技術解説(シーメンスヘルスケア)
2014年9月号
Step up MRI 2014-MRI技術開発の最前線
VEバージョンソフトウエアの新機能について
石川 啓介(イメージング&セラピー事業本部MRビジネスマネージメント部)
本稿では,シーメンス画像診断装置の共通プラットフォームである“syngo”インターフェイスをベースとしたソフトウエア“VE11”に搭載された新しい撮像アプリケーション,そして,解析ソフトウエアについて解説する。
VE11には,“Quiet Suite”をはじめとする新機能が搭載されているが,本稿では,肝臓の造影検査への新しいアプローチ“FREEZEit=TWIST-VIBE&StarVIBE”,新しい心機能解析“MyoMaps(マイヨ・マップス)”,メタルアーチファクト低減撮像法“Advanced WARP”,そして,局所励起撮像法をさらに進化させる“TimTX Acceleration”について説明する。
■FREEZEit=TWIST-VIBE & StarVIBE
─肝臓造影検査への新しいアプローチ
FREEZEitは,肝臓の造影検査におけるさまざまな状況下で高品質な撮像画像を得るための新しいコンセプト機能である。FREEZEitには,“TWIST-VIBE”と“StarVIBE”の新しい撮像シーケンスが含まれている。
まず,TWIST-VIBEについてであるが,その目的は高い時間分解能の3Dダイナミック撮像にある。造影4D-MRAを撮像するためのTWIST法と,3Dダイナミック撮像法であるVIBE法を組み合わせた,新しい3Dダイナミック撮像法である。TWIST法は,低周波成分と高周波成分を別々に,交互に信号収集することによって時間分解能を上げるためのエコーシェアリング型の造影4D-MRA撮像である。VIBE法の撮像においてエコーシェアリング型の信号収集をすることによって,さらに高い時間分解能の3Dダイナミック撮像が可能になる。通常3Dダイナミック検査の場合,長時間の息止め検査が必要で,被検者に対する負担が大きかった。また,その撮像画像の質は,被検者の状態や検査環境への依存度が高かった。TWIST-VIBEによって,さらに短い息止め時間での高画質撮像を可能とし,短時間での動脈相のダイナミック撮像などが安定して行えるようになる(図1)。
StarVIBEは,VIBE法にラジアルサンプリング法を応用することによって,動きに強い3D造影撮像を行うことを目的としている。k-space上のラジアルサンプリングによる動き補正の効能は広く知られているが,3D造影撮像に応用することで,さまざまな状況下での造影検査を可能にする。特に,小児検査やご高齢の方の検査などで息止め管理が難しい状況下でも,安定して造影検査が行えるよう考えられた。撮像時間は2〜3分程度で(被検者の状態により異なる),息止めのない自由呼吸下での造影検査が可能になり,モーションアーチファクトが大幅に低減された高画質な平衡相の造影画像の取得が可能である(図2)。
■MyoMaps
─心臓MRI検査における新しい定量解析法
心臓MRI検査において,撮像手技はさまざまな進化をしており,安定して撮像ができる検査になっているが,特に定量解析という点においては,大きな改善が要求されてきた分野でもある。
MyoMapsは,シーメンスの心臓MRI検査における新しいアプローチである。ピクセルベースのカラーマッピング処理により,造影心筋検査において,さらに精度の高い画像診断が可能になる。MyoMapsは,MOLLI法(MOdified Look-Locker Inversion Recovery)にHeart Freeze法(ハートフリーズ法:retrospective motion correction)を併用することによって,ピクセルベースでのT1マッピング,T2マッピング,T2*マッピングのそれぞれのカラーマッピング処理が可能になる。ピクセルベースでの信号強度のカラーマッピング解析法は,従来の造影コントラスト診断に比べ,はるかに微細な病変構造が診断でき,精度の高い心筋造影画像診断が可能になる。
T1 mapでは,T1値の経時的変化の観察や,肥大型心筋症(HCM),心筋梗塞(MI),線維化に伴う重症度の評価などさまざまな疾患において,その有用性が期待されている。
T2 mapでは,心筋の浮腫や心内膜下の評価において,各種アーチファクトに阻害されにくい,精度の高い定量的な解析が期待できる。
また,“Cardiac Dot engine(カーディアック・ドット・エンジン)”に搭載されたHeart Freeze法によって,撮像画像に対して自動的に動き補正を行うことが可能になる。MyoMapsによるカラーマッピング処理を行う前に,Heart Freeze法による動き補正を行うことによって,より精度の高いカラーマッピング処理が可能となる。
心臓心筋造影画像診断において,従来法のようなグレイスケールのコントラスト変化による機能診断を行う方法から,信号値に準拠したピクセルベースでのカラーマッピング解析による心臓心筋の機能解析および定量解析を可能とする(図3)。
■Advanced WARP
─メタルアーチファクト低減の新しい撮像法
人工関節などのインプラント治療を受けた被検者のMR撮像において,メタルアーチファクトなどによる画像の劣化が以前より問題視されていた。メタルアーチファクトの主な原因は,インプラントなどによる生体内金属によって静磁場が乱れ,位相情報などの乱れによって,結果的に信号の位置情報にズレが生じることによる。その位置情報のズレが,メタルアーチファクトとして撮像スライス面内・方向に出現する。収集バンド幅の設定などの撮像パラメータの調整などで対応してきたが,常に満足した結果を得られなかった。
シーメンスは,VEバージョンソフトウエアのリリースによって,WARP法(最適な撮像収集バンド幅の調整・設定機能)とVAT法(view angle tiltingによる撮像スライス面内における歪み補正機能)により,撮像スライス面内におけるメタルアーチファクトを低減させることが可能となった。
VEバージョンソフトウエアに搭載されるAdvanced WARPは,WARP法とVAT法の撮像シーケンスに加えて,SEMAC法を搭載することにより,撮像スライス面内・方向へのメタルアーチファクトの低減が可能になった。各関節のインプラント撮像に対して,最適な撮像収集バンド幅の調整・設定に加えて,撮像スライス方向に対するリードアウト・エンコード傾斜磁場の最適な印加による信号の位置情報の補正が可能になった(TSEシーケンス)。Advanced WARPによって,撮像スライス面内・方向に対してのメタルアーチファクトの低減を可能にした。
これにより,インプラントそのものは無信号で描出されることに変わりないが,従来法のようにメタルアーチファクトで診断ができないという状況は,大きく改善できると思われる。Advanced WARPの利用によって,術後のインプラント埋入部周辺組織の炎症などの診断において,より高精細に診断できることが期待できる(図4)。
■TimTX Acceleration
─ズームイメージングのさらなる進化
“syngo ZOOMit(以下,ZOOMit)”は,MR撮像におけるズームイメージングを可能とする。一般的には,局所励起法および局所データサンプリング法として知られている。その技術により,関心領域だけを選択的に励起し画像化することによって,さらなる撮像時間の短縮,各種画像アーチファクトを低減し,画像診断能を大きく向上させることができる。現在のところEPI法とSPACE法に対しての応用が可能である(図5)。
局所励起法によって,従来のMR撮像で問題となっていた空間分解能を上げる撮像に伴う撮像時間の延長や,各種画像アーチファクト,EPI法での歪みなどの問題解決が可能になる。このアプリケーションにおいて,EPI法に加えてSPACE法による3Dイメージングを得られることが,臨床上非常に重要になると考えられる。SPACE法は,variable flip angle型のTSE法であり,その特徴は3D撮像法でありながら,マルチコントラスト撮像が可能であるという点である。ZOOMitでSPACE法が利用できることにより,局所励起法におけるマルチコントラスト3D撮像が可能となる(図6)。
また,VE11において,ZOOMitにTimTX Acceleration機能が追加された。局所励起法であるZOOMitにパラレル撮像技術を併用することにより,従来のZOOMit撮像と比較して,より短いTEの設定が可能となり,さらに高いSNRを確保することが可能である。TimTX Acceleration機能の追加によって,ズームイメージングによるさまざまな撮像上の長所を利用できる上に,従来法に比べてSNRが最大で20%上昇した高画質なズームイメージングを可能としている(図7)。
◎
このようにVEバージョンソフトウエアには,従来のMRI検査を大きく変革する可能性のある各種アプリケーションが搭載されている。これらのアプリケーションは,最新の「MAGNETOM」シリーズに搭載された先端のハードウエアによって支えられている。また,現行のハードウエアを大きく変更する必要なく,これらの新しいアプリケーションが利用できるのも,VEバージョンソフトウエアの大きな特長になっている。
●問い合わせ先
シーメンス・ジャパン株式会社
コミュニケーション部
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