技術解説(フィリップス・ジャパン)
2014年9月号
Step up MRI 2014-MRI技術開発の最前線
Ingenia 3.0T CX/Ingenia 1.5T CX─ハイパフォーマンスなデジタルMRIがすべてのルーチンを変える
廣瀬加世子(MRモダリティスペシャリスト)
3T MRIが日本市場に登場して約10年が経とうとしている。患者ごとにRF送信を最適化するMultiTransmit技術の臨床機搭載によって,3T MRIの画像不均一や局所SARの向上が根本的に解決され,3T MRIの利用価値は今や脳神経領域や整形領域だけにとどまらず,軀幹部や循環器領域にまで及んでいる。一方で,条件付きMRI対応ペースメーカーや各種体内インプラントの登場により,1.5T MRIの需要も少なくない。MRI検査は適応患者を広げ,臨床現場ではより効率の良いワークフローと高画質〔高いSNR(信号ノイズ比)〕の両立という,複雑なニーズに応じることが求められる時代となった。「Ingenia CX」は,早いタイミングでのMR信号のデジタル処理技術と,極限まで高めたグラディエントシステムを融合させ,臨床現場のニーズに応えるべく開発されたハイエンドの3Tおよび1.5T MRIである(図1)。
■デジタルコイルとハイパフォーマンスグラディエントシステムの融合
Ingenia CX(Clinical Excellence)に搭載されているデジタルコイルは,アナログデジタル変換器をRFコイル内に内蔵している。人体に一番近いRFコイル内でMR信号増幅からアナログデジタル変換を完了することで,SNRが最大40%*1向上し,画質の向上と検査のスピードアップにつながる。デジタルコイルによる高いSNRを最大限に生かすハイパフォーマンスグラディエントシステムにより,さらなる高画質にこだわることが可能となった。
グラディエントシステムには,シングルとデュアルの2種類を用意した。ショートボアマグネットだからこそ実現できる静磁場の高い均一性や,渦電流の低下はルーチン画像の鮮鋭度の高さにつながる。また,デュアルシステムでは,1つの傾斜磁場コイルに対して,2つのグラディエントアンプの電気回路接続を切り替えることにより,PNS(末梢神経刺激)基準を順守しながら,2種類の傾斜磁場モードの利用が撮像視野に制限なく可能となる。デュアルシステムでは,1.5T MRIで66mT/m,3T MRIで80mT/mの最大傾斜磁場強度を実現し,拡散強調画像の高画質化や空間分解能の追究が可能になる(図2)。もちろん,高いスリューレートと心拍情報が考慮されたMultiTransmit4D技術によって循環器領域の検査も可能である。SAR制限によって短いTRとTEおよび深いflip angleが許されず十分なコントラストが得られないことで,3T MRIの最大難関とされていたSSFPシーケンスによる非造影whole heart coronary MRA(WHCA)も実現可能な範囲である(図3)。
■Vertical Open Magnet
Ingenia CXは,傾斜磁場性能や静磁場均一性の向上のため,ボア最小径は60cmで設計されている。ただし,フレア状のオープンガントリ設計に加え,高感度のデジタルコイルが天板下の寝台可動部に位置するため従来の60cmボア径装置と比べて患者の垂直方向の検査環境は広く確保することができる(図4)。
■Premium IQ・Advanced MR
─より高画質にこだわりを持った,さまざまなアプリケーション
デジタルコイルやハイパフォーマンスグラディエントシステムという強力なハードウエアを得て,よりルーチン検査にこだわるためのさまざまなアプリケーションも登場した。以下にその一部を解説する。
1.dS SENSE
デジタルコイルによるSNR維持,Minimal Artifact Factor(MAF)アルゴリズムによるコイル近傍に位置する組織信号の展開エラーの低減,レギュラリゼーションの改良による背景信号ならびに関心領域外からのノイズ低減が可能になった新しいパラレルイメージングである。高倍速アクセラレーションを利用しても,極端なSNRの低下やアーチファクトの増大を回避することが可能となる。
2.dS Zoom
dS SENSEのアルゴリズムを利用した局所撮像。撮像視野を極限まで絞っても,背景信号の折り返しアーチファクトをコントロールし,撮像時間の延長なく高分解能画像を得ることが可能である。併用適応に制限はなく,例えば,心臓領域において腕からの折り返しアーチファクトを低減した関心領域のみの撮像により,高空間分解能撮像における呼吸停止時間の短縮に期待できる(図5)。
3.single shot TSE Diffusion
高速スピンエコーのデータ収集により,EPI法による磁化率アーチファクトの問題を解決し,診断能の向上が期待できる。従来のTSE DWIから,イメージデータの平均化,RFパルスの矩形化,SENSEの併用,phase navigatorを必要としないsingle shotの実装を行った。これによりエコー時間,データ収集時間の短縮ができ,高いSNRとブラーリングの低減が可能となる(図6)。
■In Control
─シンプルで再現性の高い検査ワークフロー
臨床現場の重要なニーズのひとつに合理的なワークフローがある。デジタルコイルは簡便なコイルハンドリングだけでなく,検査前に自動で得られるコイルサーベイ情報から撮像視野の最大SNRを基準に,使用するコイルエレメントを選択することで,マルチエレメントコイルの合理的な利用をもたらした。また,解剖情報の認識からあらかじめ学習した撮像プランニングを再現するSmartExam機能は,オペレータに依存することのない検査の一貫性をサポートする。新しく搭載されたユーザーインターフェイス“iPatient”は,単なる操作性の自動化やシンプル化ではなく,オペレータの思考ロジックを研究し開発され,高画質と利便性の両立をめざしている。例えば,極端に撮像視野を変更し撮像条件に無理が生じた際は,単純なTRの延長や撮像枚数の低減で自動的に最適化するのではなく,エコートレイン数やTEの最適化などの実臨床レベルのいくつかの選択肢からオペレータが選ぶことで,撮像時間の延長や撮像枚数などの極端な犠牲を回避している。
■今後の発展への期待
2011年のデジタルコイルの登場により,高いSNRによる高画質検査が注目された。将来を見据えたとき,さらなるコイルのマルチエレメント化や,X線被ばくを好まない場合の局所から広範囲のMRI検査のニーズの増大は必至であると考えられる。デジタルコイルはこれらの発展に追従するために,コイル内でデジタル変換を完了させることで,MRI装置本体の大がかりな拡張を必要としないチャンネルフリーという新しい概念も持っている。そして,今回紹介したハイパフォーマンスなハードウエアを基盤として成り立つ,スピーディな撮像や合理的なワークフローの追究は,多くの臨床現場の声を反映させていく足がかりになると期待したい。
*1:フィリップス社調べ。従来フィリップス社製品との比較。
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