技術解説(フィリップス・ジャパン)
2019年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
「IQon スペクトラル CT」が実現するひとに優しく,確信度を向上した心臓イメージング
草山 裕介(DIビジネスマーケティンググループCTモダリティスペシャリスト)
現在,マルチスライスCTを用いた冠動脈CT検査は,一般的な検査として認知されて,多くの病院で実施されている。日本循環器学会の調査報告によると,2017年度の冠動脈CT検査数は47万件に達し,ここ数年増加傾向を示している1)。近年では,dual energy CT技術を活用した心臓検査に大きな期待が寄せられている。フィリップスが開発した「IQonスペクトラルCT(以下,IQon)」は2層検出器を搭載することで,dual energy CT技術をルーチン検査の中で使用可能としたCT装置である。本稿では,IQonの特長とスペクトラルイメージングを活用した心臓検査について紹介する。
●IQonスペクトラルCTの特長
1.従来の120kVp撮影においてスペクトラルデータを常に収集,心電図同期撮影にも対応
IQonは,従来のdual energy CT方式における2つの異なるエネルギーを用いたX線照射を必要とせず,120kVpの従来撮影においてスペクトラルイメージングの取得が可能である。IQonは異なる素材からなる2層構造の検出器「NanoPanel Prism」を搭載しており,120kVpの連続X線を2つのエネルギーに分光して収集する。上層のシンチレータは低エネルギーを収集し,下層は高エネルギーを収集する。取得したデータからSpectral Based Image(以下,SBI)というデータセットを作成することにより,従来の120kVp画像を含むスペクトラルイメージングを参照することができる(図1)。また,撮影条件に制限はなく,回転速度は最速0.27秒/回転,最大管電流は1000mA,50cm full FOVの使用,自動露出機構の設定も可能である。心電同期撮影も従来どおりの撮影プロトコールで可能であり,自動分割再構成技術の“Adaptive MaxCycle”やフィリップスの特許技術である心拍変動対応技術 “Beat to Beat Variable Delay Algorithm”も使用可能である。よって,高心拍や心拍変動,不整脈など,患者を選ばずに撮影できる。IQonでは,煩雑なdual energy撮影のプロトコールを事前に設定する必要なく従来どおり撮影を行い,撮影後に必要に応じてレトロスペクティブにスペクトラルイメージングを参照することが可能である。
●スペクトラルイメージングを活用した心臓検査
1.ひとに優しい検査:造影効果の向上と造影剤量の低減
日常の心臓検査において,最適な造影コントラストを得られない場面がある。原因の多くは患者状態や撮影タイミングが考えられる。従来,CT装置においてこのケースは,再撮影による造影剤追加や被ばくの増加が伴い,患者負担の増大が懸念されていた。IQonでは,スペクトラルイメージングを用いることで,追加撮影なしでレトロスペクティブに造影効果を向上させ,診断に適した画像が提供可能となる。SBIから作成される仮想単色X線画像(以下,MonoE画像)では,エネルギーを40keVから200keVまで連続的に可変して表示することができる(図2 a)。低エネルギー領域の画像(以下,低keV画像)では,ヨード造影剤のコントラストを大幅に向上させ,予期せぬ造影不良のリカバリーを行うことができる。
また,MonoEの低keV画像は造影剤量を大幅に低減した検査にも活用できる。心臓に疾患を持つ患者は腎機能が低下しているケースもあり,撮影時に投与する造影剤量の決定を慎重に行う必要がある。MonoEの低keV画像を使用した場合,従来の120kVp画像に比べCT値を最大4倍上昇させるため,造影コントラストを維持したまま大幅に造影剤量を低減することが可能となる2)。このような造影剤量を低減した症例においても,イメージングクオリティを従来の120kVp画像と同等に維持することが可能であることが報告されている3)。
2.確信度が向上したステント内腔の評価
術後のステント内腔評価は従来CTの画像診断において大きな課題の一つであった。その要因の一つがブルーミングアーチファクトと呼ばれるものであり,高い原子番号が素材に含まれるステントなどでしばしば発生する。この課題に対し,スペクトラルイメージングのIodine no water画像(以下,ヨード密度強調画像)は,アーチファクトを低減しステント内腔の視認性を劇的に改善することができる。図2 bで示すとおり,従来の120kVp画像ではアーチファクトの影響で内腔の評価は困難であり,ウインドウレベル(WL)やウインドウ幅(WW)の調整でも画質を改善することはできなかった。一方,ヨード密度強調画像ではアーチファクトの影響を低減し,ステント内腔の再狭窄(図2 b→)が明瞭に描出されている4)。
3.信頼性の高い心筋血流評価
冠動脈の形態的評価とともに,心筋血流評価を行う包括的な心臓検査が近年注目を浴びている。しかし,従来の120kVp画像ではビームハードニングアーチファクトの影響や造影コントラスト不足により,心筋血流評価を正確に行うことができない症例があった。それを解決する方法としてMonoE画像の使用が挙げられる。MonoEは,心筋近傍に位置する造影された大動脈や左心室からのビームハードニングアーチファクトを低減する効果があり,従来に比べ正確にCT値を表現し,より精度の高い心筋血流評価が可能になると考えられる。また,MonoEの低keV画像では心筋全体の造影コントラストを向上させるため,MR画像に匹敵するコントラストを得ることも可能であり,図2 cに示すとおり心筋血流低下を明瞭に描出している。さらに,ヨード密度強調画像では,各ピクセル値はヨード密度のmg/mLで示されるため,従来のCT値での評価に対し,より直接的かつ定量的に血流を評価することも可能となる。
◎
今回は,スペクトラルイメージングを活用した新たな心臓検査について紹介した。冠動脈の造影コントラスト向上や造影剤量の低減,ステント内腔評価や心筋血流評価など,心臓領域におけるスペクトラルイメージングの応用は数多くの臨床的メリットがある。IQonは2層検出器を搭載することで,1回の撮影でスペクトラルイメージングが得られ,今までより低侵襲に,よりひとに優しく,そして確信度を向上した心臓検査が可能になる。今後よりいっそう多くの病院でスペクトラルイメージングを活用した心臓検査が行われることを期待する。
●参考文献
1)循環器疾患診療実態調査(2017 年度実施・公表). 日本循環器学会, 2018.
http://www.j-circ.or.jp/jittai_chosa/jittai_chosa2016web.pdf
2)Shuman, W.P., et al. : Prospective comparison of dual-energy CT aortography using 70% reduced iodine dose versus single-energy CT aortography using standard iodine dose in the same patient. Abdom. Radiol., 42・3, 759〜765, 2017.
3)Oda, S., et al. : Low contrast material dose coronary computed tomographic angiography using a dual-layer spectral detector system in patients at risk for contrast-induced nephropathy. Br. J. Radiol., 92・1094, 20180215, 2019.
4)Philips : Cardiac imaging using IQon Spectral CT.
http://clinical.netforum.healthcare.philips.com/global/Explore/White-Papers/CT/Cardiac-imaging-using-IQon-Spectral-CT
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