技術解説(フィリップス・ジャパン)

2023年4月号

Cardiac Imaging 2023 MRI技術のCutting edge

SENSEとDLRの融合:「SmartSpeed AI」

小原  真/上田  優/権  池勲/米山 正己/ヴァンカウテレン マルク[(株)フィリップス・ジャパンMRクリニカルサイエンス]

MRIの高速化は,臨床導入開始と同時に本格化し,現在もなお追い求められている普遍的なテーマと言えるだろう。
2022年の北米放射線学会で,フィリップスは「Compressed Sensitivity Encoding(C-SENSE)」1)のsparse変換&denoise部分をAIに置換した「SmartSpeed AI」2)の発表を行った。wavelet変換から得られる空間周波数に限定されることなく,大量のパラメータから高速化に必要な特徴を抽出することで,さらなる高速化の実現をねらう。また,画像再構成AI(deep learning reconstruction:DLR)の一般論として,フルサンプリングされた教師データは入力する学習データに比べてSNRが高くアーチファクトが少ないことから,完成したアルゴリズムは本質的に高画質化AIとなる。本稿では,高速化&高画質化 AIプラットフォームSmartSpeed AIを解説し,本特集のテーマである循環器領域における応用例を紹介する。

■高速化 & 高画質化DLR:physics-driven

図1に,DLRにおいて代表的なpost-processing type(a)とphysics-driven type(b)の2つの画像再構成スキームを示す。post-processing typeは,フーリエ変換(FT)やparallel imaging(PI)など従来法による画像再構成後にDLR処理を行う。教師データにフルサンプリング,高加算,あるいは高分解能画像を用いて学習することで,画質の向上を実現する。高速化技術とは,k空間データのアンダーサンプリングにより発生する折り返しを展開あるいは除去することなので,post-processing typeの画像再構成では,高速化そのもの(つまり折り返しの展開)はPIで完了し,高速化に伴い上昇するノイズの低減など高画質化をDLRで行うという役割分担型スキームとなる。
一方,DLRを高画質化だけではなく高速化にも活用するアプローチがphysics-driven typeである。このアルゴリズムは,FTやPIといった既存の画像再構成技術にDLRを統合する。PIは通常1回のプロセスで折り返しを展開するが,physics-drivenとして用いる場合は,ある適当な初期値を出発点に段階的に折り返しを展開する逐次的(iterative)アルゴリズムとなり,そこにDLR処理を挟み込んでいく。DLR処理されたデータは再びコイルごとのk空間データに戻され,実収集データとの整合性をチェックした後,次の折り返し展開プロセスへと移行する。折り返しの展開,除去をPIとDLRのハイブリッドで実行することから高速化AIと定義できる。一方,post-processing type同様,教師データにはフルサンプリングされた画像を用いるので,高画質化機能も備わる。

図1 DLRを用いた画像再構成タイプ a:フーリエ変換(FT)あるいはPIなど,従来画像再構成後にDLR処理を行うpost-processing type。 b:FTあるいはPIとDLRをハイブリッドで用いるphysics-driven type。DLR処理後,画像空間からk空間に再変換し(back to k-space),再びFT/PIを行っていく反復スキームとなる。

図1 DLRを用いた画像再構成タイプ
a:フーリエ変換(FT)あるいはPIなど,従来画像再構成後にDLR処理を行うpost-processing type。
b:FTあるいはPIとDLRをハイブリッドで用いるphysics-driven type。DLR処理後,画像空間からk空間に再変換し(back to k-space),再びFT/PIを行っていく反復スキームとなる

 

■SENSE & DLRのONE-GO physics-drivenコンセプト

SmartSpeed AIは,physics-drivenのPI部分にiterative SENSEを採用し,同じ繰り返しループの中でSENSEとDLRを実行する(ONE-GO),ハイブリッド高速化スキームである(図2)。一般論として,PIによる高速化の課題は,g-factorノイズの増幅を低くコントロールすることである。g-factorとはPI起因のノイズレベルを示すパラメータで,サンプリングパターン,コイル素子数とそれぞれの感度分布,被写体の大きさおよびコイルとの幾何学的な位置関係によって決まる。SENSEには,ノイズスキャンによる各コイルのノイズレベル,リファレンススキャンによるコイルの感度強度や位相分布と被写体の信号分布など,プリスキャンによる事前情報を用いた制約付き重み付け最小二乗法によるg-factorノイズの最小化アルゴリズムが備わっている。さらに,SmartSpeed AIではDLRとの融合を考慮して,k空間内でサンプリング密度が異なる最適ランダムアンダーサンプリングを用いていることから,サンプリング密度に応じた計算の信頼性も重み付け要素に加えて最適解の繰り返し探査を行う。
SmartSpeed AIのAI部分には,「Adaptive-CS-Net」と呼ばれるアーキテクチャを使用している2)。Compressed Sensing(CS)やC-SENSEで用いられるwavelet変換は,画像の空間周波数成分を高分解能から低分解能までマルチスケールに変換してマッピングするが,Adaptive-CS-Netもwavelet変換に触発されたU-Net like構造によるマルチスケールアーキテクチャとなっている。このねらいは,高速化に有用なsparseという特徴を見出すように解を誘導しながら,空間周波数に制限されるのではなく,大量のパラメータから高速化に必要な特徴を,70万を超える実データを用いた学習により抽出することで,不必要な情報のカットと必要な情報の保持において,より効率的,効果的なデノイズを実現することである。

図2 SmartSpeed AI ノイズN,コイル感度S,リファレンスデータRを用いた繰り返し展開アルゴリズムiterative SENSEと,U-Net likeなマルチスケールアーキテクチャを持つAdaptive-CS-Netを融合したONE-GO physics-driven type。入力には,SENSEとDLRの融合のために考案された,最適ランダムアンダーサンプリングを用いる。Adaptive-CS-Netの■で示すフィルタを用いることで,任意のデノイズレベル調整が可能となる。

図2 SmartSpeed AI
ノイズN,コイル感度S,リファレンスデータRを用いた繰り返し展開アルゴリズムiterative SENSEと,U-Net likeなマルチスケールアーキテクチャを持つAdaptive-CS-Netを融合したONE-GO physics-driven type。入力には,SENSEとDLRの融合のために考案された,最適ランダムアンダーサンプリングを用いる。Adaptive-CS-Netので示すフィルタを用いることで,任意のデノイズレベル調整が可能となる。

 

■SmartSpeed AIストラテジーと循環器領域におけるベネフィット

図3では,SmartSpeed AIのストラテジーを従来法SENSEとの比較により説明している。従来法SENSEの場合,倍速を高く設定したことでg-factorノイズの上昇に伴い心臓の弁など組織情報の損失が生じている。この対処としてpost-processing typeのDLRを用いてデノイズすることが考えられるが,組織信号レベルまで上昇したノイズをカットすると必要な情報まで失ってしまうリスクがある。一方,SmartSpeed AIでは,iterative SENSEとDLRのONE-GO処理により弁の情報が保持されている。SmartSpeed AIのストラテジーは,iterative SENSEによる段階的な折り返し展開ステップにDLR処理を挟み込むことでg-factorノイズを低くコントロールし,情報劣化を抑えながら高い倍速と高画質化を実現することである。
実際の心臓MRIへの応用例を図4に示す。通常のルーチン検査より倍速を高めに設定したシネ(図4 a),T1マップ(b),遅延造影(c),whole heart冠動脈(d)撮像にて,SENSE,C-SENSEとの比較を行っており,SNRにおいてSmartSpeed AIの明らかな優位性が示されている。高い倍速でのSNRの担保は,機能画像,解剖画像,定量画像を含むルーチン検査において,撮像時間や息止め時間の短縮,息止め回数の低減,高空間分解能化,ブラーリングの低減など,ニーズに応じたクリニカルベネフィットへと転化しうるであろう。

図3 SmartSpeed AIストラテジー SENSEにおいて高い倍速を設定した場合,g-factorノイズの上昇により弁の情報が失われているが(➡),SmartSpeed AIでは,SENSEによるg-factorノイズが上昇する前にDLR処理が施行されるため,弁が描出されている(➡)。

図3 SmartSpeed AIストラテジー
SENSEにおいて高い倍速を設定した場合,g-factorノイズの上昇により弁の情報が失われているが(),SmartSpeed AIでは,SENSEによるg-factorノイズが上昇する前にDLR処理が施行されるため,弁が描出されている(↓)。

 

図4 SmartSpeed AIの循環器領域への応用例 シネ(a),T1マップ(b),遅延造影(c),whole heart冠動脈(d)撮像におけるSENSE,C-SENSE,SmartSpeed AIの比較。SmartSpeed AIでは高いSNRが保持されている。 (画像ご提供:東京警察病院様)

図4 SmartSpeed AIの循環器領域への応用例
シネ(a),T1マップ(b),遅延造影(c),whole heart冠動脈(d)撮像におけるSENSE,C-SENSE,SmartSpeed AIの比較。SmartSpeed AIでは高いSNRが保持されている。
(画像ご提供:東京警察病院様)

 

本稿では,SENSE,C-SENSEで培ってきた高速化のノウハウを最大限に活用し,そこに学習ベースのAIストラテジーを融合したユニークな高速化&高画質化技術SmartSpeed AIを解説した。SmartSpeed AIによるさらなる高速化が,MRIのアクセシビリティの向上をもたらし,画像診断全体から見た診断ストラテジーの最適化に発展していくことを期待する。

●参考文献
1)Geerts-Ossevoort, L., et al. : Compressed SENSE Speed done right. Every time. Philips FieldStrength Mag., 1-6, 2018.
2)Pezzotti, N., et al. : An Adaptive Intelligence Algorithm for Undersampled Knee MRI Reconstruction. IEEE Access, 8 : 204825-204838, 2020.

 

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