技術解説(シーメンスヘルスケア)

2013年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

シーメンス社製CTにおけるワンステップアップの被ばく低減アプローチ

藤原 知子(CTビジネスマネージメント部)

Cardiac CT Imagingは,その黎明期より近年まで,CT検査の中で被ばくが多い検査であったが,さまざまな被ばく低減方法が開発され,いまでは 1 mSv未満での検査実施も可能となっている。Cardiac CT Imagingに特化した代表的な被ばく低減機構としては,まず“Cardiac Bowtie fi lter”や“ECG-pulsing”機能が挙げられる。最近では,Cardiac CT Imagingは特別な撮影ではなく,“CARE Dose4D”(自動管電流調整機構)や “CARE kV”(自動管電圧最適化機構),“SAFIRE(Sinogram Affirmed Iterative Reconstruction)”(モデルベース逐次近似画像再構成法)といった,一般的な被ばく低減機構なども併用可能である。
本稿では,シーメンスが開発したさまざまな被ばく低減機能の中から,特にユニークな機能を中心に紹介する。

■ CARE kV

CARE kVを発表した RSNA 2010(2010年北米放射線学会)まで,CTAEC(auto exposure control)とは「自動“管電流”調整機構」を意味し,自動管電圧調整への対応は不可とされていた。
しかし,被ばく低減を推進するには,管電圧を最適化することが非常に大きな役割を果たすという研究が以前よりなされていた1)。そこで,シーメンスは,自動管電圧調整のソリューションとしてCARE kVを開発し,「SOMATOMDefinition」シリーズに標準搭載した。CARE kVは,CARE Dose4Dとインテグレートされた機能であり,被検者の体格はもちろんのこと,検査内容の特性(非造影,造影等)も考慮して最適なCNR(contrast to noise ratio)を実現するための,管電流および管電圧の組み合わせを,装置側で自動的に導き出す機構である2)。CARE kVの発表から2年以上たつが,いまだにシーメンスのみの機能であることは特筆すべき点である*1

■ SAFIRE(Sinogram Affi rmed Iterative Reconstruction)

raw dataを使用したモデルベース逐次近似画像再構成法であるSAFIREは,すでに広く実臨床に普及している3)。また,CTにおける逐次近似画像再構成法がホットトピックとなって久しいが,SAFIREは現時点でもなお,“被ばく低減率”についての数値記載(最大低減率60%*2)をFDA(Food and DrugAdministration:米国食品医薬品局)で認可された,唯一のiterative reconstruction methodsである*1
2012年春に発売を開始した最新型64スライスCT「SOMATOM Perspective」でも使用可能であり,さまざまな検査に適応されている(図1)。

図1 2012年春に発売を開始した最新型64スライスCT「SOMATOM Perspective」による心臓 CT画像

図1 2012年春に発売を開始した最新型64スライスCT
「SOMATOM Perspective」による心臓CT画像
a:Curved MPR b:Volume Rendering c:Curved MPR
バイパス後フォローアップ症例。SAFIREを使用し,被ばく低減を推進。

 

■ Stellar Detector

“Stellar Detector”は,検出器に必要な半導体やADC(アナログ-デジタル変換器),加えてそれらを接続する回路などの電子部品をフォトダイオードと蒸着し,完全に一体化することでアナログ部分を実質的になくし,検出器内部で発生する電気ノイズを最小限に抑えることが可能となる次世代型の検出器である。ソフトウエアだけでなく,ハードウエアレベルでのノイズ低減が可能となることで,すべての撮影において,これまでよりさらに積極的に低線量撮影プロトコルの選択を行うことができ,CT検査全体の低線量撮影化への推進力となりうる。 Stellar Detectorは,1管球CTの最上位機種である「SOMATOM Definition Edge」に初めて搭載され(図2),次いで2管球CT「SOMATOM Definition Flash」にも搭載が始まっている。

図2  ハードウエア面からも被ばく低減を推し進めるべく開発された次世代型検出器 Stellar Detectorを搭載したSOMATOM Definition EdgeのCT画像

図2  ハードウエア面からも被ばく低減を推し進めるべく開発された
次世代型検出器 Stellar Detectorを搭載したSOMATOM Definition EdgeのCT画像
胸痛プロトコル:80kV,124mAs,CTDIvol:2.3mGy

 

■ ECG-pulsing with MinDose

ECG-pulsingは,心電図同期撮影において,冠動脈の再構成を行う心時相に対して設定の100%線量を,それ以外の部分(ejection fractionの計算等に使用)に対しては線量低減を行う機能である。“MinDose”機能は,この線量低減部分を設定線量の4%まで低減することが可能である。

■ CARE Child

シーメンスの高性能X線管球「Straton」では,業界で唯一 70 kV撮影“CARE Child”が可能であり*1,すでに臨床使用されている。CARE Dose4DやCAREkV,SAFIREなどの機能と併用することで,乳幼児や小児への被ばく低減に大きく寄与する。

■ Heart Perfusion,4D Noise Reduction

最近のCardiac CT Imagingにおいては,冠動脈病変だけでなく,心筋の評価を行いたいという臨床的なニーズがある。心臓および冠動脈の形態的,機能的情報を包括的に取得する comprehensive Cardiac CT Imagingが注目を集めている。
より正確に心筋虚血領域の判定を行うには,ダイナミックスキャンによる心筋パフュージョン検査が必要と言えるが,これを実践するには,解決しなくてはならないいくつかの課題が存在する。 まず,時間分解能の高さはもちろんのこと,CT値の信頼性も重要なファクターとなる。通常のハーフ再構成は,時間分解能は高い一方,ハーフ再構成特有のアーチファクトが心筋CT値の変動要因となり,心筋血流の評価において大きな問題となる。これに対し,シーメンスの“Heart Perfusion”(心電図同期シャトルスキャンモード)は,75 msという高い時間分解能と,360°フル再構成を組み合わせた特別な画像再構成法“PSAR(Partial Scan Artifact Reduction)”を用いることで,時間分解能の高さと心筋CT値の安定化を両立させることが可能であり,信頼性の高い解析結果を得ることができる4)。被ばく低減に加えて,「アーチファクトに汚染されない正確なCT値」を実現することで「正確な解析」につなげることは,臨床応用において重要なファクターであると考える。
経時的に撮影を行うダイナミックスキャンにおいても,専用の被ばく低減アプリケーションである“4D Noise Reduction”(時間軸データにおけるノイズリダクション法)を搭載して被ばく低減に努めており,30秒間のダイナミックデータを7mSv程度の被ばくで取得可能である(図3)。

図3  Heart Perfusion(心電図同期シャトルスキャンモード)を用いた ダイナミック負荷心筋パフュージョン解析結果

図3  Heart Perfusion(心電図同期シャトルスキャンモード)を用いた
ダイナミック負荷心筋パフュージョン解析結果
PSARと4D Noise Reductionを用いることで,被ばく低減も考慮しながら,より精度の高い心筋血流評価を行う。

 

シーメンスでは,CT装置の開発において,これまで一貫して“ALARA(AsLow as Reasonably Achievable)原則に則ったLow Dose”を念頭に置いてきた。しかし,昨今のCTを取り巻く環境では,このALARA原則をなおざりにして低線量を競うような状況が,一部で生じていることを懸念している。そこで,われわれはRSNA 2012において,“Right Dose”コンセプトを提唱し,単にLowDoseにこだわるのではなく,臨床目的を満たす画質を担保した“適正線量”で検査を行うことを改めて訴求した。これまでの“ALARA原則に則った Low Dose”というコンセプトを一言で置き換えた形で,われわれの理念としては普遍のものであり,今後とも,この理念に則って装置開発を進める所存である。

*1 2013年3月現在
*2 自社従来比

●参考文献
1)Bernhard, B., et al. : Impact of a reduced tube voltage on CT angiography and radiation dose. J. Am. Coll. Cardiol. Imaging, 2・8, 940〜 946, 2009.
2)Winklehner, A. et al. : Automated attenuation-based tube potential selection for thoracoabdominal computed tomography angiography, improved dose effectiveness. Invest. Radiol., 46・12, 767〜 773, 2011.
3)Moscariello, A., et al. : Coronary CT angiography ; Image quality, diagnostic accuracy, and potential for radiation dose reduction using a novel iterative image reconstruction technique-comparison with traditional filtered back projection. Eur. Radiol., 21・10, 2130〜 2138, 2011.
4)Stenner, P., et al. : Partial scan artifactreduction(PSAR)for the assessment of cardiac perfusion in dynamic phase-correlated CT. Med. Phys., 36・12, 5683〜 5694, 2009.

 

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