技術解説(フィリップス・ジャパン)
2023年4月号
Cardiac Imaging 2023 ITのCutting edge
「IntelliSpace Portal 12」の心臓解析アプリケーション─心臓を中心とした循環器領域における技術解説
平久保 拓[(株)フィリップス・ジャパンEDIビジネスマーケティングスペシャリスト]
フィリップスのIT分野においては,PACS「Vue PACS」,医用画像ワークステーション「IntelliSpace Portal(ISP)12」,心血管領域用画像・情報管理システム(動画サーバ「IntelliSpace Cardiovascular」)など,幅広く臨床をカバーする製品を提供している。その中でISPは,モダリティ専用画像処理ワークステーションから現在のマルチモダリティ(CT,MRI,核医学),マルチベンダーワークステーションへと発展してきた。スタンドアローン型・サーバ型が選択可能で,クライアント数の制限はなく,同時アクセスライセンス数による管理ができ,施設に適した運用が可能である。循環器領域,脳神経領域,オンコロジー領域はもちろん,急性期に特化したアプリケーションなど,幅広い70を超えるアプリケーションを持ち,多岐にわたる診療領域で活用されている。なかでもISP 12は循環器領域のアプリケーションが豊富で,既存ソフトウエアが強化され,新規に搭載されたアプリケーションも多い。有用性のあるアプリケーションとして,「Comprehensive Cardiac Analysis(CCA)」(冠動脈CT画像の解析),「CT Calcium Scoring」(心臓カルシウム・スコアリング解析),「Cardiac MR Analysis」(総合的心臓解析),「MR Caas 4D flow Artery & Heart」などのラインアップをそろえている。
■CCAを使用した冠動脈CT画像解析
CCAは,名前のとおり総合的に心臓造影画像の画像処理から解析が行えるアプリケーションである。過去のバージョンでは,冠動脈の抽出に多くの時間をかけ,多い場合10本以上を手作業でトレースし,画像を作成していた。ISP 12では,従来のアルゴリズムから畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network:CNN)ベースの血管抽出アルゴリズムを強化し,解剖学的3Dモデリングを用いて心臓の構造を解析することができる。それにより,大動脈,心室,心房などを画像読み込み時に自動的に認識(セグメンテーション)し,血管トレースも高精度に最大12枝を抽出できる。さらに,一連で複数の心位相の画像を読み込み,同時に解析処理を実行することで,心機能解析も行い,冠動脈解析〜心機能解析をワンクリックで行うことが可能である。また,弊社のSpectral CT「IQon Spectral CT」「Spectral CT 7500」の画像を利用した場合は,SBI(Spectral Based Image)と呼ばれるDICOM形式のファイルをそのまま読み込むことが可能で(図1),造影効果が十分に得られなかったケースや造影剤投与量を減らさざるを得ない場合に1),2),仮想単色X線画像のX線光子エネルギーをインタラクティブに変更でき,血管のセグメンテーションの結果を改善することができる。コンソール上で複数の仮想X線エネルギー画像の再構成を必要としないため,適切な仮想X線画像をリアルタイムに見つけることが可能で,より良いワークフロー環境を提供できる。また,「CT Multiphase Analysis」を利用すれば,通常は単純画像と造影画像からextracelluar volume fraction(ECV)3),arterial enhanced fraction(AEF)の解析結果を得るが,SBIを利用することで,造影画像から仮想単純画像を計算し,ECV3),AEFの解析結果を得ることができる。
■人工知能(AI)を利用した心筋トレース機能
心臓MRIは時間がかかる検査とされてきた。近年は,フィリップスのMRI高速撮像技術の「Compressed SENSE」や「SmartSpeed」により撮像時間の短縮は可能となったが,解析には多くの時間がかかることがワークフロー上の課題であった(解析者の負担となっていることも少なくない)。最新のISP 12から,心機能解析・遅延造影の解析アプリケーションであるCardiac MR Analysisの「LV & RV Function」に,AI技術が搭載された。AI技術は機械学習であり,「教師あり学習」を用いている。CNN4),5)と呼ばれる画像認識のAIモデルと,それに続くdeformable shape-constrained modelで構成されている。「教師あり学習」は教師となるデータを基に学習するため,精度を上げるには大量の画像データが必要とされるが,AIモデルの堅牢性を高めるため,欧州6施設の幅広い条件で撮像されたデータを用いてAIモデルの学習・評価を行い開発した。このAI技術により左心室(LV),右心室(RV)の内腔,外腔の自動トレースを実現し,解析時間を大幅に短縮できるようになった(図2)。また,事前に設定することで,ISPに画像データ受信後からバックグラウンドで自動解析をしておくことが可能で,アプリケーションを起動すると,解析が終了している状態から画面が始まる。解析者は拡張期(ED)/収縮期(ES)フェーズと心室の自動トレースの確認作業のみで解析結果を得ることができ,修正が必要な場合でも多くの時間は必要とせず,PACSやレポートに転送できる。結果,従来約20分かかる心機能解析を,5分以内で終えることができるようになった。また,トレース作業にかかる時間や精度は解析者の経験値によって大きく差が出るため,自動トレースになることで解析結果の個人差も低減できる。これまで時間に追われ検査と解析を同時進行していたユーザーも,検査に集中することができ,患者ファーストな環境を提供できる。
■MR 4D FlowとMR Strain解析
ISP 12から,Pie Medical社の「MR Caas 4D flow Artery & Heart」「CaaS MR Strain(以下,MR Strain)」をISP上で提供している(図3)。MR Caas 4D flow Arteryは大動脈血管を対象にしたアプリケーションで,大動脈瘤・解離の疾患を予測したり,外科的な治療後のフォローアップなどへの応用が提言されており,血流の視覚化と3Dでflowの計測を行える。MR Caas 4D flow Heartは心臓弁膜症,先天性心疾患などのケースで活用が期待され6),4つの弁(大動脈弁,僧帽弁,三尖弁,肺動脈弁)のflowの可視化が可能である。どちらの解析も,通常ルーチンとして撮像されるSSFP法と3D phase contrast法による3方向の位相画像だけで解析ができる。4D flow MRIの解析は煩雑で難しいイメージがあるが,本アプリケーションは簡便で,画像に対し,ガイダンスに従って数クリックで血管,弁などを選択するのみで解析できるため,解析者の経験値に依存せず,血流の定量化が可能である。MR Caas 4D flow Arteryでは,上行大動脈瘤などの主要血管の病変部を効率良く視覚化できる。MR Caas 4D flow Heartでは,自動バルブトラッキングによる心膜内解析により,心臓弁での血流の視覚化などを提供できる。
MR Strainは,心筋の収縮を3種類〔global radial strain(GRS),global circumferential strain(GCS),global longitudinal strain(GLS)〕の方向に分けて表すことができるアプリケーションであり,このアプリケーションでは特殊なタギング撮像は追加不要である。通常,ルーチン撮像である短軸および長軸のSSFPのシネ画像を用いたfeature tracking法を用いて,自動で左室のED/ESフェーズを認識し,心内腔/外腔をトレースし,GRS,GCS,GLSの3種類のストレイン解析ができる。ストレインは拡張型心筋症(DCM),肥大型心筋症(HCM),拘束型心筋症(RCM)の患者,および弁膜性心疾患患者の診断および経過観察の支援が可能と言われている7)。MRIの撮像技術は進化しており,解析アプリケーションについてもよりいっそうの発展が期待される。
◎
本稿では,ISPに搭載されている最新の循環器領域のアプリケーションを紹介した。ISPは循環器画像診断において,これまでユーザーの方々から有用性を評価されてきた。既存のアプリケーションをより強化し,アプリケーションによってはAI技術の搭載により,より正確に,解析から診断までの時間をより短縮できるワークフローを提供できるように改善してきた。これまで時間に追われ,解析に多くの時間を割いている方々に検査に集中していただくことで,患者中心の画像診断の提供に少しでも貢献できれば幸いである。
●参考文献
1)Nakaura, T., et al. : Low contrast- and low radiation dose protocol for cardiac CT of thin adults at 256-row CT : Usefulness of low tube voltage scans and the hybrid iterative reconstruction algorithm. Int. J. Cardiovasc. Imaging, 29(4): 913-923, 2013.
2)Nakaura, T., et al. : Low contrast agent and radiation dose protocol for hepatic dynamic CT of thin adults at 256-detector row CT : Effect of low tube voltage and hybrid iterative reconstruction algorithm on image quality. Radiology, 264(2): 445-454, 2012.
3)Oda, S., et al. : Myocardial Late Iodine Enhancement and Extracellular Volume Quantification with Dual-Layer Spectral Detector Dual-Energy Cardiac CT. Radiol. Cardiothorac. Imaging, 1(1): e180003, 2019.
4)Ecabert, O., et al. : Automatic model-based segmentation of the heart in CT images. IEEE Trans. Med. Imaging, 27(9): 1189-1201, 2008.
5)Brosch, T., et al. : Deep Learning-Based Boundary Detection for Model-Based Segmentation with Application to MR Prostate Segmentation. MICCAI, 515-522, 2018.
6)Noriko, O-M., et al. : Clinical Applications of 4D Flow MR Imaging in Aortic Valvular and Congenital Heart Disease. Magn. Reson. Med. Sci., 21(2): 319-326, 2022.
7)Daniele, M., et al. : Clinical applications of feature-tracking cardiac magnetic resonance imaging. World J. Cardiol., 10(11): 210-221, 2018.
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