技術解説(シーメンスヘルスケア)

2020年4月号

腹部領域におけるMRI技術の最新動向

Abdominal MRIにおけるprecision medicine

井村 千明[シーメンスヘルスケア(株)ダイアグノスティックイメージング事業本部]

近年,precision medicineや個別化医療,人工知能(AI)などの先進的なテクノロジーの応用とともに,効率的な診療も重要視されている。一見,相反するようにも思えるこれらの課題を解決していくためには,画像診断の正確性を高めるとともに,診断結果のバラツキを少なくすることが重要と考えられる1)
Siemens HealthineersのMRIにおいては,precision medicineに向けた開発の取り組みとして,さまざまなソリューションをMRI装置に組み込んできた(図1)。本稿では,これらの技術を紹介する。

図1 Precision medicineにおけるabdominal MRIと装置機能

図1 Precision medicineにおけるabdominal MRIと装置機能

 

●Tim, Dot engine

2004年に発表したコイルシステム“Tim(Total imaging matrix)”は,テーブル埋め込み式脊椎コイルと自由なコイルの組み合わせでワークフローを改善し,局所臓器から全身という広範囲まで容易に撮像することを可能にした。また,2010年に発表したユーザーインターフェイス“Dot(Day optimizing throughput)engine”では,AIに基づいて事前に学習したソフトウエアにより,撮像断面や主要なパラメータの自動的な調整をすることで,バラツキがなく,再現性の高い撮像ができるようになった(図2)。

図2 Abdomen Dot engine 画面の一部 至適タイミングのバラツキが多い造影ダイナミック撮像では,造影剤の到達を検知すると,各時相のスキャンとオートボイスが自動的に作動する。

図2 Abdomen Dot engine 画面の一部
至適タイミングのバラツキが多い造影ダイナミック撮像では,造影剤の到達を検知すると,各時相のスキャンとオートボイスが自動的に作動する。

 

●BioMatrix

“BioMatrix”は,TimやDot engineをさらに進化させ,Bio-variabilities(被検者のさまざまな状態)をMatrix(多用な技術の組み合わせ)で解決することで,被検者とオペレータの負担を軽減するとともに,安定して精度の高い画像を得るための検査環境をめざしている。腹部撮像を改善するBioMatrixの機能として,呼吸センサ(図3)と“BioMatrix SliceAdjust”がある(図4)。
呼吸センサは脊椎コイルに内蔵されており,被検者がテーブルに寝ると,自動的に肺の体積の変動から呼吸を検知する。このセンサは,呼吸同期撮像にも使用できるため,呼吸ベルトやクッション,横隔膜ナビゲータを設定する必要がなく,簡便で短時間に安定した呼吸トリガー信号を得ることができる。

図3 BioMatrix Respiratory Sensors機能 脊椎コイルに組み込まれた呼吸センサにより,被検者がテーブルに寝るだけで呼吸を感知し,呼吸同期撮像が可能になる。

図3 BioMatrix Respiratory Sensors機能
脊椎コイルに組み込まれた呼吸センサにより,被検者がテーブルに寝るだけで呼吸を感知し,呼吸同期撮像が可能になる。

 

図4 BioMatrix SliceAdjust

図4 BioMatrix SliceAdjust

 

●Turbo Suite

撮像時間の短縮は,画像の安定や時間分解能を上げた造影ダイナミック撮像において重要な役割を果たすが,一つだけの技術ですべてをカバーすることはできない。“Turbo Suite”は,パラレルイメージング,simultaneous multi slice(SMS),compressed sensingの技術を組み合わせて用いることで,さまざまな部位のルーチン検査全体の撮像時間を短縮する高速化パッケージである。腹部撮像においては,特に,CAIPIRINHAとcompressed sensingを用いた撮像時間短縮が有用である。

1.CAIPIRINHA
GRAPPAによって2方向の位相エンコードステップを削減して時間短縮をすると,展開時のエラーが発生しやすくなる。CAIPIRINHAは,3Dシーケンスのk-spaceの充填方法を工夫することで,2方向の位相エンコードステップを少なくしても展開時のエラーが発生しにくくなるパラレルイメージングの手法である。CAIPIRINHAを造影ダイナミックで用いる“VIBEシーケンス”に適用すると,通常15〜20秒必要となる撮像条件を10秒以内に短縮してもアーチファクトが発生しない。これを用いて,肝臓の造影ダイナミックにおいて動脈相を複数得ることができる(図5)。

図5 CAIPIRINHA VIBE 応用例(造影ダイナミック) 全肝臓ダイナミックの撮像時間を10秒以内に設定し,動脈相を2フェーズ撮像した例。造影後20秒では肝実質と等信号の肝細胞がん(HCC:↓)が,10秒相では確認できる。

図5 CAIPIRINHA VIBE 応用例(造影ダイナミック)
全肝臓ダイナミックの撮像時間を10秒以内に設定し,動脈相を2フェーズ撮像した例。造影後20秒では肝実質と等信号の肝細胞がん(HCC:↓)が,10秒相では確認できる。

 

2.Compressed sensing
k-spaceのsparsityを利用してデータ収集数を大幅に削減することで数十倍速まで高速化し,データ数が少ないことで発生するアーチファクトは繰り返し演算によって低減するのがcompressed sensingである。k-spaceのsparsityを生かした高速化は,2Dシーケンスでは有効でないため,3Dシーケンスに適用している。特に,撮像時間が延長しやすい3D MR胆管膵管撮像(以下,MRCP)で有効である。図6に示した例では,通常のSPACEシーケンスでは7分程度かかっていた高分解能MRCPが,CSを20倍速にすることで,空間分解能を維持したまま1分30秒以内になる。また,CSを23倍速まで高速化すると,同程度の空間分解能で息止め可能な時間にすることができる。

図6 Compressed sensing 応用例(3D MRCP)

図6 Compressed sensing 応用例(3D MRCP)

 

本稿では,precision medicineをめざしたabdominal MRIの撮像技術,ワークフロー改善機能,画像評価機能について紹介した。

●参考文献
1) Lasalvia, L., et al. : Expanding Precision Medicine. Journal of Precision Medicine, 5(3): 2019.

 

●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1
ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL:0120-041-387
https://www.siemens-healthineers.com/jp/

TOP