技術解説(シーメンスヘルスケア)
2020年9月号
Step up MRI 2020 MRI技術開発の最前線
被検者を選ばないMRI検査のために ─撮像中の動きや体内インプラントの影響の軽減
太田千香子[シーメンスヘルスケア(株)ダイアグノスティックイメージング事業本部MR事業部]
MRI検査の適応が広がるにつれ,静止が難しい被検者や息止めができない被検者など,さまざまな状態の被検者への対応が求められている。また,体内インプラントによるアーチファクトも長年の課題である。こうした弱点に対して,近年,ハードウエア,ソフトウエアの両面から多くの対策がなされている。その結果,従来では難しかった自由呼吸下での上腹部造影ダイナミック検査や,不整脈の被検者に対する自由呼吸下心臓検査,体内インプラント挿入被検者の安定的な検査*も可能になってきている。
本稿では,人体の動きや体内インプラントに対応し,安定した高画質を実現するためにSiemens Healthineers製MRI装置で開発された技術を紹介する。
●BioMatrix Respiratory Sensors:非接触での呼吸確認
“BioMatrix Respiratory Sensors”では,Spineコイルの中に組み込まれた呼吸センサ(図1)により肺の体積の変動を検知し,非接触的に被検者の呼吸の動きをモニタリングすることができる。検査開始前から常時モニタリングが可能であり,ベルトやナビゲータの設定も必要ない。センサは2か所に内蔵されているため,head-firstとfeet-first,どちらにも対応できる。このセンサからの信号を用いて同期検査を行うことも可能であり,上腹部などの自由呼吸下検査にも使用されている。
●StarVIBE:自由呼吸下造影撮像
“StarVIBE”は,3D造影検査で用いられるVIBEシーケンスにラジアルサンプリングを応用したものである。k-spaceの中心を毎回通るように充填するため,呼吸や体動の影響を受けにくいという特長がある。StarVIBEが最もよく使用されているのは,肝臓のGd-EOB-DTPA造影検査の肝細胞相で,高分解能の画像が自由呼吸下で取得できる。息止め不良の被検者では,造影ダイナミックにStarVIBEを使用している施設もある(図2)。また,子宮や前立腺などの骨盤臓器における呼吸や蠕動の影響や,眼窩において眼球の動きによる影響,頸部で嚥下による影響を抑えるためなど,さまざまな領域で造影3D撮像に使用されている。
●Compressed sensing SPACE
compressed sensing(以下,CS)は,k-spaceのデータサンプリング数を大幅に減らすことで数十倍の高速化を実現する。データサンプリング数を減らしたことで発生するノイズは,繰り返し計算により取り除くことができる。CSを“SPACE”(3Dの高速スピンエコー法)に応用すると,従来3〜6分ほどかかっていた3D-
MRCPを自由呼吸下かつ短時間で取得することができる。図3 aは,CS 23倍速を使用して1分17秒で撮像している。また,18秒1回息止めで3D-MRCPを撮像することも可能である(図3 b)。
●CS GRASP-VIBE:自由呼吸下ダイナミック検査
“CS GRASP-VIBE”は,VIBEシーケンスにラジアルサンプリングに加えてCSを応用した独自のシーケンスである(図4)。時間分解能の向上と動きへの強さを同時に実現しており,高空間分解能・高時間分解能の肝臓ダイナミック検査を完全自由呼吸下で行うことができる。CS GRASP-VIBEは,収集したデータを利用した呼吸ゲーティングという独自機能により,呼吸性の体軸方向のモーションアーチファクトも軽減している。一過性の動きを示した被検者においても,許容可能な動脈相の画像を一貫して取得できたと報告されている1)。
●HeartFreeze:心筋の非剛体補正
“HeartFreeze”は,独自のアルゴリズムにより,拍動や呼吸による心筋の位置ズレを非剛体的に補正する技術である。心筋の性状を定量的に評価するためのアプリケーション“MyoMaps”に含まれており,T1値,T2値,T2*値のカラーマップの精度向上に使用されている。また,造影心筋パーフュージョンの信号変化曲線の傾きをピクセル値にしたマップ作成にも使用可能である。近年,このHeartFreezeの適用が,PSIRにも拡大された。PSIRは遅延造影に用いられるシーケンスであり,inversion timeが心筋のnullからずれていても反転を起こさないという特徴がある。PSIRにHeartFreezeを適用することで,従来息止めで行ってきた遅延造影相の撮像が自由呼吸下でも可能になる(図5 a)。
●CS Cardiac Cine:自由呼吸下心筋シネ撮像
左室全体をカバーするように心臓のシネを撮像する場合,12スライスほど必要であり,パラレルイメージングのGRAPPAを使用しても,3,4回の息止めが必要である。“CS Cardiac Cine”は,独自のCSによるダイナミック撮像を心臓のシネ撮像に応用したものであり,1回の息止めで12スライスを撮り切ることができる。1スライスのデータ収集は1心拍で可能であり,息止めが難しい被検者の場合でも自由呼吸下で撮像でき,不整脈や体動にも強い(図5 b)。HeartFreezeと組みわせることで,心臓MRIの大部分が自由呼吸下で可能になる。
●Advanced WARP:金属アーチファクト抑制技術
一次人工股関節および膝関節形成術の需要は,近い将来,それぞれ174%および673%増加すると予測されている2)。したがって,インプラントやインプラント周囲の評価のための撮像の需要はますます高まっている。インプラント周囲で発生する金属アーチファクトの抑制のためには,ボクセルサイズを小さくする,バンド幅を広げるといった方法が取られてきた。加えて,金属アーチファクト低減技術の“WARP”では,view angle tilting(VAT)法を用いた面内の歪み補正を行っていたが,“Advanced WARP”では,さらにslice encoding for metal artifact correction(以下,SEMAC)法を適用することで,スライス方向の歪みまで補正することができる。Advanced WARPは大きなアーチファクト改善が行える一方,アーチファクトが及ぶと思われるスライスすべてを励起してデータを収集し補正を行うことから撮像時間の延長が問題であったが,CSを応用することで延長を抑えることができるようになった(図6)。
* 本ソフトウエアは金属アーチファクト抑制を目的としたものであり,発熱などの安全性を保証するものではありません。
●参考文献
1)Yoon, J.H., et al. : Evaluation of Transient Motion During Gadoxetic Acid-Enhanced Multiphasic Liver Magnetic Resonance Imaging Using Free-Breathing Golden-Angle Radial Sparse Parallel Magnetic Resonance Imaging. Invest. Radiol., 53(1): 52-61, 2018.
2) Kurtz, S., et al. : Projections of primary and revision hip and knee arthroplasty in the United States from 2005 to 2030. J. Bone Joint Surg. Am., 89(4): 780-785, 2007.
●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
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