技術解説(ザイオソフト)
2018年7月号
医療関連メーカーのAI開発最前線
Intelligenceを取り入れたポストプロセッシングの技術開発
清水 聡[ザイオソフト(株)マーケティング部]
近年,医療現場における人工知能(AI)技術の活用が注目され,多くの領域でその可能性が模索されているのは周知のとおりである。なかでも深層学習や機械学習といった側面ばかりがクローズアップされているが,医用画像三次元処理の分野においては,三次元ワークステーションの誕生から今日に至る革新的な進化や発展は,あまたのintelligenceによって実現されてきたものにほかならない。ここで三次元画像処理を少し振り返ってみる。当社は20年前に創立し,その1年後に三次元画像処理ワークステーション「M900」の発売を開始した。今では当たり前の機能となってしまったが,「選択して残す」という三次元画像から物体を抽出する機能は,従来まで存在していた物体をカットしながら抽出していくものと比較して,圧倒的なスピードで臓器の抽出を可能とした。これは,当時では画期的な機能であるとともに,三次元定量化の礎になったと言っても過言ではない。また,2005年に発売された第二世代のワークステーション「ZIOSTATION」では,自動骨取り,心臓抽出,血管トラッキング,大腸抽出などの自動抽出機能“ZEEK Engine”を搭載し,画像作成の作業効率を向上させ,三次元画像処理の一般化と普及に貢献した。
何よりも重要なのは,臨床で役立つ有用な機能を送り届けるべく技術開発に取り組み,これによりユーザー(患者,医師,診療放射線技師,病院経営者)に有益となる機能を実現することであり,実現の背景にある技術こそ,当社が取り組んできたintelligentな画像処理である。世間で一般的に言われているAI技術は,三次元画像処理技術の根底に存在しており,すでに多くの機能に生かされている。本稿では,intelligentな画像処理の一例と,さらに発展させた機能への取り組みについて紹介する。
■当社のこれまでの取り組み
当社では,術者の経験や知識によることなく,誰でも臨床的に有用なレベルのintelligentで正確な自動処理を高速で行える製品をめざしてきた。これにはさまざまな経験をパターン化,そのためにルール化して,適切な処理またはアルゴリズムを選択することで実現している。「Ziostation2」においては,これまでにない解剖学的情報に基づいた自動処理を実現した三次元形状認識技術“RealiZe”を搭載し,多くの自動抽出や分離などの機能を備え,ワークフローの改善,処理時間の短縮,処理の安定性の向上,コストの削減,患者の負担軽減を図っている。
ここで,三次元形状認識の一例を紹介する。Ziostation2の“CT気管支ナビゲーション”では,肺野領域のCTデータから亜区域気管支までの自動ラベリング機能を搭載している。気管支の分岐走行は人によりさまざまであり,分岐異常があるとラベリングを行うことが容易ではないが,解剖学的な認識技術により自動ラベリングを実現している(図1)。
なお,上述した各種の自動処理に加え,限られた画像や特定の画像から全体像の推測や病気の進行を予測するといった,これまでの自動処理や解析からさらに発展させた開発にも現在取り組んでいる。これらの開発に当たって重要なことは,目的に適合し,かつ偏りのない「集積された情報」を「正しく処理をする,あるいは選択」できることである。深層学習や機械学習は,蓄積された大量のデータ,そして熟練者によって導かれたいわゆる正解とされる結果を用いて「コンピュータの正解率を自動的に向上させる」ものとされているが,それだけでユーザーのニーズに応えることができるような製品が出来上がるわけではない。それらを含めた技術をいかに磨き上げ,製品に応用していくかが本当の課題である。これらのintelligenceは,技術を開発するものや,技術を使用するユーザーのイノベーションによって実現していくものと考え,取り組みを進めている。
■今後の開発
上述した限られた画像から全体像の推測,また,特定の画像から病気の進行を予測するといったことは,大量のデータを利用しやすい環境がますます進むことで実現が容易になってくると考える。当社は,良質なデータを選び,さまざまな技術を組み合わせてチューニングを行い,インフラに合わせた最適化,提示方法,そして,継続的な改善をすべてそろえることで,さらに向上させたintelligenceを実現するポストプロセッシングを開発していく予定である。
【問い合わせ先】
マーケティング部
TEL 03-5427-1921
URL http://www.zio.co.jp/