追跡能は,3点満点中,気管で2.64点,右主気管支で2.84点と良好であった。中枢気道と末梢肺野の連動も,交差相関係数が−0.96と良好であることが示され3),当大学でも上記の撮影条件を臨床導入した。
2.撮影方法
0.5mmスライス厚の320列CTを用いて,頭尾側16cmの範囲を一定の呼吸リズムの下,前述の撮影パラメータにて約5秒間隔で連続撮影を行った。
3.胸膜癒着 / 浸潤評価
胸膜下肺がんの胸膜癒着 / 浸潤の有無は,呼吸ダイナミックCTにて視覚的に簡単に評価可能である。さらに,呼吸サイクル内における腫瘍と胸壁の最大移動距離や合計移動距離の相対比(肺がん / 胸壁)が,定量評価として有用であることが示された4)。また,胸膜癒着が存在する場合には,呼吸に伴う胸膜と胸壁(肋骨背側)の2点間距離の変化が抑制されるため,2点間距離の吸気終末時相からの平均変化量(PCDACA)は,上肺野においても胸膜癒着評価の有用な定量指標となりうることが示された5)。
元来,肺尖部や上側肺では呼吸による動きが少なく,胸膜癒着の評価が困難な場合が少なくないが,側胸部に関しては気腫性変化や気流制限の有無に関係なく,側臥位の非荷重肺において癒着群のPCDACAが非癒着群よりも有意に小さくなることが示された6)。さらに,気腫性変化や気流制限を有する場合には,側臥位で評価することにより胸膜癒着検出能が向上することが,ROC解析でも示された6)。そのため,呼吸ダイナミックCT前の通常の全肺CTで気腫性変化を認め,さらに肺尖部での癒着の有無を評価したい場合には,側臥位での評価が有用であると思われる。
呼吸ダイナミックCTから得られた新たな知見
呼吸ダイナミックCTの画像を解析した結果,喫煙者では中枢気道と末梢肺野の呼吸中の連動が,気流制限によって保たれなくなることが示された7)。さらに,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者について,ザイオソフト社独自の動態解析技術である「PhyZiodynamics」を用いて仰臥位における局所平均肺野濃度の呼吸内変動を自動計測したところ,側副換気を反映すると考えられる現象が見られ,喫煙者では左右肺間・肺葉間で局所平均肺野濃度の連動が気流制限により保たれなくなることが示された8)。また,側臥位で同様の検討を行ったところ,やはり気流制限のない喫煙者の非荷重肺では主気管支断面積と平均肺野濃度の変化がほとんど連動せず,平均肺野濃度は荷重肺よりも小さかった9)(図1)。一方,気流制限を有する喫煙者の荷重肺では,一部の症例において,平均肺野濃度と主気管支断面積の連動が不明瞭で,呼気中期・終末期に主気管支断面積の奇妙な増加が認められた(図2 a◀)。ただし,非荷重肺では,平均肺野濃度と主気管支断面積の変化が比較的連動しており(図2 b),上側肺における代償的換気を反映したものと推測される9)。
前述の生体外肺ブタファントムを用いて,呼吸ダイナミックCTにおける時間分解能の画質への影響を検討した。ハーフ再構成ではフル再構成と比較してデータ量が少ないため,動きの少ない終末吸気や終末呼気では,一部の末梢気管支壁がやや不明瞭となるものの,内腔の描出は同等となる(図3◯)。一方,動きの速い呼気中期では,ハーフ再構成の方が末梢気管支内腔が比較的明瞭に描出される10)(図3◯)。さらに,気管支内腔の明瞭度を反映するCTD dipなどの指標を用いて,ハーフ再構成では末梢気管支内腔が動きに影響されにくいことを定量的に確認した10)(図4)。
呼吸ダイナミックCTの臨床応用への可能性
吸呼気CTのデータを用いた過去の研究において,吸気CTと比較した呼気CTにおける平均肺野濃度上昇が,特発性肺線維症(IPF)における肺胞虚脱や初期の線維化を反映する可能性があることが示されている。
われわれは,呼吸ダイナミックCTの初期検討として,吸気終末時相にて正常に見える肺野内に直径10mmの球形の関心領域を,両側上・中・下肺野の腹側 / 背側の12領域および胸膜直下領域と中央領域に設置し,「PhyZiodynamics」を用いて自動追跡し,関心領域内の平均肺野濃度と推定空気量の胸膜直下領域と中央領域での連動を,通常型間質性肺炎(UIP)のパターンを示すIPF(IPF/UIP)と,膠原病関連間質性肺炎で比較した。その結果,一部のIPF/UIPでは,中心領域と比較し胸膜直下領域では吸気早期の拡張の遅延や,推定空気量の変化が不整となることがあった。このことより,吸気終末には正常に見える領域内の初期病変を,呼吸ダイナミックCTでとらえうると推測された11)。今後,さらにデータ解析を重ねることで,将来的には間質性肺炎における抗線維化薬の効果判定にも応用できるのではないかと考えている。
●参考文献
1)Nagatani, Y., Takahashi, M., et al., Eur. J. Radiol., 84(7) : 1401-1412, 2015.
2)Nagatani, Y., Takahashi, M., et al., Acad. Radiol., 24(8) : 995-1007, 2017.
3)Yamashiro, T., Tsubakimoto, M., et al., Int. J. Chron. Obstruct. Pulmon. Dis., 10 : 2045-2054, 2015.
4)Sakuma, K., Yamashiro, T., et al., Eur. J. Radiol., 87 : 36-44, 2017.
5)Hashimoto, M., Nagatani, Y., et al., Eur. J. Radiol., 98 : 179-186, 2018.
6)Sato, S., Nagatani, Y., et al., Acta. Radiol., 2020(in press).
7)Yamashiro, T., Moriya, H., et al., Int. J. Chron. Obstruct. Pulmon. Dis., 11 : 755-764, 2016.
8)Yamashiro, T., Moriya, H., et al., Int. J. Chron. Obstruct. Pulmon. Dis., 12 : 2101-2109, 2017.
9)Nagatani, Y., Hashimoto, M., et al., Int. J. Chron. Obstruct. Pulmon. Dis., 13 : 3845-3856, 2018.
10)Nagatani, Y., Yoshigoe, M., et al., Acta Radiol., 2020(Epub ahead of print).
11)Fukunaga, K., Nagatani, Y., et al. Scientific oral presentation RSNA 2019.
永谷 幸裕(Nagatani Yukihiro)
1999年 滋賀医科大学卒業。同大学放射線医学講座研修医。市立岸和田市民病院,滋賀医科大学,米国アラバマ大学放射線科リサーチフェローなどを経て,2011年 滋賀医科大学放射線医学講座助教。2018年済生会野江病院放射線科副部長。2019年 滋賀医科大学放射線医学講座特任助教。2020年〜同助教。
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