技術解説(シーメンスヘルスケア)
2018年3月号
Dual Energy Imagingの技術的特徴
Expanding Precision Medicine through Innovation
SOMATOM CTが実現するTrue Dual Energy Imaging
藤原 知子(シーメンスヘルスケア(株)CT事業部)
近年,改めて注目を集めるdual energy imagingであるが,その研究の歴史は長く,1980年代にはすでにKalenderらにより高速スイッチング方式を利用した「SOMATOM DR」による骨塩定量への応用が報告されている1)。dual energy imagingは,異なるX線エネルギーにおいて物質の減弱係数が変化する現象を利用したイメージングであるが,その名のとおり,2種類の異なるX線エネルギーを用いて得られたデータを解析する。
2種類の異なるX線エネルギーデータを収集する方法はさまざまであり,シーメンスの開発の歴史においても前述の「高速スイッチング方式」や「2層検出器方式」などの研究を経て,さまざまな課題を克服した上で,2005年「Dual Source方式」をリリースするに至った(図1)。以降多くのエビデンスを重ねながら,今日ではSingle Source方式において“TwinBeam Dual Energy”や“Dual Spiral Dual Energy”といった方式も採用している。
シーメンスが提供する,これらすべての方式に共通する開発テーマは“True Dual Energy”であり,single energyによる撮影と比べて画質や被ばくに妥協がないこと,2種類のエネルギーの差(energy separation)を確保することで解析精度を上げること,日常検査のワークフローにスムーズに導入できることなどをコンセプトに掲げている。
現在では,主だったCTベンダーよりdual energy imagingが可能なシステムが出そろい,主に仮想単色X線画像(virtual monoenergetic image, virtual monochromatic image)がトピックとなっている。造影コントラストの向上や金属アーチファクトの低減など,ますますdual energy imagingの裾野が広がることを期待している。
■True Dual Energy
シーメンスのdual energyが臨床にスムーズに導入された背景には,やはりTrue Dual Energyのコンセプトが強く影響していると考えられる。新しいイメージング法を導入する際,現在のルーチンワークフローを大きく妨げる類のものは一般に受け入れ難く,その点dual energy撮影を行ってもsingle energy撮影に比べて被ばくが増えず,また,読影用画像を別に撮影するという手間や2度の被ばくを課すこともないという点は,大きなアドバンテージと言える。
さらに,energy separationを確保することによって,仮想単色X線画像にとどまらず,dual energy imagingの最大の特徴とも言える物質の組成情報の特定を高い精度で実現している。例えば,dual energy imagingを利用して腎結石の組成を評価し,その後の治療方針に役立てることができる。また,造影データから造影成分(ヨード成分)を抽出し,集積したヨード濃度を算出したり,造影データから造影成分を除くことで仮想単純画像(virtual non-contrast image)を作成したりすることも可能である。
そのほか,肺血栓塞栓症における血流状態を観察する“DE Lung PBV(Perfused Blood Volume)”や,頭部血管治療後の新生出血の有無を確認する“DE Brain Hemorrhage”なども,当初より臨床で活用されているアプリケーションの1つである。また,最近では,単に論文実績や臨床導入という枠を超えて,American College of Rheumatology(ACR)と European League Against Rheumatism(EULAR)が共同で作成した『2015 Gout Classification Criteria』において,“DE Gout”の信頼性が認められた2)。スコア8以上で痛風と分類される中で,DE Goutで物質弁別された尿酸の沈着が検出されると,分類基準の半分にも及ぶスコア4を得るに至っている。
■Dual energy imagingの可能性
dual energy imagingによる物質弁別の対象は,これまでのヨードや尿酸に加えて,鉄,脂肪,カルシウムなどの検討が進んでいる3),4)。すでに実臨床で有用なツールとして認識されている“DE Bone Marrow”では,カルシウムを抑制(virtual non-calcium)することで,single energyでは描出できなかった骨髄の浮腫性病変を検出することが可能である5),6)。例えば,脊椎の圧迫骨折に関しては,骨折の新旧を鑑別する手法としての有用性が示されており,MRIにおける脂肪抑制画像で見られるような骨髄浮腫の描出が可能である(図2)。外傷患者をすべてMRI firstで精査するには,検査時間やモーションアーチファクトなどの課題もあるため,CTでも同様に骨髄浮腫を描出できることはdual energy imagingの普及を考える上でも有益である。
■“Rapid Results” ─zero click dual energy
dual energy imagingがさらに普及していくためには,その解析が日々のCT検査から読影業務の流れの中にうまく組み入れられることも重要なポイントである。そこで,生成される多量のデータセットを効率的に処理し,価値ある付加情報をよりスムーズに日常臨床に届ける手段として,Rapid Resultsが開発された(図3)。Rapid Resultsは,ユーザーのマニュアル操作を介さない新しい解析方法であり,事前にプリセットされたルールに基づいて「syngo.via」が自動的にdual energy解析を実施し,その結果画像をPACSに送信する仕組みとなっている。例えば,現在,国内の多くの施設で日常的に実施されている肺血栓塞栓症患者に対するdual energy imagingを例に説明すると,Rapid Resultsを利用すれば,高低2つのエネルギーデータセットをsyngo.viaに送信するだけで,残りのpost processingがすべて自動的に実施される。まず,“DE Lung Analysis”によって肺野のヨード分布画像が作成され,続いて,事前に定義したスライス厚とスライス間隔による結果画像がアキシャル画像やコロナル画像,サジタル画像として作成される。その後,指定されたPACSにこれら結果画像が自動送信される。Rapid Resultsを用いることで,日常検査のワークフローを変更することなくdual energy imagingによる付加価値を活用することが可能となっている。
◎
現状各ベンダーからリリースされているものは,呼称はさまざまであるが,dual energy imaging(2種類の異なるX線エネルギーデータを用いた解析)であり,次に期待されるmulti energy imagingへ移行する際には,やはりphoton-counting detector CTの登場が必要であろう。multi energy imagingという道だけでなく,high resolution CTとしての側面も持つphoton-counting detector CTは,さまざまな面でその可能性を示す研究が進んでおり,寄せられる期待は大きい7)〜10)。
一方で,ますます日常臨床での活用が期待されるdual energy imagingについても,さらに適応範囲を広げるべく,今後も検討を進めていきたい。
●参考文献
1)Kalender, W.A., et al. : Vertebral bone mineral analysis ; An integrated approach with CT. Radiology, 164・2, 419〜423, 1987.
2)Neogi, T., et al. : 2015 Gout Classification Criteria ; An American College of Rheumatology/European League Against Rheumatism collaborative initiative. Arthritis Rheumatol., 67, 10・2557〜2568, 2015.
3)Abadia, A.F., et al. : Spatial Distribution of Iron Within the Normal Human Liver Using Dual-Source Dual-Energy CT Imaging. Invest. Radiol., 52, 11・693〜700, 2017.
4)Martin, S.S., et al. : Iodine and Fat Quantification for Differentiation of Adrenal Gland Adenomas From Metastases Using Third-Generation Dual-Source Dual-Energy Computed Tomography. Invest. Radiol., 53, 173〜178, 2018.
5)Bierry, G., et al. : Dual-energy CT in vertebral compression fractures ; Performance of visual and quantitative analysis for bone marrow edema demonstration with comparison to MRI. Skeletal Radiol., 43, 4・485〜492, 2014.
6)Wang, C.K., et al. : Bone marrow edema in vertebral compression fractures ; Detection with dual-energy CT. Radiology, 269・2,
525〜533.
7)Yu, Z., et al. : Initial results from a prototype whole-body photon-counting computed tomography system. Proc. SPIE Int. Soc. Opt. Eng., 9412, 2015.
8) Gutjahr, R., et al. : Human Imaging With Photon Counting-Based Computed Tomography at Clinical Dose Levels ; Contrast-to-Noise Ratio and Cadaver Studies. Invest. Radiol., 51, 7・421〜429, 2016.
9)Symons, R., et al. : Feasibility of Dose-reduced Chest CT with Photon-counting Detectors ; Initial Results in Humans. Radiology, 285, 3・980〜989, 2017.
10)Symons, R., et al. : Photon-Counting Computed Tomography for Vascular Imaging of the Head and Neck ; First In Vivo Human Results. Invest. Radiol., 53, 135〜142, 2018.
●問い合わせ先
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