X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第1回X線動態画像セミナー

RSNA 2016受賞講演 Certificate of Merit

Dynamic Chest Radiography Using Flat Panel Detector System:Technique

田中 利恵(金沢大学医薬保健研究域保健学系)

田中 利恵(金沢大学医薬保健研究域保健学系)

本講演では,胸部X線動態撮影の技術的特徴およびわれわれが行った動物実験の成果について報告する。

胸部X線動態撮影の技術的特徴

胸部X線動態撮影は,低線量のX線動画撮影による新しい肺機能診断法である1)。15fpsで10秒間撮影を行い,150フレームのX線写真を取得する。胸部単純X線撮影との違いとして,呼吸法が挙げられる。また,胸部X線動態撮影の被ばく線量は,国際原子力機関(IAEA)が推奨している2方向の胸部単純X線撮影の合計線量1.9mGyよりも低く抑えることができる。これは,FPDの技術進歩によって,従来技術よりも低線量での撮影が可能になったためである。コニカミノルタのFPDは,入射線量と出力のピクセル値間に高い直線性がある。これに,3〜15fpsのX線パルスを照射するX線発生装置を組み合わせることで,一般撮影室での胸部X線動態撮影が可能となった。
胸部X線動態撮影では,横隔膜や胸郭,肋骨,心壁の動き,呼吸・心拍動による肺野内の濃度変化などを動画像で観察できる。動画像で横隔膜運動の観察が可能になることで,可動域と動くタイミング,左右の同調性の評価を行える。また,フレームごとに肺尖部から横隔膜までの距離を計測して,呼吸による移動量や可動域,動くタイミング,同調性などをグラフ化することで,詳細な定量評価も可能になる。
さらに,注目すべきは,胸部X線動態撮影ではX線透過性の違いによって生じる肺野内のピクセル値の変化を白黒の濃淡で表せることである。ピクセル値の変化には2パターンあり,1つは単位容積あたりの肺血管と気管支の密度変化により,肺野内が呼気では白く,吸気では黒くなる。もう1パターンは,心拍動に伴う血流動態に変化により,肺野が収縮期には白く,拡張期では黒くなる。ただし,これらを肉眼で評価するのは困難なためデジタル画像処理を行い,換気や血流を強調したカラー画像を作成する。

動物実験による胸部X線動態撮影の評価

われわれは,平成26〜28年度ふくしま医療福祉機器(救急・災害対応医療機器)開発事業費補助を受け,滋賀医科大学,福島県立医科大学の協力を得て,ブタを用いた動物実験を行った。本実験では,(1) 1回吸気量の増減をピクセル値で描出し,カラー強度で変化量を表現する,(2) 人工的に無気肺をつくり,カラーで欠損部として描出する,という2テーマについて検討した。
本実験の結果として,(1) については,1回吸気量の上昇に合わせてピクセル値も増加し,カラー強度でそれを表現することができ,1回吸気量とピクセル値の変化量に高い相関を確認した(図1)。また,正常モデルと右肺無気肺モデルの1回換気量を比較すると,正常モデルでは左右の肺に有意差が認められないが,右肺無気肺モデルでは有意に右肺のピクセル値が減少し,正常な左肺のピクセル値が上昇した。これは,機能維持のために,正常な左肺の1回換気量が増加したのが理由だと考えられる。

図1 右横隔膜神経麻痺による肺胞低換気症候群

図1 右横隔膜神経麻痺による肺胞低換気症候群

 

(2) については,正常な左肺とカテーテルを用いて意図的に気道閉塞させた右肺の初期呼気相でのピクセル値を見たところ,正常な左肺のピクセル値は上昇し,閉塞した右肺のピクセル値は変化量が減少してフラットな状態になることが確認できた(図2)。また,吸気直後の初期の呼気相で気道閉塞させた場合には,閉塞している右肺が高ピクセル値を保ったままフラットな状態になり,Air trappingが起こっていると考えられた。さらに,無気肺モデルでは,呼気のたびにピクセル値が上昇していくケースも確認された。これは,肺野内の過膨張をとらえていると思われ,胸部X線動態撮影はAir trappingの描出も可能であるとの結果が得られた。われわれは,肺葉ごとにも無気肺モデルでも検討を行ったが,いずれも無気肺部位のカラー強度の減少や欠損を描出できた。
これらの検討から,胸部X線動態撮影では,1回吸気量の相対的な評価が行え,肺葉単位での肺換気障害を検出できることが明らかになった。また,Air trappingと気流制限の鑑別診断も行えると考えられ,一般撮影室において造影剤を使用せずに低侵襲な肺機能診断が実現する可能性が示された。このほか,われわれは,肺血流解析の可能性についても検討し,血流に応じてピクセル値が変化して,カラーマッピングを行うことができた。

図2 横隔膜の動きの定量的比較

図2 横隔膜の動きの定量的比較

 

今後の展望

胸部X線動態撮影は,肺胞レベルでの肺換気ではなく,肺血管や気管支の密度変化といった相対的な肺機能を描出していることを念頭に置く必要がある。しかし,胸部X線動態撮影は,「静から動へ,形態から機能へ」と,一般撮影室で得られる診断情報を飛躍的に増やす可能性を秘めた,新しい肺機能診断技術だと言えよう。

●参考文献
1)Tanaka, R. : Dynamic chest radiography ; flat-panel detector(FPD)based functional X-ray imaging. Radiol., Phys. Technol., 9・2,139〜153, 2016.

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