技術解説(シーメンスヘルスケア)
2015年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
心臓領域におけるDual Source CTの最新技術
日和佐 剛(CTビジネスマネージメント部)
近年,CT装置の進歩・発展により低電圧撮影と逐次近似画像再構成法を併用した低侵襲な冠動脈CT検査が臨床応用され,一つの確立した検査方法として広がりを見せている。一方で,冠動脈病変の形態学的な情報に加え,心筋の血行動態を評価したいという臨床的ニーズやステント内のプラーク性状評価,石灰化除去など,機能・性状面へのアプローチが積極的に行われるようになっている。本稿では,心臓領域におけるシーメンスの撮影技術と解析方法について,Dual Source CT(以下,DSCT)の最新技術を概説したい。
■3rd generation DSCT
低侵襲な冠動脈CT検査を実施するに当たり,被ばく低減と造影剤使用量を低減することへの期待は依然として高い。特に,血管造影検査においては管電圧を最適化することによる恩恵が大きいため,積極的に低電圧撮影が行われている。第三世代のDSCTである「SOMATOM Force」では,新規に開発されたX線管の「VECTRON」により,最大1300mAの管電流に加え,管電圧に関しては70〜150kVpの範囲を10kVp間隔で選択することができる。このため,検査目的と被検者の体格に合わせ,より柔軟に管電圧を選択することが可能である。さらには,成人,体格の大きな被検者においても70kVp,80kVpを用いた低電圧撮影が実践できるようになった1)。
また,第二世代のDSCTと比べ約1.6倍の737mm/sという撮影スピードを実現する“Turbo Flash Spiral”は,66ms(ハーフ再構成)という高い時間分解能と相まって,その適用範囲を広げている。心臓の壁運動速度が最も遅くなる一瞬のタイミングをねらい,心臓全体を0.17秒程度でスキャンすることが可能となる。撮影における被検者の心拍数は75bpmまで適用することができ2),さらには冠動脈CTにおいて一つのハードルとされる息止め不良に対しても,息止めが必要絶対条件とならない可能性を見出しており,動きによる影響を最小化した撮影が可能である(図1)。
■心臓領域へのTrue Dual Energyイメージング
シーメンスは,single energyによる撮影と比べて画質や被ばくの面で妥協がないdual energy(以下,DE)イメージングを実践している。被検者の体格や撮影部位に合わせた最適な管電流調整を行う“CARE Dose4D”を基本とし,モデルベースの逐次近似画像再構成法である“SAFIRE(Sinogram Affirmed Iterative Reconstruction)”や“ADMIRE(Advanced Modeled Iterative Reconstruction)”を併用することにより,画質を維持しながら被ばく低減を実現している。心臓領域において最も重要とされる時間分解能については,DE専用のアルゴリズムを搭載しており3),DE解析に用いる2つの異なるエネルギーデータセットの取得と同時に,DSCTの特長を生かした66ms(SOMATOM Force)または75ms(SOMATOM Definition Flash)の高い時間分解能を維持した画像再構成を行うことができる。虚血心筋の描出や遅延造影による心筋バイアビリティの評価と併せ4),冠動脈の形態評価においても制限を受けることがない。
さらに,DEはステント内腔の評価や石灰化病変に対して応用されている。冠動脈のステントや石灰化領域の内腔評価は,X線CTの空間分解能の限界や拍動による動き,ステントや石灰化によるビームハードニングなどの影響のため正確な診断が困難とされている。特に,ステント内のプラーク性状評価については,ステント内腔壁の低濃度付着物を金属アーチファクトと混同しやすく,評価不能とされることも珍しくない。現在,DE Monoenergeticによる仮想単色エネルギー画像を用いることで,石灰化や金属からのアーチファクトと部分体積効果によるCT値の変動,石灰化・金属の膨張を抑えた評価が可能となっている(図2)。これにより,従来困難とされてきたステント内のプラーク性状評価について有用性が示されている5)。また,冠動脈の石灰化領域における内腔評価については,骨とヨード造影剤を識別するTwo-material decompositionアルゴリズムを用いる手法と,ヨード造影剤を抽出,定量化するThree-material decompositionアルゴリズムを用いることによって,ヨード成分から石灰化成分を分離することが可能である(図3)。いずれの手法においてもハードウェアの発展とともに着実に精度の向上を図っており,エビデンスの積み重ねと同時に,今後の冠動脈イメージングの多様化を期待させるアプローチとなっている。
■DSCTによるダイナミック負荷心筋パフュージョン
シーメンスのダイナミック負荷心筋パフュージョンは,2つのテーブル位置で交互に心電図同期撮影を行い,被ばくとサンプリング数を最適化している。CT値変化の緩やかな心筋に対しては交互にサンプリングを行うのに対して,急激なCT値変化が起こる大動脈についてはダブルサンプリングを行っており,線量を抑えたダイナミックデータの取得を実現している。
画像再構成にはTSFF(targeted spatial frequency filtration)アルゴリズムを採用しており,高い時間分解能を維持したまま心筋のCT値を安定化することが可能である6)。この再構成アルゴリズムは,66ms(SOMATOM Force)または75ms(SOMATOM Definition Flash)の時間分解能と,360°データを利用したフル再構成を組み合わせた処理を行っており,ハーフ再構成のデータ収集アングルに起因するアーチファクトを抑制することができる。正確な心筋のCT値を計測することは,再現性の高い定量解析につながる重要な要素であると考えている。
また,SOMATOM Forceでは撮影範囲が110mmに拡大されており,簡便に心筋全体をとらえることが可能となっている(図4)。加えて,高出力のX線管であるVECTRONにより70kVpを用いたダイナミック負荷心筋パフュージョン検査が可能となっており,3〜5mSv程度まで被ばくを低減することできる。低電圧撮影で問題となる電気ノイズに関しては,検出器のアナログ回路を排除したフルデジタルの検出器である「Stellar InfinityDetector」を採用しており,低電圧撮影によるコントラスト上昇を有効に活用することができる。
◎
装置の性能向上に伴い,心臓CTは低侵襲であることと同時に多様性が求められるようになっている。シーメンスは,これからも一貫してRight Dose(適正線量)による心臓検査の実現と,臨床ニーズに対応した正確な形態情報,機能・性状面へのさらなるアプローチを進めていきたい。
●参考文献
1)Meinel, F.G., et al. : Image quality and radiation dose of low tube voltage 3rd generation dual-source coronary CT angiography in obese patients ; A phantom study. Eur. Radiol., 24・7, 1643〜1650, 2014.
2)Morsbach, F., et al. : Performance of turbo high-pitch dual-source CT for coronary CT angiography ; First ex vivo and patient experience. Eur. Radiol., 24・8, 1889〜1895, 2014.
3)Nance, J.W., et al. : High-Temporal Resolution Dual-Energy Computed Tomography of the Heart Using a Novel Hybrid Image Reconstruction Algorithm ; Initial Experience. J. Comput. Assist. Tomogr., 35・1, 119〜125, 2011.
4)Hamilton-Craig, C., et al. : Myocardial Viability by Dual-Energy Delayed Enhancement Computed Tomography. JACC, 4・2, 207〜208, 2011.
5)Okayama, S., et al. : Optimization of energy level for coronary angiography with dual-energy and dual-source computed tomography. Int. J. Cardiovasc. Imaging, 28・4, 901〜909, 2012.
6)Ramirez-Giraldo, J.C., et al. : A strategy to decrease partial scan reconstruction artifacts in myocardial perfusion CT ; Phantom and in vivo evaluation. Med. Phys., 39・1, 214〜223, 2012.
●問い合わせ先
シーメンス・ジャパン株式会社
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