New Horizon of 4D Imaging(ザイオソフト)
2014年11月号
Ziostation2とADCTの3D画像を駆使して先天性心疾患など小児循環器領域の診断をサポート〜先天性心疾患の血管走行やPhyZiodynamicsによる動態解析で正確な術前情報を提供〜
京都府立医科大学附属病院
京都府立医科大学附属病院では、小児に対する高度先進医療の提供を行う小児医療センターを開設しており、小児循環器・腎臓科では先天性疾患や川崎病など小児の循環器疾患に対する専門的な診療を行っている。同院では、2014年5月に320列のArea Detector CT(ADCT)であるAquilion ONE/ViSION Editionが導入されたのに合わせて、Ziostation2をネットワーク型(Type1000)にバージョンアップし、3D画像提供体制の強化を図った。小児循環器領域でのZiostation2の活用について、小児循環器・腎臓科の河井容子助教、放射線科の西村元喜助教、放射線部の轟 英彦副技師長、大澤 透主査に取材した。
外科、内科が連携して高度で専門的な小児医療を展開
京都府立医科大学では、小児期に特有な重篤な疾患に対応する附属施設として1982年に“京都府こども病院”を設け、小児科、小児外科、小児循環器・腎臓科、小児心臓血管外科など、内科系と外科系の診療科が連携して専門的な診療、研究を提供する体制を整えた。2011年の新病棟建設に伴い、その診療を引き継ぎ、新たに“小児医療センター”が開設された。同センターは、病床数83床、外科疾患や重症疾患の治療を行う小児集中治療室(PICU)が6床、新生児集中治療室(NICU)19床などを持つ。年間の外来患者数は2万5000人で、京都府下や大阪府、滋賀県などのほか、石川県、福井県など北陸方面から来院する患者も多い。
小児医療センターでは、先天性心疾患に対する開心術を年間約150例行い、全国的に見ても5 本の指に入る症例数を誇る。小児循環器・腎臓科は、先天性心疾患、不整脈、川崎病に伴う心臓疾患、腎炎やネフローゼなどの腎臓病を専門領域とするが、先天性心疾患については小児心臓血管外科と連携して、心臓の異常の診断と手術、術後管理を行っている。
放射線部における小児の検査件数も多く、年間でCT400件、MRI700件、PET25件、RI100件前後を行う。なかでも小児の心臓CTは、年間で100件前後行っており、特に1歳未満の撮影が多い。河井助教は、小児の心臓の画像診断とCTデータをもとにした3D画像による診断の有用性について、「心臓の診断としては超音波検査がファーストチョイスとなりますが、心奇形や血管走行異常を伴う先天性心疾患では、心臓の形態や大動脈など血管の走行を確認するためにCTを撮影します。CTでは、肺動静脈や大動脈弓などの大血管が診断でき、術前の情報として外科医に提供できます。新しいADCTと3D画像再構成によって、より精細な画像が得られるようになり、冠動脈や心臓内腔についても容易に把握できるようになりました」と臨床への効果を述べる。
ネットワーク型の導入で3D画像の利用が拡大
同院では、2014年にCTを16列から320列のADCTであるAquilion ONE/ViSION Edition(東芝社製)にリプレイスした。現在、CTは3台体制となっており、地下1階の検査室にAquilion ONEとBrilliance 64(フィリップス社製)の2台、1階の救急部門に1台が設置されている。CT全体の検査件数は年間約2万件で1日平均70〜80件。地下1階の2台のCTで主に造影検査を中心に行い、CTを担当する5名の診療放射線技師が、検査から3D画像作成までを担当する(放射線部の診療放射線技師は41名)。
3Dワークステーション(WS)については、各社の装置が導入されているが、CT室ではZiostation2をメインに使用してきた。ADCTの導入と同時にネットワーク型のType1000が導入され、CT室では従来のスタンドアローンタイプに加えて、VGRクライアントが追加されて総計5台での運用となった。現在、アンギオ室やハイブリッド手術室にもクライアントを設置する予定で、院内への拡張を進めている。大澤主査は院内での活用について、「術中に事前に作成した3D画像と比較しながら手技を行えるように準備しています」と述べる。
術前のシミュレーションとしてCTの3D再構成画像を提供
小児の心臓CT撮影は、64列では心電図同期なしのヘリカルスキャンで撮影していたが、ADCT導入後は心電図同期下に1心拍での撮影を行っている。大澤主査は、「新生児の撮影が多かったことから、被ばくと臨床的に必要な画像情報のバランスを考慮して、64列では心電図同期なしのヘリカルスキャンで撮影していました。複数心拍からの画像再構成でズレが生じることがありましたが、CTでは心臓の外形の把握を優先して、内腔や冠動脈の形態に関しては心エコーで評価していました」と述べる。ADCTでは、心電図同期でボリュームスキャンとハーフ再構成を行い、AIDR 3Dを使うことで以前とほぼ同等の被ばく線量で撮影している。小児心臓CTについて西村助教は、「ADCTでは心臓の内腔や、大動脈や冠動脈起始部まで明瞭に描出されるようになり情報量が増えました。これによって、術前のシミュレーションや患者さんへの説明でも正確でわかりやすい情報が提供できるようになりました」とADCTのボリュームデータによる診断の有用性を説明する。
放射線部では、小児の心臓の3D画像作成については、シングルCTの時代から取り組んできた。轟副技師長は、「最初に3D画像で心臓の血管の欠損を指摘した時には誰も信用しなかったのですが、手術したところ3D画像の通りで、それからオーダが増えました。今では術前には必ずCTの撮影と3Dによる画像処理が求められるようになりました」とこれまでの取り組みを説明する。先天性心疾患の3D画像については、心臓の形態の異常と血管の走行を視覚的に把握できるように、心臓、動静脈などを色分けして表示している。
PhyZiodynamics、流体解析ソフトを活用した情報を提供
大澤主査は、Ziostation2の使い勝手について、「高度で複雑な処理が簡単にできるツールがそろっていますが、一方でマニュアルで画像を作り込めるところがZiostation2の魅力です」と述べる。同院では、今回のバージョンアップでザイオソフトの独自の画像処理技術である“PhyZiodynamics”の機能が追加された。PhyZiodynamicsでは、高度な動態補完技術によって心臓の滑らかな動きを再構成して、心筋や弁の動態をよりスムーズに観察することができる。PhyZiodynamicsによる4D動態イメージングについては、すでに心臓血管外科から大動脈弁の動態や距離計測などのオーダが出ているという。河井助教は、「これまで心臓の形状や血管走行などはCTで把握できましたが、内腔の動きまで同時に確認できることは大きなメリットです。特に右心室や右室流出路の肺動脈弁の情報などは、血管造影検査やMRIでしかわかりませんでした。MRIは撮像時間が長く小児の撮像は難しいところもありますので、CTの動態撮影には期待が大きいですね」と述べている。その他、放射線部では、心房中隔欠損症(ASD)に対するカテーテル治療術において、欠損孔を塞ぐ閉鎖栓留置の際に必要となる、孔の大きさや周囲の縁のサイズの計測を、PhyZiodynamicsで可能かどうかを検討している。大澤主査は「PhyZiodynamicsでは動態を追いかけながら変化する長さを計測することができますので、従来の収縮期や拡張期の止まった状態の計測よりも正確なデータが得られることが期待できます」と説明する。
また、EBM社の流体解析(Computational Fluid Dynamics:CFD)用のソフトウエアである“hemoscope”を利用して、小児の冠動脈瘤の診断への応用に取り組んでいる。hemoscopeは、本来は血流解析によって脳動脈瘤の破裂リスクなどを解析するソフトウエアだが、放射線部では川崎病の冠動脈合併症など径の小さい動脈瘤への適応について、小児循環器・腎臓科と検討を進めており良好な結果が得られているという。この流体解析にはZiostation2で作成したSTLファイルをhemoscopeに渡して行うが、放射線部ではこのSTLファイルの書き出し機能を利用して、3Dプリンタによる小児の心臓モデルの作成などにも実験的に取り組んでいる。
■ Ziostation2を用いた臨床画像
ボリュームCTと3D画像処理で小児の高度医療を支援
河井助教は、CTと3DWSによる今後への期待について、「CTが大きく進歩して低被ばくで短時間に撮影でき、多くの情報が得られるようになりました。さらに3D画像処理によって術前の病変の把握や患者さんへの説明にも役立っています。今後も3Dプリンタの活用などさらに可能性が広がっていくことが考えられ、小児循環器領域での活用がより進んでいくと思います」と述べる。
同院では、院内への端末の設置と同時に、診療科を対象に院内でZiostation2によるハンズオンセミナーを行うなど、3D画像の積極的な利用を進めている。PhyZiodynamicsや流体解析などの新しい技術を取り入れながら高度な診療をバックアップしていく。
(2014年9月24日取材)
京都府立医科大学附属病院
京都府京都市上京区梶井町465
TEL 075-251-5111
http://www.h.kpu-m.ac.jp/
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