技術解説(フィリップス・ジャパン)
2014年4月号
Head & Neck Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
頭頸部領域の最先端血管内治療をアシストする治療支援機能“Live 3D Guidance”
安藤 博明(ヘルスケア事業部XrayModaritySpecialist)
近年,頭頸部に発症するさまざまな病変に対し,新たな血管内治療用デバイスが多数登場するとともに,治療法も急激な発展を遂げている。新たに開発されたデバイスの登場により,高度化しているコンプレックス病変に対する治療効果が期待されているだけでなく,患者に対する治療方針の選択肢も大幅に広がりを見せているが,X線照射量が増加する可能性もより高いと言われている。このような背景から,より長時間のX線照射が想定される過酷な治療環境に対し,きわめて低線量で微細な血管構造の描出能(高画質)を有していることや,術中に使用可能なマルチモダリティー画像支援のインターベンショナルツール(治療支援機能)のさらなる発展が,装置メーカーに対して求められている。フィリップスは,2012年に世界に先駆け,従来のX線装置では実現が難しいとされていた,きわめて低いX線出力で高画質を実現する新たな技術“ClarityIQテクノロジー”の開発に成功し,「AlluraClarity FDシリーズ」として2012年に市場供給を開始した。ClarityIQテクノロジーは,カロリンスカ大学病院(スウェーデン)において臨床評価が行われており,脳血管インターベンション領域において平均73%のX線照射を低減できることが示された1)。本稿では,フィリップスの超低線量システム,および最先端治療をアシストする最新治療支援機能について,頭頸部領域を対象に紹介する。
■低線量/高画質を両立した次世代の革新技術ClarityIQテクノロジー
頭頸部を対象とした血管内治療は,脳動静脈奇形(AVM),硬膜動静脈瘻(d-AVF),内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF),動脈瘤(AN)の塞栓治療や頸動脈ステント留置術(CAS)が主に挙げられるが,それぞれに適応される血管拡張術や塞栓術の専用デバイスが新たに開発されるとともに,複雑な血管構造を持つ病変部を対象とした治療部位へのデバイス操作はより正確性が求められる。そのため,手技は複雑化に加え長時間化しており,患者・術者共に被ばく線量が増加傾向にあると言われている。フィリップスが開発したClarityIQテクノロジーは,FPDの性能を最大限に引き出し低X線出力で高画質を実現する最先端かつ最新の技術であり,大きく分類するとパワフルイメージプロセッシング,フレキシブルデジタルパイプライン,500以上の臨床経験によるシステムチューニングパラメーターで構成されている(図1)。この中核を担うパワフルイメージプロセッシング技術は,従来にない処理方法を確立しており,下記の4つの技術で構成される。
●Real time Pixel shift:従来はデジタルサブトラクション血管造影(DSA)撮影終了後のピクセルシフトでアーチファクトを除去していたが,ClarityIQテクノロジーではAutomatic Motion Control(AMC)機能によりリアルタイムに患者の動きを検出し,ピクセルシフトを行うことが可能である。これにより,撮影中にアーチファクトを抑制し,最適化された画像をリアルタイムに取得可能である。
●Noise reduction:従来より大きなマトリクスのフィルターを採用した空間フィルターによる平面処理と,テンポラルフィルターによる時間軸の並行処理を行い,血管とノイズをより明瞭に分解することが可能となることで,高いノイズリダクションを実現した低線量下撮影で大きく影響されるノイズの大幅増加,コントラスト分解能の低下を効果的に改善する。
●Motion compensation:一般的な動体補正の手法であるテンポラルフィルターによるノイズリダクションは,時間軸方向での重ね合わせを行うため高いノイズ低減効果が得られる反面,大きく動く部位においては残像が残る傾向があった。ClarityIQテクノロジーにおけるMotion compensationは,フレーム間における動態を検出し,静止している領域のみを使用することにより,残像を作ることなくバックグラウンドノイズの低減が可能である。
●Image enhancement:Image enhancementは,エッジやコントラスト,ブライトネスといった画像の調整を行うパラメーターである。これをユーザーの好みに調整することにより,同線量でも異なる画質を得ることができる。ClarityIQテクノロジーでは,画像を細かな周波数に分解し,それぞれを詳細に調整し,末梢血管の描出能を高めることを可能としている。
上記4つの演算処理を効率良く行うため,フレキシブルデジタルパイプラインアルゴリズムを新たに構築し,処理の並行演算と選択に成功した。これらの技術を用い,臨床経験を基に作り上げた500以上のファインチューンによるパラメーターにより,最低限のX線で最適化された高画質診断画像を取得することが可能である。
■頭頸部用アプリケーションLive 3D Guidance(最新治療支援機能)
フィリップスでは,回転撮影から得られる3D画像を術前・術後のみならず,検査・治療中にも使用するというコンセプトを持って開発を進めており,これを“Live 3D Guidance”と呼んでいる(図2)。従来,3D画像は参照画像の域を出ず,術中には表示するのみのものであった。Live 3D Guidanceは,リアルタイム透視画像を統合使用できるアプリケーションとして開発・提供し,手技中にも3D画像を併せて用いることができるようになった。また,3D画像は,AlluraClarity FD20シリーズに統合された専用コンソール(XtraVision)により,リアルタイム性や,装置本体との相互連動などを可能としている。
●リアルタイム3D-RA:2方向撮影が可能なリアルタイム3D-RAは,1つは頭部方向からCアームを挿入するプロペラスキャン,もう1つは体軸に対して垂直方向からCアームを挿入するロールスキャンにより,撮影部位に合わせた選択が可能である。また,高速再構成技術によりリアルタイム表示が可能になったことで,ストレスなく実施が可能であり,脳動脈瘤のコイル塞栓手技などにおいても術中に3D-RAを行い,状態を確認することができるなど,血管内治療の強力な支援ツールとして評価されている。
●マルチモダリティマッチング:前述の3D-RA画像とMR画像,もしくはCT画像を重ね合わせ表示し,3D観察することができる新機能である。方法は簡便であり,事前に撮像(撮影)されたMRもしくはCT画像をオンラインまたはDVDなどのメディアにてXtraVisionへ取り込むことで,X線画像とCT/MR画像の位置合わせが自動的に行われる。この機能により,血管内治療の実施時,血管病変のより詳細な解剖学的情報を得ることが可能である。また,外科的手術前の手術方針や,施術方法の決定にも応用されることが期待される。具体的には,動静脈奇形の本体が血腫に対してどのような位置に存在するか,また流入血管などを判別し,治療方針の指標となる可能性がある。
●XperCT:回転撮影によって取得されたデータを再構成し,CTに近い軟部組織の3D画像が得られる機能である。撮影プロトコールは複数から選択可能で,症例に合わせた5秒スキャン,10秒スキャン,20秒スキャンの選択が可能である。再構成時間においても,さらなる高速化が進んでおり,最短4秒程度,最もデータ量が多い時(620枚,1024×1024マトリクス)においても20秒程度での再構成が可能である。また,近年の血管内治療で使用される頭蓋内ステント描出を行う専用機能や,動脈瘤の塞栓治療で使用されるコイルのアーチファクト抑制機能(メタルアーチファクトリダクション:MAR)が標準搭載され,脳血管内治療においては術前・術後のデバイスの位置/状態の確認など,その用途はさらに広がっていくことが予想される。
●VasoCT:静脈からのインジェクションにより,低コントラストで描出される部位を最適化表示可能なXperCT機能がVasoCT機能である。梗塞部位を伴う脳卒中治療に期待が寄せられる機能であり,梗塞部位の前後の血管構造を完全視覚化することが可能である。梗塞位置の特定からサイズ,方向を視覚化することで治療をサポートできるだけでなく,MRが得意とする静脈の臨床学的構造描出能と同等の描出能の高さが評価されている。
●2D Perfusion:2D Perfusion機能は,DSAに基づいて組織の血流に関する機能情報を提供するソフトウェアとして開発され,Arrival Time(造影剤の到達時間の分布),Time of Peak〔造影剤の(ピーク)到達時間の分布〕,wash-in rate(CBF,造影剤の充満速度の分布),Width(造影剤の滞留時間の分布),Area under the curve(PBV,造影剤の到達量の分布),Mean Transit Time〔造影剤の充満時間の分布(Tissue通過時間)〕をカラーマップとして視覚化することができ,CASなどの血行再建術時に過還流の診断に有用として期待されている機能である。
本稿では,頭頸部領域の最先端血管内治療をアシストする低線量/高画質を両立したClarityIQテクノロジーから,最新治療支援機能を紹介した。近年のデバイス開発は,さらなる治療の選択肢を広げるだけでなく,より複雑な症例への適応が可能となったことでX線照射時間の増加が否めない状況となっている。フィリップスは,次世代のX線照射環境の構築が可能なClarityIQテクノロジーを基に,低被ばくと高度病変部の診断に必要な高画質を両立することで,最先端治療をアシストするだけでなく,術中に使用可能な3Dツールを組み合わせたインターベンション支援ツール(Live 3D Guidance)により,治療に必要な高度医療情報をリアルタイムに提供し,ストレスなく治療を実施可能な環境を提供できるものと確信している。
●参考文献
1)Söderman, M., Holmin, S., Andersson, T., et al. : Image noise reduction algorithm for digital subtraction angiography ; Clinical results. Radiology, 269・2, 553〜560, 2013.
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