技術解説(フィリップス・ジャパン)
2015年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
フィリップスが可能にする循環器領域におけるアプローチ
守谷 芽実(CTモダリティスペシャリスト)
2004年に64列CTが市場に登場してから現在までに,多くの施設にMDCTが導入され,虚血性心疾患の評価としての心臓CT検査件数は,装置の増加に比例し右肩上がりである。検査件数の急激な増加に伴い,画像診断領域において心臓CT検査は目新しい検査ではなくなってきている。現在の心臓CT検査の主な施行目的は,冠動脈病変の評価である。冠動脈CTによる冠動脈狭窄の診断精度は感度・特異度共に高く,特に陰性的中率は100%に近い値が得られるということが知られている1)。一方で,虚血の有無と冠動脈狭窄率は必ずしも一致しないという報告もされており,治療適応を決定するには冠動脈病変といった形態的情報のみならず,心筋虚血や梗塞といった心機能評価にも着目することが,虚血性心疾患の治療方針決定には重要である。そのため,心臓領域において冠動脈病変の評価以外の新たな側面でのアプローチが求められている。
現状,形態診断はCTで行い,機能評価にはMRI(心筋Perfusion),心エコー,RI(負荷SPECT)と目的別にモダリティを使い分けているのが一般的である。本稿では,フィリップスの最新技術による
心臓CT検査の総合的なアプローチを紹介する。
■Dynamic Myocardial Perfusion
心筋の機能を評価する方法として心筋CT Perfusionがあり,フィリップスでは独自に“Dynamic Myocardial Perfusion”(以下,DMP)を開発した。フィリップス社製CT「Brilliance iCT Elite」は,256スライスのデータ収集を可能としたCTである。検出器幅は80mmに広がり,心筋全体を1回転でデータ収集することが可能である。ガントリ回転速度は0.27秒/回転であり,モーションアーチファクトの少ない画像を寝台移動させることなく得ることが可能となっている。DMPで得られたデータはボリュームデータであるため,撮影後,任意の断面やスライス厚に再構成し評価を行うことが可能である。加えて,心尖部から心基部までの範囲のデータを一度のスキャンで収集しているため,各時相の血流情報をボリュームで得ることができる(図1)。そのため,正確な評価を行うことも可能である。DMPの解析は,フィリップスのマルチモダリティ解析ワークステーションである「IntelliSpace Portal」(以下,ISP)に搭載されている。
心筋CT Perfusionを行う上で問題となるのが“体動”“被ばく”の2つである。心筋CT Perfusionでは,呼吸停止が40秒程度と比較的長い時間行う必要がある。その際の呼吸停止不良により心臓の位置ズレが起こる可能性があり,このズレが解析に大きな影響を与える。また,モーションアーチファクトはCT値に影響を与えるため,解析の精度を向上させるためにはこの補正が重要である。DMP検査においては,各時相における心筋の空間的な位置をそろえるように補正する3D Motion Correctionの技術を用いている。これにより,呼吸による体動や心拍変動の影響を最小限とし,簡便で常に精度の高い結果を得ることが可能となる。一方,被ばくの問題に関しては,後述するフィリップス独自の再構成関数を用いない次世代の逐次近似画像再構成法である“IMR Platinum”を参照していただきたい。
■IMR Platinum
心筋CT Perfusionにおいて懸念される被ばくの問題は,フィリップスの逐次近似画像再構成法である“IMR Platinum(以下IMR)”で改善することが可能である。IMRは従来の統計学的モデルに加え,新たにシステムモデルを採用した独自のアルゴリズムを持った,再構成関数を用いない次世代の逐次近似画像再構成法である。
IMRには3つの大きな特徴がある。
(1) Virtually Noise-Free Imaging:線量や体格,スライス厚に依存することなく最大で90%ノイズ低減が可能。
(2) Improved Low-contrast Detectability:従来の逐次近似画像再構成法では改善されなかった低コントラストの検出能が改善され,FBP法と比較し2.7倍向上している(図2)。
(3) Ultra Fast Reconstruction:一般的に,システムモデル逐次近似画像再構成法は画像再構成に時間がかかり,実際の臨床現場においては制約があると考えられてきた。フィリップスは独自にオリジナル再構成ユニット“IMR cube”を開発した。これにより,体幹部の検査において3分以内で画像再構成を行うことが可能になり,実臨床においての使用が現実的となった。
心臓の包括的な検査を行うにはPerfusion CT,遅延造影CTを加えることになり,従来の検査と比較し大幅に被ばく線量が増えてしまう。しかし,この問題は,先に挙げたIMRの3つの特長により改善することが可能である。また,IMRを用いることにより低線量,低管電圧による画像ノイズを大幅に低減し,これまでの検査項目に追加する役割を担っている。
■TAVI-Planning
経カテーテル的大動脈弁植え込み術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)は,重症の未治療大動脈弁狭窄症に対する治療法としてヨーロッパで注目を集めた手技である。国内でも2013年10月に保険承認された治療法であり,TAVIを施行している医療機関が増えてきている。CTは三次元的な精度の高いデータの取得が容易なことから,SCCTのTAVI/TAVRガイドラインにもTAVI術前CTにおける画像計測の必要性が明記されている2),3)。
ISPには専用の解析アプリケーション“TAVI-Planning”(図3)を搭載することが可能である。TAVI術前情報として必須となる大動脈弁輪径,バルサルバ洞の計測,石灰化の有無・程度,デバイス選択のための大動脈弁輪の直径,弁先端部〜冠動脈起始部の距離の自動解析が可能である。これにより,解析者は装置が自動認識したランドマークを確認し確定するだけで,一連の解析に加え,Cアームのアングルシミュレーションも行うことが可能である。ISPでは,心室,心房,心筋など各部位を解剖学モデルを用いた自動セグメンテーションを行っているため,解析者の経験年数などに左右されることはなく,誰が行っても同じ解析結果になることをコンセプトとして設計されている。
◎
本稿では,CT検査で心臓の総合的な評価を行うための手法を中心に,フィリップスの心臓領域における最新技術を応用したアプローチについて紹介した。CTのワイドディテクタ化によりスキャン時間が短縮され,従来不可能と思われてきた検査が可能となってきた。一方,広範囲の撮影が可能となった反面,被ばくの問題が浮上してくる。この点は,本稿で紹介したIMRを用いることにより大幅に解消することが可能となる。今までは被ばく低減に焦点が置かれてきたが,今後は撮影だけではなく解析までを含めた一連の検査時間の短縮や簡便な検査手法,解析が求められる時代になってくる。フィリップスは今後もPatient Focusを重視したさまざまなソリューションを提供できるよう,日々開発を続けていく。
●参考文献
1)Leschka, S., Alkadhi, H., Plass, A., et al. : Accracy of MSCT coronary angiography with 64-slice technology ; First experience. Eur. Heart J., 26・15, 1482〜1487, 2005.
2)Holmes, D.R., Mack, M.J., Kaul, S., et al. : 2012 ACCF/AATS/SCAI/STS expert consensus document on transcatheter aortic valve replacement. J. Am. Coll. Cardiol., 59, 1200 〜1254, 2012.
3)Achenbach, S., Delgado, V., Hausleiter, J., et al. : SCCT expert consensus document on computed tomography imaging before transcatheter aortic valve implantation(TAVI)/ transcatheter aortic valve replacement(TAVR). J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 6, 366〜380, 2012.
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