技術解説(フィリップス・ジャパン)
2014年4月号
Head & Neck Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
フィリップス・アドバンスドアプリケーション〜脳神経領域編〜
中村 理宣(ヘルスケア事業部MRモダリティスペシャリスト)
“Sensitivity Encoding(SENSE)”の発売から15年が経とうとしている今,そのパフォーマンスに大きくかかわる受信コイルに新たな革命が生まれた。デジタルコイルと呼ばれるその技術は,収集した信号をコイル内でデジタルに変換することで,大幅なSNRの向上をもたらす。同時に,エレメントの数だけ必要としたデータ転送ケーブルを,1本の光ファイバーケーブルでまかなうため,コイルの多チャンネル化時代において革命的な効率化と将来の拡張性をもたらした。
本稿では,デジタルシステムであるdStream技術を生かした脳神経領域の新しいアプリケーションについて解説する。
■次世代のParallel imaging─Premium dS-SENSE
dStream技術を備えたハードウエアをベースに,SENSEアルゴリズムも一新した。エレメント数が2桁を超えるコイルを用いる場合,その中から最適なエレメントを選択することが重要となる。Parallel imagingの場合,不適切なコイルエレメントの使用は,ジオメトリファクター(g factor)の上昇に伴う画質低下をもたらす。そこで,撮像部位とコイルの位置関係,関心領域の大きさ,そしてParallel imagingの倍速設定に応じた,最も効果的なエレメントの組み合わせを選択するアルゴリズムである“SmartSelect”が導入された。また,コイル近傍の感度の高い領域では,Signal to Noise Ratio(SNR)が高い反面,アーチファクトの発生確率も高まる。それらアーチファクトの影響を考慮したMinimal Artifact Factor(MAF)アルゴリズムを用いてSENSEの展開を行うことで,コイル近傍に位置する組織信号の展開エラーを最小限に抑えることが可能となる。さらに,背景領域ならびに関心領域の外からの信号を考慮し,アーチファクトの発生を防ぐようにレギュラリゼーションを改良することで,ノイズを低減した展開精度の高い画像を得ることが可能となる。
このように,SmartSelectのSENSEへの拡張,MAFアルゴリズム,さらには改良されたレギュラリゼーションを組み込んだPremium dS-SENSEは,従来の常識的な設定を大幅に上回るSENSEの倍速を設定可能とした。図1は,Premium dS-SENSEを併用して9倍速を用いて撮像した頭部3D-FLAIR画像である。従来型SENSEと同じ撮像時間で高空間分解能化を実現しており,展開エラーアーチファクトやg factorの影響によるSNRの劣化を認めず,脳神経領域検査の高空間分解能化が期待される。
■高画質と短時間スキャンを可能にしたSWIp
SWIpとは,組織のMR信号に含まれる局所のわずかな位相差(磁場不均一)を位相画像でとらえ,画像処理を行うことにより組織そのものの化学的状態変化に由来する磁化率(オキシヘノグロビン,オキシヘモグロビン,カルシウム沈着)を強調する新しい位相画像コントラスト描出法である。SWIpでは,MRI撮像で取り出された画像情報であるマグニチュード画像と,オリジナル位相画像に対しhomodyne filter法と呼ばれる画像処理を行い,位相アーチファクトが除去された位相画像を作成する。この画像は,組織が示す位相の相対的な違いを強調した画像と考えてよい(位相差強調画像)。また,この処理過程で作成された位相画像とマグニチュード画像を掛け合わせ,磁化率の相対的な違いを描出する磁化率強調画像が作成され,MRI撮像後の後処理により位相差強調画像と磁化率強調画像が作成される。
SWIpのデータ収集法は,高空間分解能3D Fast Field Echo(FFE)法で全脳を対象に撮像する。また,シングルエコー収集ではなく4つのエコーを収集し結合させることで,シングルエコー収集と比較し55〜110%のSNRの向上が実証されている。この高SNRの恩恵は,撮像時間短縮に反映され,前述したPremium dS-SENSEを組み合わせることにより,高空間分解能と短時間撮像の両立を可能とした画像が得られる(図2)。
SWIpで再構成される磁化率強調画像と位相差強調画像を示す(図3)。磁化率強調画像では,静脈血管を強調した画像が得られており,Flow compensation技術により動静脈分離が可能である(図3 a)。位相差強調画像では,デオキシヘモグロビン由来のわずかな位相差を持つ組織(血腫など)を高信号で強調することができ,磁化率強調画像では困難であった石灰化沈着との鑑別が可能である(図3 b)。
■高い信頼性を追究したpCASL
現在,一般的に用いられているArterial Spin Labeling(ASL)の手法は,短いRFパルスを照射しスピンを反転するPulsed ASL(PASL)と,flow-driven adiabaticの原理を利用しスピンを持続的に反転するContinuous ASL(CASL)に大別される。さらに,CASLの課題であったSARの低減を実現したpseudo Continuous ASL (pCASL)は,高いラベリング効率により灌流評価やMRAで臨床応用されている。pCASLは,比較的長い時間,血液を連続的にラベリングし,ラベリングされた血液は定常的に撮像領域に流入する。そのため,1回のRFパルスによって血液を反転するPASLと比べ,高いSNRを有した灌流画像を得ることができる。フィリップスのpCASLでは,ラベリングされた血液の信号強度を最大限に引き出すため,ラベリング前後にRFパルスを照射している。ラベリング前は,B1不均一に影響されにくい最適化されたサチュレーションパルスで撮像領域を飽和させ,ラベリング後はインバージョンパルスの組み合わせで効率良く背景信号を抑制している。さらに,インバージョンパルスの組み合わせは,Post Label Delay(PLD)時間の変化に対し自動的に最適値に設定されるため,いかなるPLDであっても,脳実質信号を抑制することで,脳血管障害や脳腫瘍など疾患によって変化する血液の到達時間において信号に信頼性を増すことができる(図4)。
■ワークステーションツールによるPermeability解析
脳神経領域において,Permeability解析は,血管透過性変化と領域を検出するために重要な役割を担っている。Permeabilityを計算するためのMRデータの取得および処理は,dynamic contrast enhanced MRIのデータより信号強度を造影剤濃度に変換し解析する。フィリップスワークテーション「Intelli Space Portal(ISP)」のPermeability解析ツールでは,Arterial Input Function(AIF)を定義し,Toftsモデルに基づいてKtrans(造影剤がEESへ移行する移行速度定数)とKep(EESからのトレーサーの流出)をカラーマップで算出することができ,治療に関連した組織変化の評価や治療効果のモニタリングに期待されている。
デジタルシステムであるdStream技術を生かした新しいアプリケーションについて解説した。デジタルコイルをはじめとするハードウエアはもちろんのこと,今後さらに,ワークステーションによる定量解析ツール,ならびにアプリケーションの拡充も加速度的に進歩する予定である。
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