技術解説(フィリップス・ジャパン)
2013年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
スイングローテーションアンギオグラフィ─Dual Axis Rotational Coronary Angiography:「XperSwing」テクノロジー
山田 真一(ヘルスケア事業部マーケティング本部クリニカルサイエンティスト)
冠動脈造影の回転撮影の手法は,1998年頃から報告されている1)。当時のメリットは,立体的な解剖学的構造が把握しやすいため,標準の冠動脈造影手法に比べて術者による造影所見の差が出にくい点とされた1)。さらに,回転撮影によって,造影剤使用量とX線被ばくを最大30%低減できる可能性が示唆された2),3)。しかし,Cアームが単純面を1回転する回転撮影では,実際の診断に有用な角度をカバーできないという問題点があった。
フィリップスの「Allura Xper FD 10,20 series digital X-ray system」(Philips Healthcare,Best,the Netherlands)は,CアームをCranial-Caudal方向とLAO-RAO方向の2軸同時に高速かつ正確に制御する高度なメカトロニクス技術を持つ。冠動脈造影臨床に有用な角度に連続的にCアームが動くことができる特別な軌道を見出し,プログラムされた同軌道をCアームがX線を照射しながら回転動作することで,一度の撮影,一度の造影剤注入で,LCAまたは,RCAの診断ができる画像収集を可能にした。これが,Dual Axis Rotational Coronary Angiography:“XperSwing”テクノロジーである。
XperSwingのフィージビリティスタディは,堀崎,加藤ら日本の医師チームにより,世界に先駆けて実施された4)。本稿では,まず,XperSwingの技術について概説を加えた後,日本のフィージビリティスタディで明らかにされた臨床メリットについて報告された論文4)の結果を中心に紹介する。
■XperSwingの技術概説
前述したAllura Xper FD 10,20 series digital X-ray systemは,豊富な経験が凝縮された鋼体デザインと,高精度ベアリング技術に支えられたCアーム動作の設計によって成り立っており,LAO-RAO方向に最大1秒間に55°という高速で回転させても,本体に置いたコインが微動だにしないレベルの高鋼性を誇る。プログラムした通りにLAO-RAO方向に動作中に,Cranial-Caudal方向にも2軸同時に回転動作を実行する(Dual Axis Rotation)ことが可能である(図1)。
一方,LCAを例にとると,標準の冠動脈造影で診断に有用なCアームの角度をグラフ(横軸:LAO-RAO方向の角度,縦軸:Cranial-Caudal方向の角度)にプロットすると,図2のように分布することがわかった。これらの離散的な点を結び,なめらかな曲線でフィッティングすると図3のようになる。LCAの場合は,この軌道がシステムにプログラムされて,Startの角度からEndの角度までCアームが連続性のある2軸同時の角度変化の軌道を描いて動作する。RCAの場合も同様に,診断に有用な角度を調査の上,図4の軌道を見出し,システム上に軌道を描くプログラムが設定された。
最新のプログラムによると,LCAでは,Cアームがプログラムされた軌道を描くために要する時間が5.3秒,RCAでは,4.0秒である。Cアームの複雑な動作だけでなく,動作中に撮影レベルのX線を安定的に出力するためのX線制御機構に,高度な技術が必要なことは言うまでもない。
図5に,LCAの1回のXperSwing撮影で得られた一連の画像から,10の代表角度をピックアップしたviewを示した。画像は,矢印の順序で連続的にCアーム角度が変化しながら得られる動画として,ダイナミックにモニタ上に表示される。
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■XperSwingの臨床メリット
フィージビリティスタディの報告によると,フラットパネルディテクタを搭載したバイプレーン血管撮影装置(Allura Xper FD10/10)上で,標準の冠動脈造影検査とプロトタイプXperSwingを用いた造影検査について,撮影回数,造影剤使用量,X線被ばくの観点で評価を行った。結果は,標準造影と比較してXperSwingでは診断能を損なうことなく,撮影回数は標準では9.1回であったのに対し,XperSwingでは2.5回の撮影と,操作が少なくなった。造影剤使用総量は,標準の33.5mLに対し,XperSwingでは27.2mLと有意な低減(p<0.05)を認めた。
XperSwingは,これらの日本におけるイニシャルなスタディに始まり,その後の臨床経験5)等を反映し,動作プロトコールの最適化が図られて現在の製品(オプション扱い)に至っている。海外での使用ケースも増え,造影剤使用量は平均93.1mLから50.9mLに低減(55%低減),X線被ばく線量が平均27.6mGycm2から18mGycm2に低減(65%低減)との最近の報告がある6)。
さらに,日本は,XperSwingテクノロジーの本格的な臨床応用という点で先んじており,貴重な臨床メリットが発見され始めている。
●参考文献
1)Tommasini, G., et al. : Panoramic coronary angiography. J. Am. Coll. Cardiol., 31・4, 871〜877, 1998.
2)Maddux, J.T., et al. : Randomized study of the safety and clinical utility of rotational angiography versus standard angiography in the diagnosis of coronary artery disease. Catheter. Cardiovasc. Interv., 62・2, 167〜174, 2004.
3)Akhtar, M., et al. : Randomized study of the safety and clinical utility of rotational angiography vs. standard coronary angiography using a flat-panel detector. Catheter. Cardiovasc. Interv., 66・1, 43〜49, 2005.
4)Horisaki, T., Katoh, O., et al. : Feasibility evaluation of dual axis rotational angiography(XperSwing)in the diagnosis of coronary artery. MEDICAMUNDI, 52・2, 11〜13, 2008.
5)Hudson, P.A., et al. : A novel dual-axis rotational coronary angiography evaluation of coronary artery disease-case presentation and review. Clinical Cardiology, 33・7, 16〜19, 2010.
6)Antonio, E., et al. : Comparison of dual-axis rotational coronary angiography(XPERSWING)versus conventional technique in routine practice. Rev. Esp. Cardiol., 65・5, 434〜439, 2012.
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