技術解説(フィリップス・ジャパン)

2023年4月号

Cardiac Imaging 2023 US技術のCutting edge

フィリップス製「EPIQ」Release 9.0超音波最新技術紹介

木戸脇修学[(株)フィリップス・ジャパン プレシジョンダイアグノシス事業部]

フィリップスでは,2030年までに世界25億人の人々の生活を健やかにすることをビジョンに掲げ,ヘルスケアとデジタル技術を融合したヘルステックに注力し,製品開発を行っている。その中で超音波診断装置は,予防,診断,治療,そして在宅ケアというあらゆる医療の場面で重要な役割を担っている。
また,超音波が臨床に応用されてから半世紀以上が経過し,今日ではさまざまな診療科で広く臨床に超音波診断装置が普及している。技術開発が進むと同時に,超音波検査の日常診療に占める役割が大きくなった現在において,検査件数は増加し,検査の効率化が求められ,現場の負担が増大していると考えられる。
本稿では,このような問題点を解消するAIを用いた新技術と,新しいトランスジューサを紹介したい。

■Philips Auto Measure─automated cardiac measurements

心機能計測は心エコー図検査の一環として日常的に行われているが,この計測には時間がかかり,手動で計測した場合は再現性を保つことが難しいとされている。
AIを活用した心機能の自動計測は,計測にかかる時間を短縮し,何度も行われる検査において一貫性を向上させて,検者ごとの計測結果のバラツキを低減することが期待される。
「Philips Auto Measure」は,AIベースのアルゴリズムを使用して設計された心機能の自動計測技術である*1。自動計測AIアルゴリズムのトレーニングと検証には,米国心エコー図学会(ASE)が定めた成人に対する心エコー図検査の最新の推奨ガイドライン1)に従い,さまざまな民族からなる約3000例以上の心エコー図検査の結果を使用した。
このAIを活用したPhilips Auto Measureを使用することによって,日常的な2Dおよびドプラ計測において一貫した結果が得られ,同じ計測を手動で行った場合と比較して計測時間を平均で51%短縮することが可能となる*2図1)。

図1 Philips Auto Measure機能を用いた大動脈弁時間速度積分値(AV VTI)の自動計測

図1 Philips Auto Measure機能を用いた大動脈弁時間速度積分値(AV VTI)の自動計測

 

■3D Auto RV─right ventricular quantification

心エコー図検査には,右室(RV)の機能を測定する指標がいくつか存在する。例えば,面積変化率(FAC),三尖弁輪収縮期移動距離(TAPSE),右室心筋パフォーマンスインデックス(RV IMP)などである。ただ,右室の複雑な形状と収縮方法により,2Dのみでの右室機能評価を行うことは困難であった。
右室機能評価に関するこれらの限界は,3Dを使用することでその多くを克服することが可能である。磁気共鳴イメージング(MRI)や3D心エコー図検査などの3D技術の普及によって,右室の形状および機能の変化を評価することが可能になった(図2)。3D心エコー図検査は,ゴールドスタンダードであるMRIと比べて施行しやすく,その有効性が検証されている。ASEの最新のガイドライン1)では,右室容積の知見が臨床的に重要である場合は3D心エコー図での右室計測が推奨されている。
「3D Auto RV」は,境界検出と形状モデルの作成の両方でAIを利用しており,全自動で解析が実行され,計測結果が表示される(図3 a)。さらに,3Dの指標だけでなく,2D(右室径,FACなど),M-mode(TAPSE)の各種計測項目も自動で算出される(図3 b)。このため,高い再現性と検者間誤差の低減,時間の短縮が期待でき,検査時間の限られたルーチン検査でも右室機能評価に3Dの活用が期待される。

図2 左室(左)と右室(右)の形状の違い 右室は左室に比べ複雑な形状を呈していることがわかる。

図2 左室(左)と右室(右)の形状の違い
右室は左室に比べ複雑な形状を呈していることがわかる。

 

図3 3D Auto RV a:右室3D容積を自動で算出が可能となる。 b:TAPSEを含めさまざまな2D計測も自動で算出される。

図3 3D Auto RV
a:右室3D容積を自動で算出が可能となる。
b:TAPSEを含めさまざまな2D計測も自動で算出される。

 

■X5-1c─New xMATRIX sector transducer

これらの自動化機能を実用化するためには,信頼性の高い画質が不可欠である。フィリップスが世界で初めての体表3Dトランスジューサ「X4」の販売を開始したのが2002年で,それからちょうど20年に当たる2022年に,体表3Dトランスジューサの第4世代となる「X5-1c」の販売を開始した(図4)。X5-1cは,先端に突出したカーブ状レンズを採用し,軽量・小型化することで,欧米人と比較して小柄な高齢の日本人に特有の狭い肋間によりフィットしやすく,検査時間の短縮や検査精度の向上が期待できる。
さらに,シグナルとノイズを自動的に見分け,シグナルを増幅,ノイズを低減させることでSN比を向上させる「Image Boost」機能も搭載した。Image Boostは,心筋やデバイス,その他の心臓構造物からの必要な信号(シグナル)を増幅する一方で,不要なアーチファクト(ノイズ)は低減する適応型のクラッター抑制アルゴリズムで,画像形成処理プロセスの初期の段階で機能する。
X5-1cとImage Boostの組み合わせによって,2D画像,3D画像共に進化しており,特に,従来描出困難であった三尖弁や肺動脈,左室心尖部などの描出能が向上している(図5)。

図4 新しいX5-1cトランスジューサ 小型軽量化され,スキャンしやすくなった。

図4 新しいX5-1cトランスジューサ
小型軽量化され,スキャンしやすくなった。

 

図5 X5-1cで取得した三尖弁の3D画像 3つの弁尖が明瞭に観察可能となった。

図5 X5-1cで取得した三尖弁の3D画像
3つの弁尖が明瞭に観察可能となった。

 

フィリップスでは,今後も循環器領域を取り巻く多様なニーズに応じた技術により,医療に貢献していきたいと考えている。

*1 AI技術の設計にはディープラーニングまたはマシンラーニングを用いており,実装後に自動的に装置の性能・精度が変化することはありません。
*2 Based on Philips external testing as compared to manual measurement methods.

●参考文献
1)Mitchell, C., et al. : Guidelines for performing a comprehensive transthoracic echocardiographic examination in adults : Recommendations from the American Society of Echocardiography. J. Am. Soc. Echocardiogr., 32(1): 1-64, 2019.

 

●問い合わせ先
株式会社フィリップス・ジャパン
〒108-8507
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お客様窓口:0120-556-494
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