技術解説(シーメンスヘルスケア)
2018年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
Expanding Precision Medicine ─定量化の期待が高まるdual energyイメージング
日和佐 剛(CT事業部)
放射線を用いた診断や治療を担う放射線医学においても,標準化や個別化に向けた機運が高まっている。これらを後押しするCT技術の進歩としては,定量的な画像情報を提供する4Dイメージングやdual energyイメージングの成熟が挙げられるが,一方で,膨大なデータを有効活用する人工知能による技術革新が目前に迫っていることも大きく影響していると考えられる。画像情報を定量的に用いることを考えた場合,前提条件として高い精度の撮影が求められる。例えば,dual energyイメージングは特定の物質を同定し,定量値としてその物質を抽出することができるが,撮影で取得される高低2つのX線スペクトルによって物質弁別の精度が異なることが報告されている1),2)。本稿では,dual energyイメージングにおける腹部領域の最新アプリケーションを紹介するとともに,定量化を行う上で重要となる精度に関する項目として,X線スペクトルと物質弁別能の関係を述べる。
■定量化の期待が高まるdual energyイメージング─X線スペクトルと解析精度の関係
dual energyイメージングにおいても,より客観的な指標を提供するという観点から定量値としての期待が高い。定量値としての運用を考えた場合,精度の高い撮影が望まれるが,物質のX線エネルギー依存性を利用するdual energyイメージングでは,高低2つのX線スペクトルが大きく分離しているほど物質の減弱係数の差が大きくなり,結果として物質弁別の精度が高くなる1),2)。
Dual Source CTは,独立した2組のデータ収集系が回転方向に約90°オフセットした状態で配置されており,高管電圧側には2つのX線スペクトルの重なりを低減させる「Selective Photon Shield(SPS)」が実装されている。SPSは,dual energyイメージングにおける物質弁別能向上と被ばく低減をねらった物理フィルタであり,X線スペクトルの低エネルギー成分を効率的にカットし平均エネルギーを上昇させる効果がある。図1に,SPSによる物質弁別能向上を数値化したグラフを示す。dual energyイメージングでは140kVと80kVを利用することが多いが,日常的に使用頻度が高いヨード造影剤に関しては,SPSと管電圧の組み合わせに応じて最大2倍以上のコントラスト比が得られることがわかる。また,X線スペクトルの重なりを低減するもう一つのメリットとして,一般的な80kVの組み合わせによるdual energyイメージングに加え,90kVや100kVなど,より高い管電圧の組み合わせが使用可能となることが挙げられる。低管電圧側のX線出力が向上することは,体格の大きな被検者に対する解析精度が向上するだけでなく,腹部,骨盤といった比較的減弱が高い領域においても安定した解析精度を担保することにつながる。
■Dual energyイメージングの成熟と腹部領域の最新アプリケーション
2005年,Dual Source CTの登場によって,日々のルーチン検査から研究に至るまで幅広く臨床応用できるdual energyイメージングが始まった。dual energyイメージングの最大の特徴は物質の組成情報を特定できることであり,single energyでは同定困難だった,同等のCT値を示す物質の分離や抽出が可能となった。
腹部領域においてはヨード造影剤の血行動態を評価することが多いが,dual energyイメージングを実施することで,一度の撮影でヨード成分を抽出したIodine mapと仮想単純画像(virtual non contrast:VNC)を取得することができる。そのため,呼吸止め位相の違いによる位置ズレがなく,より精度の高い血流評価が可能となっている。また,近年は肝臓の脂肪含有率を定量する“DE Liver VNC-Fat Map”がリリースされたこともあり,さらに多くの情報が引き出せるようになった。図2に肝腫瘍に対するdual energyイメージングを示すが,一度の撮影で120kV相当の画像に加え,Iodine mapと仮想単純画像,fat mapを作成することができる。形態情報にヨード成分と脂肪含有率の情報が追加され,腫瘍の大きさや血行動態,さらには脂肪変性や腫瘍壊死といった肝臓の組織変化に関する評価も同時に行えるようになった。
一方,ヨードよりもX線に対するエネルギー依存性が低く,物質弁別が難しいとされるカルシウムや鉄を対象にしたアプリケーションも登場している。例えば,“DE Bone Marrow”は海綿骨からカルシウム成分を選択的に除去するアプリケーションだが,MRIの脂肪抑制画像で見られるような骨髄浮腫の描出が可能となっている(図3)。代表的な適用としては脊椎圧迫骨折における急性期と陳旧性の鑑別が挙げられるが,骨折以外に腫瘍の骨髄浸潤を評価するツールとしても使用されている3),4)。また,シーメンスが提供する開発対応型画像解析システムの「syngo.via Frontier」では,リサーチ用のソフトウエアを配信している。腹部領域をターゲットとしたdual energyのプロトタイプとしては“DE Iron VNC”があるが,このプロトタイプでは鉄成分を定量することができるため,鉄代謝異常を呈するヘモクロマトーシスへの応用など,肝臓の鉄濃度を直接モニタリングする手法として注目されている。今後のdual energyイメージングの役割を考えた場合,定量的な画像情報を提供できることに期待が集まるが,DE Iron VNCもその役割を担う一つのアプリケーションとして開発されている。
◎
dual energyイメージングの臨床的有用性は着実に証明されており,今後もさらなる臨床応用が期待される。現在,期待が高まる定量値としての運用を行うには精度の高い撮影が求められるが,そのベネフィットを広く普及させるためにもdual energyイメージングの解析精度向上が重要と考える。
●参考文献
1)Krauss, B., et al. : The importance of spectral separation ; An assessment of dual-energy spectral separation for quantitative ability and dose efficiency. Invest. Radiol., 50・2, 114〜118, 2015.
2)Gabbai, M., et al. : Spectral material characterization with dual-energy CT ; Comparison of commercial and investigative technologies in phantoms. Acta Radiol., 56・8, 960〜969, 2015.
3)Petritsch, B., et al. : Vertebral Compression Fractures ; Third-Generation Dual-Energy CT for Detection of Bone Marrow Edema at Visual and Quantitative Analyses. Radiology, 284・1, 161〜168, 2017.
4)Kosmala, A., et al. : Multiple Myeloma and Dual-Energy CT ; Diagnostic Accuracy of Virtual Noncalcium Technique for Detection of Bone Marrow Infiltration of the Spine and Pelvis. Radiology, 286・1, 205〜213, 2018.
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