技術解説(フィリップス・ジャパン)
2018年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
「IQonスペクトラルCT」における腹部領域のスペクトラルイメージング
早坂 和人/德安 真一(DIビジネスマーケティンググループ CTモダリティスペシャリスト)
2016年に国内で稼働を始めた「IQonスペクトラルCT」は,検出器構造が2層を形成し,一般に撮影で多く用いられる管電圧120kVpのX線から,dual energyに必要なX線エネルギーの異なる2つのデータを空間的・時間的にロスなく収集可能なCT装置である。取得したデータの画像再構成では,物質弁別に起因して増幅するノイズを低減し,DICOM形式の“Spectral Based Image(SBI)”画像としてアウトプットされる(図1)。さらに,SBIによるレトロスペクティブな解析では,“Spectral Result”と呼ばれるさまざまな種類の画像による物質弁別や画質改善を活用し,幅広い臨床領域で有用性が報告されている1)。本稿では,それらさまざまなSpectral Resultを紹介しながら,腹部領域における臨床的応用例を解説する。
■Spectral Resultの幅広い臨床応用
IQonスペクトラルCTでは,付属の専用サーバ・クライアントシステム「IntelliSpace Portal」を用いて,SBIからSpectral Resultを展開して観察する。専用ビューワでは,瞬時に多様なスペクトラルイメージングを通常のCT画像と同時に利用することが可能である。図2は,これより紹介するSpectral Resultを一括して表示している。図2 aのconventional HUが120kVpの従来画像である。図2 bと図2 cが仮想単色X線画像,図2 dが仮想単純画像,図2 eがヨード密度強調画像,図2 fが実効原子番号画像となる。
■Spectral Result臨床応用例1:MonoE
スペクトラルCT画像の中で多く活用される仮想単色X線画像(以下,MonoE)は,基準の物質弁別画像であるコンプトン散乱画像と光電効果画像による線形的な重み付けから計算された画像である。MonoEを使用した観察には,撮影管電圧に依存せず,広範囲の単色エネルギーのX線減弱を反映したコントラストを画面上のkeVスライダーを利用して変更可能となる。そのため,検査終了後でも任意の管電圧で撮影したような画像を観察できる。
単色エネルギーのレンジは,40〜200keVとなっており,40〜60keV程度の低いエネルギーではコントラストが強調され,90〜200keVの高いエネルギーではビームハードニングの抑制が可能である。
一般的なdual energy CTの仮想単色X線画像は,X線管が持つX線スペクトラムの平均エネルギーで最も画像ノイズが少なく,そこから低い,あるいは高いエネルギーの場合にはノイズが大きく増加する特性を持つ。このノイズは,データ間で物質弁別される際に発生する“anti-correlated noise”と呼ばれるもので,基準画像である光電効果画像とコンプトン散乱画像で相反するノイズとして現れる。IQonスペクトラルCTの画像再構成中に,このanti-correlated noiseの低減処理を含めることで,全エネルギー範囲の画像ノイズが増加することのないように配慮している2)。
また,スペクトラル画像にも,通常CT画像と同等の画質を得られるように同じ画像再構成関数の適用が可能で,さらにはハイブリッド逐次近似法の“iDose4”に対応した8段階のノイズリダクションが設定できる。
造影剤を一定量以上減量する場合,期待する造影効果と画質を得るための管電圧や撮影線量などの撮影条件設定に入念な検討を必要とする。しかし,IQonスペクトラルCTでは120kVpの管電圧による撮影が主であり,MonoEのエネルギーレベルをレトロスペクティブに最適なものへ変更することでコントラストを操作できる。そのため,従来のdual energy CTで経験したような撮影条件の入念な検討なしに,目的とする造影効果の高い画像を撮影後に得ることが可能となる。期待した造影効果が得られなかった場合でも,keVスライダーにより目的とする造影効果をオフラインで得ることができる。
また,高いエネルギーのMonoEでは,主にビームハードニング低減効果が期待される3)。骨に囲まれた部位や結石・石灰化などのアーチファクトの影響を受けた部位に対して,エネルギーを変化させて観察が容易となる。そのほかでは,体内金属のアーチファクト軽減,石灰化と造影剤の判別,不均一に濃染された組織の観察など,通常CTでは判別が難しかった場合にも,エネルギーを変化させることで局所のコントラスト差に改善が得られる。
■Spectral Result臨床応用例2:Iodine no water/Iodine density/Virtual non contrast
ヨードの物質弁別に重きを置いた画像として,Iodine no water(ヨード密度強調画像),Iodine density(ヨード密度画像),Virtual non contrast(仮想単純画像:VNC)が生成される。
Iodine no water とIodine densityでは,画素値のスケールが,CT値ではなくmg/mLのヨード密度として画像が表現される。ヨードを含む部分が白く表示され,それ以外の部分が黒く表示されるため,造影剤による濃染部分の特定や血流が乏しい部分の観察に役立てることができる4)。また,経時的な病変観察においては病変治療後のヨード取り込み量を測定・管理できるため,CT値による観察を補強することも期待されている。
VNCでは,ヨードと認識した物質を除去して計算上の単純CT画像として表示し,参照CT値(HU*)が用いられる。何らかの事情で単純CTを撮影できなかった場合にヨードを除いたCT画像を作成できることから,濃染部分と見える腫瘤や組織がヨード由来のものかどうかの確認に用いられる。
■Spectral Result臨床応用例3:Z Effective
先に述べた2つの基準物質画像の比率をカラーコード化して,組織の実効原子番号を表したものがZ Effectiveである。実効原子番号とは,元素の質量減弱係数を混合物にも適用したもので,水ならば7.4となる。よって,同じ原子番号を持つ物質であっても混合物の密度の違いで値は変化するため,ヨードの濃染は値の幅を持って表示されてしまうが,血流マップとして肺塞栓症やイレウスの観察に応用されることも多い。結石や石灰化などでは比較的安定した数値を示すことが多いので,腎結石,胆石,骨観察に用いることも可能である3)。
◎
IQonスペクトラルCTは,撮影,収集,画像再構成,解析に至るまで,トータルなシステムデザインによってもたらされたレトロスペクティブ解析が強みである。また,管電圧120kVpの画像が常に得られることは,今後のフォローアップに何ら制約をつけることがない。さらに,通常のCT画像とスペクトラルイメージングを常に比較して観察することは,使用初期の段階から有用性をすぐに実感でき,ルーチン検査への適応が難しくないことをわれわれは多く経験している。今後は,さらなる診断能の改善をはじめ,新たな検査法の確立や治療効果判定,予後予測への応用が多く報告されることを期待したい。
*特定の物質のCT値が大幅に変更されたことを意味する。
●参考文献
1)Rajiah, P., et al. : Benefit and clinical significance of retrospectively obtained spectral data with a novel detector-based spectral computed tomography─Initial experiences and results. Clin. Imaging, 49, 65〜72, 2017.
2)Kalisz, K., et al. : Noise characteristics of virtual monoenergetic images from a novel detector-based spectral CT scanner. Eur. J. Radiol., 98, 118〜125, 2018.
3)Rassouli, N., et al. : Detector-based spectral CT with a novel dual-layer technology ; Principles and applications. Insights Imaging, 276・
3, 637〜610, 2017.
4)Oda, S., et al. : Clinical potential of retrospective on-demand spectral analysis using dual-layer spectral detector-computed tomography in ischemia complicating small-bowel obstruction. Emerg. Radiol., 168, 1171〜1174, 2017.
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