技術解説(シーメンスヘルスケア)
2018年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
OncoFreezeによる撮像時間の延長が不要なPET体動補正
清水たけし(ダイアグノスティックイメージング事業本部分子イメージング事業部)
最新の統合型Positron Emission Tomography・Computed Tomography(以下,PET・CT)では,等方性高分解能型LSOクリスタルの小型化により,空間分解能は約4mmまで達成している。さらに,点広がり関数(PSF)などの高度な再構成の採用により,小病変の検出能が改善された。ところが,PETの撮像時間は数分を要するため,体動の影響により画質の劣化が避けられない。実際,臨床においての18F-fludeoxyglucose(以下,FDG)集積は,呼吸運動によって数センチ単位で位置ズレを起こすため,せっかく向上した分解能が無効となってしまう。小さな病変の場合,体動によって病変体積の過大評価や,FDGの集積の過小評価によって定量精度を損なってしまう可能性がある。
■現在のPET呼吸同期
現在の呼吸同期撮像では,胸部に巻いた圧力センサなどの呼吸モニタを使用し,最大吸気検出時に出力されるトリガー情報を用いた時間分割方式の同期撮像が行われている。この場合, PETシステム自体は呼吸波形そのものを記録することはなく,PETリストモードデータと併せて収集された最大吸気のトリガー情報を利用し,トリガー間を時間分割して個々の位相データでサイノグラムを作成し画像再構成を行っている。このため,最大吸気を検出したトリガー情報には,実際の呼吸性変動の大きさや速度の情報が欠如しているため,動きのない各位相データにおける精度を担保することが困難となる。また,体動を正確に検出するには時間分割数を増やす必要があり,画質を担保するためには撮像時間の延長が必要となる。
実際の呼吸性変動に対応するため,2011年にシーメンスは“HD・Chest”という呼吸波形の振幅情報を活用した呼吸同期技術を導入した。HD・Chestは,トリガー情報を使用せずに,実際の呼吸波形がPETリストモードデータとともに保存される。PETの収集が終了すると,呼吸波形全体が分析され,波形の最も安定した呼吸位相が決定される。デフォルトのプロトコールでは,最も安定した呼吸位相である呼気終末あたり35%程度のデータだけが抽出されて,定量解析用のstatic画像が再構成される(図1)。Tsutsuiら1)は,振幅が変動し,さらに baselineが変化している呼吸運動の場合,HD・Chestによる再構成の方が時分割方式の同期法よりも視覚的描出,定量性共に優れていたと報告している。臨床的にも,HD・Chestはより高い定量精度とより優れたノイズ特性をもたらしていることが報告されている2)(図2)。このように,HD・Chest は呼吸状態の変化に対応した,静止したPET画像が提供でき,さらに,その定量値の精度は十分に担保された呼吸同期法であると言える。
しかし,振幅法による体動補正では,通常のstatic画像と同等のSNRを得るために,撮像時間を延長しなければならないという課題は克服できていない。時分割方式による体動補正では,先述の撮像時間の延長に加え,画像再構成後の複数位相データから体動ベクトルを計算し,各位相データに対し非線形加算などを行うため,処理時間と演算能力が増加するという課題がある。さらに,時分割方式は均一な呼吸で撮像されることに依存しており,臨床では適応できない場合が多い。このため,撮像時間延長が不要で高精度な定量値と病変描出を日常臨床で得られる技術が求められていた。
■シーメンスの“OncoFreeze”による体動補正機能
シーメンスの最新型のPETは,HD・Chest で実装した呼吸同期技術をさらに応用し,OncoFreezeという新たな体動補正機能を導入した。OncoFreezeは,撮像時間延長を必要としない効率的なボケ補正法である。この方法では,mass preserving optical flow(以下,MPOF)を利用し,見かけ上の放射能の再分布補正を再構成に取り込んだものとなっている。PET画像では,半減期補正することにより視界内の全放射能は保存されているということを前提とし,放射能の再分布を体動に起因するものと考える。HD・Chestの概念は,OncoFreeze再構成においても重要な役割を果たす。まず,HD・Chestアルゴリズムが呼吸波形を分析し,PETリストモードデータから呼吸波形が最適範囲内にある時に検出されたイベントを抽出する。次に,取得したカウントの100%を含むstatic画像(体動あり,同期なし) と,HD・Chestから得られる呼吸性変動のない画像(参照画像)を作成する。MPOFは,static画像における放射能分布と,参照画像における放射能分布を比較し,その間の放射能の再分布をblurring kernelとして,ボケを発生させる体動を一般化した行列として表わす(図3)。言い換えると,OncoFreezeでは,座標内で物理的に実現可能な変位を表現するための「体動ベクトル」を計算するのではなく,体動をblurring kernelとして一般化し,この転置行列を利用してボケ補正を達成するものである。繰り返し演算を行う際,参照画像に対してblurring kernelを適用することにより,意図的にぼやけた画像推定が作成されることになる。これを正投影し,サイノグラム空間でstatic画像と比較すると,その差はcorrection factorとなる。これを逆投影したものにblurring kernelの転置行列を適用させて,参照画像をアップデートするという手法をとる。この処理では,ユーザーが追加のパラメータを設定する必要はなく,画像再構成中に直接ボケ補正を行うことになり,PETの生データのポアソン分布が補正処理後も維持される。再構成内で行うボケ補正法は,画像空間で非線形変換した分割位相を加算する呼吸同期法に比べ優れたコントラストをもたらし,さらに,static画像とHD・Chest画像の間に必要とされる体動推定は一つだけであるため,処理時間とメモリに対する負荷が削減され,高速のボケ補正画像再構成が可能となる3)。図4では,同一症例を同期なしstatic,HD・Chest,さらにOncoFreezeで再構成し,それぞれ得られる画質を提示する。肝臓上葉の小病変(図4 →)では,static画像でボケが発生しているが,HD・ChestとOncoFreezeでは明瞭に描出ができており,さらに,OncoFreezeでは撮像時間を延長することなく体動補正できることが確認できる。
◎
OncoFreezeは,MPOF技術で呼吸による体動を一般化し,それに適応することで,被検者おのおのの呼吸パターンの変動性の影響を受けず,一貫して最適なボケ補正を実現した新しい体動補正機能である。加えて,通常の全身static の撮像時間を延長させる必要がないため,日常臨床でのワークフローの改善ももたらす。また,体動による画質劣化を防いだ高分解能画像の活用により,読影診断の確信度向上に期待できる。
●参考文献
1)Tsutsui, Y., et al. : Accuracy of amplitude-based respiratory gating for PET・CT in irregular respirations. Ann. Nucl. Med., 28, 770〜779, 2014.
2)van Elmpt, W., et al. : Optimal gating compared to 3D and 4D PET reconstruction for characterization of lung tumours. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 38, 843〜855, 2011.
3)Hong, I., et al. : Ultrafast elastic motion correction via motion deblurring. 2014 IEEE(NSS/MIC), 2014.
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