技術解説(フィリップス・ジャパン)

2019年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心臓MRIにおける最新撮像技術─“Compressed SENSE”を中心に

諏訪  亨(DIビジネスマーケティンググループMRフィールドマーケティングスペシャリスト)

最近のMRI撮像におけるトピックとして,圧縮センシングが注目されており,日々進歩を遂げている心臓領域への応用に期待されている。フィリップスは,圧縮センシングの応用技術として“Compressed SENSE”を開発し,心臓MRIにも応用が可能となっている。本稿では,Compressed SENSEの特長ならびに画質改善に関する最新技術について解説する。

‌●Compressed SENSEの技術的特長

圧縮センシングは,ランダムなアンダーサンプリングを行い,少ないデータ量から画像に必要な元データを推定して画像を再構成する技術である。従来のSENSEに代表されるパラレルイメージングと比較し,大幅に撮像時間を短縮できることが最大の魅力となっている。特に,ランダム性を高められる3D撮像との相性が良く,圧倒的な時間短縮を図れる。しかし,圧縮センシングの問題点として,倍速を高めた場合にわずかな組織間コントラストが失われてしまう弱点があり,実用化における大きなハードルとなっていた。フィリップスは,SENSEで培った技術と圧縮センシングを統合したCompressed SENSEを開発し,3D撮像だけでなく,組織間コントラストが重要とされる2D撮像,解剖学的情報を得るための静的撮像からダイナミック撮像,さらに,それらの撮像シーケンスを全身領域へ応用することが可能となった。これにより,2D,3D,シネ,3D冠動脈,心筋パフュージョンなど複数のシーケンスで構成されている心臓MRIにおいてもシームレスな対応を実現している。

●心臓MRIにおけるCompressed SENSEのメリット

Compressed SENSEは心臓MRIでルーチン的に使用される多くの撮像に使用が可能であり,それぞれの撮像におけるメリットを以下に示す。

1.シネ,T2強調ブラックブラッド(2D撮像)
シネやT2強調ブラックブラッドにおいては息止め回数を減らす,もしくは情報量を増やす方向で使用できる。シネを12スライス撮像する場合,通常は6回ほど息止めが必要であるが,Compressed SENSEでは半分の3回で終えることができる。また,時間短縮ではなく,フェーズ数を増やして時間分解能を高めることも可能である(図1)。T2強調ブラックブラッドにおいても,2〜3スライスを1回の息止めで撮像することができる。

図1 Compressed SENSEを用いたシネ撮像 (画像ご提供:倉敷中央病院様)

図1 Compressed SENSEを用いたシネ撮像
(画像ご提供:倉敷中央病院様)

 

2.心筋パフュージョン(ダイナミック撮像)
心筋パフュージョン撮像に求められる画質改善として,面内分解能向上によるブラックバンドアーチファクトの低減が挙げられる。“SENSE”で面内分解能を向上するにはSNRの低下を伴うため,“k-t BLAST”といった時間軸に対する高速化技術で対応してきた。しかし,k-t BLASTでは特定タイミングの動きがダイナミック全体に影響を及ぼし,全体的にボケてしまうリスクを伴っていた。これに対し,Compressed SENSEは時間軸に対する高速化技術ではないため,特定のタイミングで動きの影響が出たとしても時間軸方向への影響がなく,安定した高分解能化を可能とする。

3.遅延造影,冠動脈MRA(3D撮像)
遅延造影,冠動脈MRAは,共に3D撮像であり,撮像枚数の倍増や撮像時間の短縮にメリットがある。特に,Compressed SENSEは冠動脈MRAにおいて圧倒的な時間短縮が可能であり,SENSEと比較して50%の撮像時間でありながら,十分な診断能を持った画像が得られる(図2)。

図2 Compressed SENSEを用いた冠動脈MRA (画像ご提供:倉敷中央病院様)

図2 Compressed SENSEを用いた冠動脈MRA
(画像ご提供:倉敷中央病院様)

 

‌●最新の画質改善技術

1.3D Non selective
“3D Non selective”とは,3Dグラディエントエコー法のTR,TEを短縮する技術である。3D撮像におけるスライス選択傾斜磁場をなくし,ブロックパルスで励起することでRF印加時間を短縮させTR,TEを約30%短縮することが可能となる(図3)。3D Non selectiveでは,スライス方向の折り返しの影響が出るため,スライス断面はコロナルを選択する必要があるが,TR,TE短縮により心拍動や呼吸性のモーションアーチファクトや,磁化率によるバンディングアーチファクトを低減する効果が期待できる(図4)。また,TR短縮に伴い撮像時間も短縮でき,前述したCompressed SENSEと組み合わせることにより,さらなる高速化も期待できる。

図3 3D Non selectiveの原理

図3 3D Non selectiveの原理

 

図4 3D Non selectiveの臨床応用 (画像ご提供:倉敷中央病院様)

図4 3D Non selectiveの臨床応用
(画像ご提供:倉敷中央病院様)

 

2.Cardiac Zoom
2Dのspin echo系シーケンスの局所励起技術が“Cardiac Zoom”である。主に,black blood imagingに使用され,小さなFOVでも折り返し信号が発生しないため,位相エンコード数を減少させることで撮像時間を30%程度短縮する効果がある(図5 a)。また,TSE factorを低く設定することで信号収集時間を短くでき,心拍動や呼吸性のモーションアーチファクトを低減する効果も期待できる(図5 b)。

図5 Cardiac Zoomの有用性

図5 Cardiac Zoomの有用性

 

フィリップスの心臓MRIにおける最新技術として圧縮センシングの応用であるCompressed SENSE,ならびに3D Non selective,Cardiac Zoomといった技術について解説した。Compressed SENSEは汎用性が高く,すでに心臓MRIに欠かせない技術になりつつあり,今後さらなる臨床応用や技術的発展に期待したい。

 

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