X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)
第2回X線動態画像セミナー[2020年3月号]
実臨床における有用性の報告:ディスカッション
X線動態撮影による肺血流評価
山崎 誘三(九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野)
本講演では,胸部X線動態撮影による肺血流イメージングについて,2症例を提示する。
症例1:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
症例1は,69歳,女性。2019年1月頃に労作時息切れを主訴に他院を受診し,肺血栓塞栓症(PE)と診断された。抗凝固療法を施行したが症状が残存し,慢性化が疑われたため,当院にて胸部X線動態撮影を行った。
胸部単純X線写真(図1 a)では明らかな異常は認められなかったが,右肺のX線肺血流イメージング(図1 b)では,両肺野に区域性の欠損が多発していた。99mTc-MAA肺血流シンチグラフィ(図1 c)では,CTEPHに特徴的な区域性の欠損が多発しており,X線肺血流イメージングの所見とも一致していた。造影CTのヨードマップ(図1 d)においても同様の所見であった。右心カテーテル検査の結果,平均肺動脈圧は43mmHgであり,CTEPHと診断された。肺高血圧症(PH)は,(1) 肺動脈性肺高血圧症(PAH),(2) 左心疾患によるPH,(3) 呼吸器疾患および/または低酸素血症によるPH,(4) CTEPH,(5) 原因不明および/または複合的要因によるPHの5つに分類され,診断ではこれらを鑑別する。
CTEPHは,6か月以上の抗凝固療法で溶解しない肺動脈内の器質化血栓があり,平均肺動脈圧は≧25mmHg(正常値は<20mmHg)と定義されている。PHとPEの2つの側面を持ち,明らかな肺塞栓症の既往がないままにPHを契機として見つかることもある。
最近提言されているPHの診療アルゴリズム1)では,肺換気血流シンチグラフィによるCTEPHのスクリーニングを,早期に行うことが重要視されているが,胸部X線動態撮影による肺血流イメージングは将来,肺換気血流シンチグラフィの前に行うスクリーニング検査としての位置づけを担っていける可能性があると考えている。
また,別のCTEPH症例の術前・術後の肺動脈造影画像とX線肺血流イメージングを比較すると,術後に血流が回復している様子が同様に描出されており,X線肺血流イメージングは治療後の肺血流の評価への活用も期待される。
症例2:巨細胞性動脈炎,左肺動脈高度狭窄
症例2は,74歳,男性。呼吸困難と咳嗽を主訴に前医を受診し,肺炎との診断で抗生剤加療後にも症状が維持したため,当院にて胸部X線動態撮影を行った。胸部単純X線写真(図2 a)では,右の肺血管が拡張しているのに対し,左の肺血管の描出は少ない印象であった。X線肺血流イメージング(図2 b)では,左肺の血流が極端に乏しいことがわかる一方,X線肺換気イメージング(図2 c)では,両肺とも均一に換気されていた。肺換気血流シンチグラフィおよび造影CTのヨードマップ(図3)では,同様の所見が得られた。造影CTでは,左肺動脈主幹部が高度に狭小化して周囲に軟部影が広がっており,肺動脈3D画像でも左肺血管の描出が乏しかった。FDG-PET/CTでは,造影CTの軟部影に一致してSUVmax=7.6の高集積が見られ,これらの結果を踏まえて,巨細胞性動脈炎による左肺動脈高度狭窄と診断された。
胸部X線動態撮影を行うことで,換気・血流に関する情報を簡便に取得することができ,造影CTやシンチグラフィが気軽に利用できない状況においても有用であると思われる。
●参考文献
1)Frost, A., et al. : Diagnosis of pulmonary hypertension. Eur. Respir. J., 53(1): 1801904, 2019.