技術解説(シーメンスヘルスケア)

2020年4月号

腹部領域におけるUS技術の最新動向

Siemens Healthineersによる超音波画像診断装置の今後の展開

安田 直人[シーメンスヘルスケア(株)超音波事業本部マーケティング部]

Siemens Healthineersは,1953年に初めて超音波画像診断装置を開発して以来,常に先進的な技術を導入した製品開発に取り組んできた。また,超音波画像診断装置のみならず,CT,MRIといった大型画像診断モダリティを製造販売していることを生かし,今後も新たな展開を提供し続けていく。本稿では,その一端を紹介する。

●信頼され,活用されるモダリティへ

超音波画像診断装置は,さらに信頼されるモダリティとして活用されるために解決すべき課題があると,Siemens Healthineersは考えている。例えば,画質は患者の体格などに依存しやすく,また,病変の検出は施行者の経験・習熟度に依存することが挙げられ,こういった依存性からの脱却が必要である。さらに,本来,定性的であるとも言える診断を定量化し,客観性を高めるための新しい技術を応用することも重要である。
超音波画像診断装置は,単に画質の向上のみならず,こういった課題を解決するためにさまざまな進歩を続けている。そのため,新しいコンセプトで開発された最新型の機器を導入することは医療の質を向上させ,効率も向上させる。

●プレミアムハイエンド超音波画像診断装置「ACUSON Sequoia」

2018年10月に販売開始されたSiemens Healthineersの新しいフラッグシップ装置が,前述の課題克服をめざし開発されたACUSON Sequoia(図1 a)である。ACUSON Sequoiaでは,超音波信号の生成・送受信・画像形成までのプロセスをすべて見直した“BioAcoustic Imaging Technology”を搭載することにより,超音波画像診断装置の基本性能の向上を図っている。従来,超音波画像診断装置には,さまざまなトレードオフが存在していた。例えば,フォーカス点を増やすとフレームレートが落ちてしまうことが挙げられる。ACUSON Sequoiaに搭載された“InFocus”技術は,リアルタイム性を損なわず,浅部から深部までフォーカスを合わせることが可能になる。そのため,フォーカス位置を気にすることなく,さまざまな患者に対応できるようになる。

図1 ACUSON Family

図1 ACUSON Family

 

また,深部到達能を向上させるには周波数を落とさざるを得ないため,空間分解能も落ちてしまうといった点もトレードオフと言える。最近は,メタボリックシンドロームの増加に伴い,高BMIかつ超音波の減衰要因となる脂肪の蓄積した患者を検査するケースが増えており,深部の描出が困難な例も多い。そのため,通常の腹部検査用コンベックストランスデューサを単結晶にすることにより,深部到達度を向上させた。単結晶トランスデューサは温度の上昇が課題となるが,ACUSON Sequoiaのトランスデューサはケースに熱を逃がすことにより,フットプリント部分の温度上昇が抑えられ,性能を効率良く引き出すことができる(図2)。

図2 トランスデューサの放熱イメージ

図2 トランスデューサの放熱イメージ

 

さらに,BMIが35を超えるような高度肥満患者においては,新しい発想の「DAX(Deep Abdominal Xducer)」(図3)が役立つ。これは,肋間走査において距離を近づけるために薄さを追究した従来のコンベックスプローブのアプローチとは異なり,フットプリントを大きくし,受信感度の向上により深部感度を向上させる,Siemens Healthineers独自のアプローチを具現化したトランスデューサである。DAXは,最大40cmの描出能を持ち,併せて深部の血流検出能も良好である。

図3 DAX(Deep Abdominal Xducer)

図3 DAX(Deep Abdominal Xducer)

 

リアルタイムに4つの異なる設定の画像を表示させることで,診断に最適な画像を確認しながら選択し,検査を行える“UltraArt”(図4)という機能がある。これは,疾患に応じた画像調整を簡単に行うことができ,画像調整に要していた時間の短縮や,施行者による依存性を改善することが期待できる。
定量評価のための技術応用の代表例として,ここ数年さまざまな機器に搭載されてきている組織硬度計測の手法,シアウェーブエラストグラフィが挙げられる。ACUSON Sequoiaのシアウェーブエラストグラフィは,従来“Virtual Touch Quantification(VTQ)”の名で肝硬度計測に用いられてきたポイントシアウェーブエラストグラフィ(pSWE)と,腫瘤性病変の評価に適している2Dシアウェーブエラストグラフィ(2D SWE)に対応しており,従来機と相関の高い計測値を維持している。また,ACUSON Sequoiaは,従来機に比して6倍(自社比)の電源容量を搭載し,時間経過で発生するプッシュパルスの減衰を抑えることができるようになる。このプッシュパルスにより励起されたシアウェーブは安定性が増し,よりバラツキの少ない定量評価を行うことが可能となる。星型ファントムを用いて計測した画像に見て取れるように,従来機種(図5 a)ではまだらになっていたものが,ACUSON Sequoia(図5 b)では均一に計測できていることがわかる。これは,バラツキが多く,計測が困難であった皮下脂肪の厚い例や肝硬変症例などにおいて,安定した計測につながる。
そのほか,前述のBioAcoustic Imaging Technologyに基づき,超音波信号の生成・送受信を見直したことにより,信号が忠実になった。これにより,従来の超音波波形において,どうしても生じていた歪みを極力抑えられ,理想波形に近づいた。これを“InTune Pulser”と言い,特に造影エコーの感度改善につながる。さらに,DAXを使用することによって,これまで困難であった深部にある病変の視認性向上につながっている。

図4 UltraArt

図4 UltraArt

 

図5 星型ファントムでの計測

図5 星型ファントムでの計測

 

Siemens Healthineersの超音波画像診断装置は,今回紹介したACUSON Sequoiaを中心とした「ACUSON Family」(図1)として,ブランドイメージであるオレンジを基調とした新しいデザインに一新して展開している。
超音波画像診断装置への新技術の投入のみならず,さまざまな画像診断モダリティを展開する強みを生かし,Value Promisesとして掲げている「precision medicineの拡充」「医療サービス提供の変革」「ペイシェントエクスペリエンスの向上」「医療デジタル化の推進」を提供していく。これらによって人々のクオリティ・オブ・ライフに貢献し,最高の価値の提供と自らの成長を通じて,医療にかかわる人々にとって「信頼できるパートナー」になることをめざしている。

 

●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1
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TEL:0120-041-387
https://www.siemens-healthineers.com/jp/

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