技術解説(シーメンスヘルスケア)
2018年9月号
MRI技術開発の最前線
MRIにおけるprecision medicine ~BioMatrixテクノロジー~
井村 千明[シーメンスヘルスケア(株)ダイアグノスティックイメージング事業本部MR事業部]
被検者の体形や年齢,呼吸状態などはそれぞれ異なるが,MRI検査では十分な診断情報のある画像を取得するために,大きな撮像音の中,静かに横たわっていることが求められ,時には繰り返しの息止めが必要な検査もあり,負担の大きさが指摘される。また,オペレータが被検者の状態や検査時間枠に合わせた撮像内容を組み込むための迅速な条件設定を行うためには熟練を要する。
これらの課題に対して,シーメンスはこれまでに“Tim(Total imaging matrix,2004年)”や70cmオープンボア(2005年),“Dot(Day optimizing throughput,2010年)”“Quiet Suite”(2013年)などのソリューションを発表し,いまではMRIに必要不可欠な機能となっている。
“BioMatrix”は,これまでのソリューションをさらに進化させ,Bio-variabilities(被検者のさまざまな状態)をMatrix(多用な技術の組み合わせ)で解決することで,被検者とオペレータの負担を軽減するとともに,precision medicine(プレシジョン・メディシン)へ向けて,精度の高い画像を得るための検査環境をめざしている。
■BioMatrixとは
近年,診断画像に求められる役割として,precision medicineにつながる薬剤開発や治療効果判定におけるサロゲートエンドポイント,クリニカルデシジョンツールとしての情報がクローズアップされている1),2)。これらは,MRIや他モダリティ画像を判断基準のマーカーとして用いることから,imaging biomarker(イメージング・バイオマーカー)という言葉が使われることもある。
precision medicineやimaging biomarkerにおけるMRIの役割を考えた時に求められるのは,高品質で精度の高い画像情報を安定して得ること,治療の効果判定につながる定量的な画像評価を可能にすること,患者ごとの状態に合わせた検査をフレキシブルに対応できることなどがある。
BioMatrixがめざすのは,このような次世代のMRIに求められるMRI検査環境である。そのためには,さまざまな先進技術が統合的にMRI装置に組み込まれることが必要となる。BioMatrixの要素には,“BioMatrix Sensors”“BioMatrix Tuners”“BioMatrix Interfaces”がある。
■BioMatrix Sensors
生体の動きの情報をリアルタイムにモニタリングする機能で,現在搭載されている呼吸センサだけでなく,今後は頭部や心臓の動きのモニタリングへ機能を拡張していく予定である。
● 呼吸センサ
スパインコイルの中に呼吸センサが組み込まれ(図1),被検者の呼吸の動きを常にモニタリングできる。検査中の呼吸モニタリングや呼吸同期撮像に適用できるため,ベルトやナビゲータを設定しなくてもよい。head-first, feet-firstのどちらの体位にも対応できるよう,スパインコイル上の2か所にセンサがある。
また,最新のソフトウエアでは,体動による影響を抑制した画像を得られるシーケンスの種類が増え,compressed sensingを適用する心臓シネや肝臓ダイナミックのほか,心筋遅延造影も安静呼吸下で可能となる。
これらにより,被検者の体動や呼吸停止の可否によらず,モーションアーチファクトを抑えた高精度の画像が得られる。
■BioMatrix Tuners
高い磁場均一度を保つことが難しかった頸部の脂肪抑制と,Whole-Body DWI(以下,WBDWI)のつなぎ目の問題を解決する機構である。
1.CoilShim
従来のシミングは,ガントリに組み込まれたシムコイルを用いて撮像範囲の磁場均一度を調整していた。これに対してCoilShimは,ヘッドネックコイルの中にシムコイルを組み込むことで,頸部の局所シミング精度を飛躍的に高め(図2),被検者の体形によらず,安定した脂肪抑制画像が得られる。ヘッドネックコイルは,被検者の体形に合わせて傾きを変えられるようチルト機構がついているが,CoilShimによってチルトをした場合でも磁場均一度が確保される。
2.SliceAdjust
SliceAdjustは,WBDWI撮像においてスライスごとにシミングをすることで,全身の画像を切れ目なくスムーズにつながったものとして描出できるだけでなく,各断面の画質向上に寄与する。
WBDWIは,見た目の印象や病変部が見やすいというだけでなく,骨転移の治療効果判定として注目されており,定量的評価の精度を高めるために重要度が増している。定量的評価を行うためのツールは,syngo.viaのアプリケーション“OncoCare”が対応しており,拡散強調画像のADC値ヒストグラムから,治療効果評価をサポートする定量的な情報を得ることができる(図3)。
■BioMatrix Interfaces
検査効率を上げるために,ワークフローをさらにスムーズにスピードアップする機能である。
1.Select&Go
Select&Goは,ガントリ前面に配置されたタッチパネルで検査部位の名称をタッチするだけで,目的部位をマグネットの中心へ移動させる(図4)。従来のレーザーマーカーによる位置合わせに比べて,操作性が向上するだけでなく,セッティング中に被検者から目を離すことが減るため,安全性向上にも寄与する。
2.eDrive
eDriveは,電動アシスト機能付きドッカブルテーブルで,ハンドルを両手で握ると電動アシストがonになり,動かし始めるとその動きをアシストすることで,非常にスムーズなテーブル移動が可能となる(図5)。テーブルの着脱もハンドルのボタン1つで行うことができ,足下のペダル類がなく,スッキリしたデザインであるとともに,安全性にも配慮されている。
◎
BioMatrixは,precision medicineに求められる高精度のMRI診断情報を,安定して効率良く得るための技術として開発された。次世代のMRI装置に求められる検査環境となるBioMatrixのさらなる機能の拡充が期待される。
●参考文献
1)Mitterhauser, M., et al. : Imaging Biomarkers or Biomarker Imaging? Pharmaceuticals, 7, 765〜778, 2014.
2)O’Connor, J.P., et al. : Imaging biomarker roadmap for cancer studies. Nat. Rev. Clin. Oncol., 14, 169〜186, 2017.
●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
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