技術解説(フィリップス・ジャパン)

2020年4月号

腹部領域におけるMRI技術の最新動向

“4D FreeBreathing”の開発と臨床応用 ─ 自由呼吸下の造影ダイナミック撮像へのアプローチ

上田  優[(株)フィリップス・ジャパンMRクリニカルサイエンス]

上腹部造影ダイナミック撮像は,確立されたMRI検査の一つである。通常,呼吸停止下で検査するため息止めが困難な患者への対応が課題とされてきたが,パラレルイメージングの開発,さらに,最近ではパラレルイメージングの一つ“SENSE(Sensitivity Encoding)”をcompressed sensingの繰り返し再構成ループに組み込んだ“Compressed SENSE(C-SENSE)”の開発により,息止め時間を短縮して検査成功率を高めてきた。しかし,重篤な患者では短縮された撮像時間であっても呼吸停止ができず, 根本的な動きへの対応が依然として重要な課題とされている。また,近年,急激に加速している検査対象患者の高齢化は,息止め困難な患者を増やす一つの大きな要因であると言える。
息止め不良患者への対応として最近注目されているのが,radial scanである。radial scanは,k空間中心を重複して充填することから,加算平均効果によって動きの影響を低減するという特長がある。また,k空間中心から近いほど,データポイント数が豊富になるという特性を利用し,情報の取捨選択が可能となる。つまり,目的とするダイナミック時相や適切な呼吸時相の信号をフィルタリングすることで,自由呼吸下上腹部造影ダイナミック検査への応用が期待できる技術である。
本稿では,radial scanの特性を生かした新しい自由呼吸下ダイナミック撮像である“4D FreeBreathing”を紹介する。

●Radial scanの特性

radial scanは,k空間中心付近で,ナイキスト基準を大幅に超えるポイント数でデータ収集を行う。通常は,これら豊富なデータに対して均等な重みづけをしながら信号のnormalizationを施し,画像再構成を行っている。
データが豊富に存在するということは,データの取捨選択を可能にすることを意味する。この特性を利用し,適切なデータのみを採用して画像再構成を行う,あるいはそのデータ信号の占める割合を高める(重みづけを高くする)などのフィルタリング処理を施すことで,目的とする情報を強調した画像再構成が可能となる。

●KWIC filterを用いたダイナミックスキャンの画像再構成

データの適切性に応じたフィルタリング(データの重みづけ)の一つに,KWIC filter1)と呼ばれる手法がある。図1に,KWIC filterの概要を示す。図1 a上段に,示すように,radial scanでは,kx-ky面におけるサンプリングライン(spoke)のアングルが異なる。ここで,k=0からの距離を縦軸,スキャン開始からの時間を横軸にした座標を考えると,各spokeのプロファイルは図1 a中段に示すように,すべて1本の縦棒として表される。この例では,15本のspokeで1ダイナミック画像が再構成されるケースを示しており,その充填に要する時間はfootprintと呼ばれる。図1 a中段の図に示すとおり,特にフィルタリングを施すことなく,すべてのspoke内サンプリングデータを用いて画像再構成を行うと,撮像時間内すべての時相情報が均等に含まれることになる。ここでKWIC filterを用いると,目的時相の情報を強調することが可能となる。図1 a下段でKWIC filterのコンセプトを示している。白枠で示す3つのspokeが目的時相で得られたデータであり,spoke内のすべてのサンプリングポイントを画像再構成に用いている。この時間帯をplateauと呼ぶ。一方で,白枠以外のspokeでは,k空間中心部のデータを省いている。これは,k空間中心部のデータが画像コントラストへの影響が高いことを考慮したものである。さらに,目的時相からの時間に対して,直線的にデータを間引くポイント数を増やしている。この処理によって,目的とする時相から離れたポイントでは,spokeの高周波領域データのみが画像再構成に用いられることになるため,コントラストへの影響を軽減できる。これは目的時相情報を強調する一方,データを間引くことによって生じるSNRの低下やストリークアーチファクトを最小限に抑えるための最適化である。
このフィルタのストラテジーをkx-ky面の二次元で示したものが図1 bとなる。各spokeの充填と強調度合いを線の太さで表現している。削除するデータポイント数が多いk空間中心付近では,1spokeの強調度合いが高く(つまり線が太く)なっている。

図1 KWIC filter a:spokeの表示方法とKWIC filterのコンセプト b:kx-ky面の二次元におけるKWIC filterのストラテジー

図1 KWIC filter
a:spokeの表示方法とKWIC filterのコンセプト
b:kx-ky面の二次元におけるKWIC filterのストラテジー

 

KWIC filterをダイナミックスキャンに応用する場合,目的コマ数に応じてplateauをずらしながら画像再構成を行う。図2でその様子を示す。目的としている各時相がfootprintの中心となるようにスライドさせながら画像を再構成することによって,連続性の高いダイナミック情報を取得可能となる。

図2 KWIC filterを用いたダイナミック画像の再構成

図2 KWIC filterを用いたダイナミック画像の再構成

 

●Soft gatingによる呼吸を考慮した重みづけ

自由呼吸下での連続撮像では,呼吸動の画質への影響をコントロールすることも重要である。4D FreeBreathingでは,一般的に動きが大きいとされる吸気でサンプリングされたデータに低い重みづけ,動きの安定している呼気でサンプリングされたデータには高い重みづけを行っている。そのため,呼吸時相を細かく分割し,呼吸状態(motion state)ごとに重みづけ係数を0から1の間で変化させることで,安定した動き抑制とともに,効率的なデータ収集を可能としている。これをsoft gatingと呼ぶ。各spokeのmotion stateの情報を得るための呼吸波形(図3 a)のモニタリングは,呼吸センサ(respiratory belt)や赤外線呼吸同期システム(VitalEye)といった外部からの情報を取得して行う方法と,navigator echoを取得して行う方法があり,この中から任意に選択可能である。ここで,横軸をmotion state,縦軸をspoke数とすると,一般的には図3 bに示すように,吸気に比べて呼気のspokeの数が多いヒストグラムとなる。このヒストグラムに基づき,呼気には1,吸気には0,中間のmotion stateには0から1の間の係数が割り当てられる(図3 b─)。soft gatingのフィルタリングは図3 cに示すように,k空間中心部のみに適用される。

図3 Soft gating a:呼吸波形。吸気(─),吸気と呼気の中間(─),呼気(─)のmotion stateは色を変化させて表示している。 b:motion stateのヒストグラムとsoft gatingのweighting factorの関係。ヒストグラムの分布に応じて,weighting factorが決められる。3つのmotion stateに関して,吸気(─)は0,吸気と呼気の中間(─)は0.5,呼気(─)は1.0のweightingがそれぞれ適応されている。 c:soft gatingの有無による,白い円で囲まれたk空間中心部でのspokeの強調度合いの違い。白い円内において,先ほどのweightingが適応されている。吸気(─)でspokeは消え,吸気と呼気の中間(─)でspokeの太さは半分になり,呼気(─)ではspokeに変化がない。

図3 Soft gating
a:呼吸波形。吸気(),吸気と呼気の中間(),呼気()のmotion stateは色を変化させて表示している。
b:motion stateのヒストグラムとsoft gatingのweighting factorの関係。ヒストグラムの分布に応じて,weighting factorが決められる。3つのmotion stateに関して,吸気()は0,吸気と呼気の中間()は0.5,呼気()は1.0のweightingがそれぞれ適応されている。
c:soft gatingの有無による,白い円で囲まれたk空間中心部でのspokeの強調度合いの違い。白い円内において,先ほどのweightingが適応されている。吸気()でspokeは消え,吸気と呼気の中間()でspokeの太さは半分になり,呼気()ではspokeに変化がない。

 

●4D FreeBreathingの臨床応用

4D FreeBreathingを用いて,自由呼吸下で撮像された肝臓と膀胱の臨床例を図4に示す。肝臓では,息止めが困難な場合においてもアーチファクトを最小限に抑えながら,良好な造影コントラストを取得できていることがわかる(図4 a)。膀胱においても,アーチファクトが少なく,高分解能な画像が得られている(図4 b)。

図4 4D FreeBreathingを用いて自由呼吸下で撮像された臨床例 (画像ご提供:熊本中央病院様)

図4 4D FreeBreathingを用いて自由呼吸下で撮像された臨床例
(画像ご提供:熊本中央病院様)

 

4D FreeBreathingの重要な構成要素であるradial scan,KWIC filter,soft gatingと臨床応用例を紹介した。本法を用いた自由呼吸下造影ダイナミック撮像の,今後の臨床応用に期待したい。

●参考文献
1) Song, H.K., Dougherty, L. : k-space weighted image contrast(KWIC)for contrast manipulation in projection reconstruction MRI. Magn. Reson. Med., 44(6): 825-832, 2000.

 

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