技術解説(フィリップス・ジャパン)

2015年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心臓疾患用ハイブリッド手術環境へのソリューション“Hybrid Suite”─複数モダリティを統合したライブイメージガイダンスツール

坂口 裕一(iXRモダリティスペシャリスト)

昨今,心臓疾患領域におけるハイブリッド手術室の運用が注目されている。ハイブリッド環境におけるフィリップスの製品開発として,2010年にマッケ社製マグナス手術台とのインテグレーション,2011年には「FlexMove」というハイブリッド手術室専用天井走行式Cアームを発表した(図1)。FlexMoveでは,外科用イメージングのような可動性と,アンギオシステムの画質および最新アプリケーションを最大限に活用できるハイブリッドシステムを実現している。また,2014年には,ハイブリッド領域において最適なソリューションを提案する“Hybrid Suite”コンセプトも発表している。本稿では,心臓疾患領域で注目されているstructure heart disease(以下,SHD)において,フィリップスが展開するHybrid Suiteのイメージガイダンスツールを紹介する。

図1 ハイブリッド手術室専用天井走行式Cアーム FlexMove

図1 ハイブリッド手術室専用天井走行式Cアーム FlexMove
フィリップスが提案するハイブリッド手術室専用天井走行式Cアーム FlexMoveとマッケ社製手術台の組み合わせ

 

■EchoNavigator

SHDは心内腔の構造における心疾患のため,従来のようなX線を使った透視や造影撮影では形態の把握が難しい。そのため,リアルタイム三次元経食道超音波(以下,Live 3D TEE)での情報が重要となってくる。しかし,従来はアンギオシステムと超音波診断装置はまったく別のモダリティであり,別々の情報として出力されてしまうため,手技中にチーム内で円滑な情報共有を行うことが一つの課題であった。この課題に対するソリューションとして開発されたのが“EchoNavigator”である。EchoNavigatorは,1つのモニタ上にアンギオシステムのX線透視画像と超音波診断装置のLive 3D TEEの画像情報を統合させたライブイメージガイダンスである(図2)。

図2 EchoNavigatorの操作風景(a)と超音波診断装置「CX50」(b)

図2 EchoNavigatorの操作風景(a)と超音波診断装置「CX50」(b)
EchoNavigatorに接続できる超音波診断装置の1つであるCX50は,Live 3D TEEに対応し,コンパクトかつポータブル運用が可能で手術場での使用に適している。

 

具体的には,X線透視画像と3種類のLive 3D TEEイメージ(エコービュー,Cアームビュー,フリービュー)の合計4種類の画像情報を自由なレイアウトで表示できる。さらに,X線透視画像上に表示されているLive 3D TEEのプローブの形状を特定し,X線透視画像とLive 3D TEEの位置情報を自動で認識するため,位置合わせに関するマニュアル操作はない。位置情報を共有することで,X線透視画像上にLive 3D TEEイメージをオーバーレイするロードマップ機能や,Live 3D TEEイメージ上でマーキングしたポイントをX線透視上に重ね合わせて表示することも可能になる(図3)。これによって,Live 3D TEEとX線透視の両方の画像情報を相互に確認しながら,より安全にデバイスをアプローチできる。特に,海外ではすでに臨床応用が始まっている僧帽弁閉鎖不全症に対するmitral clippingや,心房細動による左心耳内血栓に対するLAA closureなど,新しい治療方法におけるLive 3D TEEの役割は大きく,EchoNavigatorの活躍が期待される(図4)。

図3 EchoNavigatorの実際の運用画面

図3 EchoNavigatorの実際の運用画面
自由に角度を動かせるフリービュー(上段左),X線透視画像と同じアングルで観察できるCアームビュー(下段左),通常のLive 3D TEEと同じ観察角度で表示されるエコービュー(上段右)およびX線透視画像(下段右)が表示できる。
a:X線透視画像上にLive 3D TEEイメージがオーバーレイ表示されている(下段右)。
b:Live 3D TEEイメージ上にてマーキングされたポイント(赤いマーカー)がX線透視画像上に表示され,Cアームの動きにも連動する(下段右)。

 

図4 EchoNavigatorの臨床応用例

図4 EchoNavigatorの臨床応用例
a:septal punctureケースでは,X線透視画像上にLive 3D TEEから得られた心房中隔の情報がオーバーレイされ,より安全な穿刺操作が期待できる。 b:mitral clippingケースでは,X線透視画像上にLive 3D TEEイメージ上にてマーキングした僧帽弁のポイント(赤いマーカー)が表示され,それをターゲットとしてより適切なデバイス操作が期待できる。

 

■HeartNavigator

SHDの中でもいち早く国内での薬事承認が取得され,すでに複数の施設で実際に開始されている手技が,大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI),または経カテーテル大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve replacement:TAVR)である。TAVIでは,術前CTによってデバイスやワーキングアングルなどの必要事項を事前にプランニングし,実際の手技に臨むが,術前のCT画像と実際の手技時の患者体位が異なるなどの理由から,再度手技中に最適なワーキングアングルを決定することも多い。このTAVIに対する支援ツールとして開発されたのが“HeartNavigator”である。
HeartNavigatorでは,術前に撮影されたCTデータから手技時に必要な3D解剖情報をオートセグメンテーションし,最適なワーキングアングルの選択から術中のデバイスアプローチをサポートするロードマップ機能まで搭載されている(図5)。特にロードマップ機能では,術前CT撮影時の体位と手技時の患者体位の位置ズレを補正したワーキングアングルを活用することができるため,デバイスアプローチをよりスムーズに行えることが期待されている。また,従来のマルチモダリティロードマップ機能では,位置ズレ補正のために3Dの回転撮影が不可欠であったが,HeartNavigatorでは2方向の撮影により完結できるため,周辺機器などの干渉に特に注意を払うハイブリッド環境に,より適したイメージガイダンスツールとなっている。

図5 HeartNavigatorの実際の運用画面

図5 HeartNavigatorの実際の運用画面
a:術前のCTデータから必要部位がオートセグメンテーションされる。
b:大動脈弁,冠動脈起始部,上行大動脈などが表示され,最適なワーキングアングルを選択できる。
c:実際のロードマップ画面。大動脈の輪郭,3つの弁尖部,左右の冠動脈起始部がX線透視画像上にオーバーレイされる。

 

フィリップスでは,テクノロジー主導の製品開発ではなく,臨床ニーズに対するソリューションを提供するための技術開発を追究している。今後も日進月歩で進化するデバイスや複雑化する手技に対して最適なソリューションを提供できるような製品開発を行うことで,統合的なイメージガイダンスカンパニーとして最先端医療に貢献していきたい。

 

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