技術解説(フィリップス・ジャパン)

2013年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

乳幼児MRCAを可能とするフィリップスMRIの撮像技術力

武村 濃/勝又 康友/福間由紀子/諏訪 亨/中川 太(ヘルスケア事業部アプリケーション部)

小児冠動脈疾患のうち,4歳以下の乳幼児に好発する原因不明の熱性発疹性疾患である川崎病は,全身の中小動脈を侵す系統的血管炎で約5〜10%に冠動脈瘤を合併する。その後,瘤は閉塞や狭窄に進展する例が少なからず見られ,このため,冠動脈瘤を有した小児は生涯にわたり,心カテーテルによるX線冠動脈造影による経過観察が必要となり,重篤な例ではその検査間隔も短い。それに対し,MDCTは,造影剤使用やX線被ばくはあるものの,比較的低侵襲に明瞭な冠動脈画像を得られるようになってきたが,高心拍,息止め不可能な乳幼児においては,撮影に困難を来すことがある1)
一方,MRIは動きに対し弱いイメージがあるが,心拍動と呼吸に対する正確な同期法や撮像シーケンス等の進歩にて乳幼児心臓検査(MR coronary angiography:MRCA)に取り入られている2),3)
本稿では,フィリップスが誇る撮像技術と,筆者が研究をしてきた川崎病冠動脈撮像への取り組みを述べさせていただく。

■撮像技術

乳幼児期は,年齢のみならず体型の大小は多様であり,乳幼児のMRCAを明瞭に画像化するためには,豊富な受信コイルのラインナップにより,各体型に応じた最適なコイル選択を行うことで高い信号強度を確保し,高空間分解能を得ることが求められている。さらに,高心拍数に対しては,自由度の高いパラメータ群を適時最適化することで,細い冠動脈の乳幼児MRCAを可能としている。

1.撮像シーケンス

冠動脈撮像には,造影剤を用いることなく血液を高信号に描出するBalanced法,血液を抑制し低信号に冠動脈を描出するBlack Blood(BB)法の2種類がある。BalancedシーケンスによるMRCAは,心臓全体を三次元ボリュームデータで取得し4)図1 a,c),三次元再構成装置などでMPR法,MIP法,VR法などにて冠動脈形態評価を行う(図2)。BBシーケンスでは,冠動脈の短軸断面を撮像することで,冠動脈の血管壁描出,瘤内血栓や内膜肥厚評価を可能としている。
各シーケンスは,turbo field echo(TFE)法であるため,高心拍の乳幼児MRCAを明瞭にとらえるためには,TFE factor,trigger delay設定の自由度が大きなキーとなる。TFE factorの数は1単位で設定可能であり,この設定は1心拍内のdata acquisitionと関係する(図1 b)。

図1 乳幼児撮像条件とパラメータ設定状況

図1 乳幼児撮像条件とパラメータ設定状況
a:撮像断面設定例
b:trigger delay,data acquisition例
c:乳幼児撮像条件

 

図2 MRI冠動脈三次元再構成画像

図2 MRI冠動脈三次元再構成画像
a:左前下行枝MPR像
b:右冠動脈MIP像
c:VR像

 

2.受信コイル

乳幼児を対象とした場合,局所的に感度の高い受信コイルが望まれる。フィリップスには,乳幼児専用として,コイル径の小さい受信コイルが1エレメント11cm, 14cm系の2chフェーズドアレイコイル(図3 a),また最新コイルとして8chコイルも登場した(図3 b)。これらのコイルは,乳幼児を対象としたシミュレートされたコイル設計のため,高い受信感度とSENSE併用により,高速化撮像を実現している。

図3 乳幼児専用受信コイル装着状況

図3 乳幼児専用受信コイル装着状況
a:Flex M coil(φ14cm×17cm)
b:8ch Pediatric Torso/Cardiac coil

 

3.同期技術

同期技術には,呼吸同期法,心電図同期法の2種類ある。呼吸同期法には,navigator echo法により横隔膜の動きをリアルタイムにモニタリングするMotionTrak機能を使用している。乳幼児の振幅が浅い横隔膜の動きを正確にモニタリングし,呼気時相のみを最適なタイミングで収集することで,明瞭な冠動脈画像を取得可能とする。
心電図同期法に対しては,静磁場内でも安定した心電図波形を得られるVCG(Vector-ECG)を採用している。乳幼児の100bpm前後の高心拍に対して,cine MRIで心臓の動きを正確に画像化し,冠動脈が静止しているタイミングのみ収集するように,trigger delayとデータ収集時間を正確に設定する。

■症例

1.症例1

5か月時川崎病発症男児(体重12.1kg,心拍115bpm)。心カテーテル検査を7か月時に施行し,左右冠動脈瘤を認めた。その1か月後の8か月時に,MRIによるMRCAを施行し,左右冠動脈を末梢まで明瞭に描出し,1か月前の心カテーテル検査時から変化を認めた(図4)。

図4 症例1:5か月時川崎病発症男児

図4 症例1:5か月時川崎病発症男児
a,b:心カテーテル画像

 

2.症例2

3歳8か月時川崎病発症男児で,2004年10月より,約半年ごとにMRCAによる経過観察を施行している。初回MRCAで,右冠動脈瘤が起始部から末梢まで続くことが明瞭に確認された(図5 a)。しかし,半年後の経過観察にて,balancedシーケンスにて瘤内信号の不均一性(図5 b),またBBシーケンスにて瘤内血栓の出現が示された(図5 e)。さらに,半年後の2004年9月のbalancedシーケンスで,異常な高信号を瘤内に認め(図5 c),BBシーケンスにおいても高信号を伴い,血栓性閉塞瘤が確認された5)図5 f)。発症から1年半後の,2006年4月の5歳時でのMRCA撮像では,前回の検査時に認めた血栓信号は描出されず,右冠動脈瘤内に数本の再疎通血管が確認された(図5 d,g)。約2年間で,本症例は冠動脈瘤⇒瘤内血栓⇒閉塞瘤⇒再疎通血管と血管形状が変化する状態を,MRCAにて経時的に描出し得た。

図5 症例2:3歳8か月時川崎病発症男児

図5 症例2:3歳8か月時川崎病発症男児
c,d:MRI冠動脈画像

 

■乳幼児MR冠動脈撮像のベネフィット

MRCAを撮像するには,検査時間は最短でも30分を要するほか,静止が困難な乳幼児では睡眠剤の使用が欠かせず,検査中止や延期などのデメリットも存在する。しかし,それ以上のベネフィットは,「無被ばく,無造影で非侵襲的に冠動脈の評価を可能とする」点である。
川崎病では,定期的な心カテーテル検査による経過観察が必要だが,検査にはさまざまなリスクを伴う6),7)。そのため,鈴木らは,川崎病冠動脈障害例に対するMRIによる冠動脈評価の有用性を報告している5),8)。鈴木らは,MRIにより冠動脈狭窄が進行し虚血が見られたケースでは,治療を前提とした心カテーテル検査を勧め,逆に瘤のみや狭窄程度が進行していない場合は心カテーテル検査なしでMRCAによる経過観察を行っている。リスクの高い心カテーテル検査の回数を減らし,外来検査として繰り返し施行可能な非侵襲的MRCAを施行することは,患者や保護者の精神的,経済的,時間的負担の軽減に有用であり,経過観察からの脱落を防ぐことができる。
さらに,最近では,川崎病既往例の妊娠前,妊娠中の冠動脈障害のMRIスクリーニングを希望する例も増加している。
本稿を参考にしていただき,侵襲性の高い検査による経過観察回数を可能なかぎり減らしてMRCAに置き換えることで,各施設において乳幼児MRCAが普及することを望んでいる。

〈謝辞〉
本原稿作成にあたり,症例画像協力とご教授いただいた八重洲クリニック・鈴木淳子先生に深謝いたします。

●参考資料
1)鈴木淳子, 武村 濃 : MRIによる評価. 小児科診療, 7, 1071〜1076, 2006.
2)Takemura, A., Suzuki, A. : Utility of coronary MR angiography in children with Kawasaki disease. Am. J. Roentgenol., 188, w534〜539, 2007.
3)武村 濃 : フィリップスMR撮像技術による小児心臓MRI. 日本小児放射線学会雑誌, 26・2, 4〜9, 2010.
4)Weber, O.M., Martin, A.J., et al. : Whole-heart steady state free precession coronary artery magnetic resonance angiography. Magn. Reson. Med., 50, 1223〜1228, 2003.
5)Suzuki, A., Takemura, A., et al. : Magnetic resonance coronary angiography to evaluate coronary arterial lesions in patients Kawasaki Disease. Cardiol. Young, 16, 563〜571, 2006.
6)Suzuki, A., Kamiya, T., et al. : Fate of coronary arterial aneurysms in Kawasaki Disease. Am. J. Cardiol., 74, 822〜824, 1994.
7)Takahashi, K., Oharaseki, T., et al. : Phthological study of postcoronary arteritis in adolescents and young adults: with reference to the relationship between sequelae of Kawasaki disease and atherosclerosis. Pediatr. Cardiol., 22, 138〜142, 2001.
8)稲葉利佳子, 鈴木敦子・他 : MR Coronary Angiographyにおける川崎病の局所性狭窄とセグメント狭窄(再疎通血管)の描出. Prog. Med., 23・7, 1773〜1777, 2003.

 

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