技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)
2020年3月号
Dual Energy CT(DECT)の技術の到達点
Dual energyの臨床でのルーチン使用に向けて
Hao Zhong(GEヘルスケア・ジャパン(株)CT営業推進部Clinical Leader)
dual energy CTでは,CT値をベースとした各エネルギーの画像を作成する仮想単色X線画像(monochromatic画像:Mono画像)や,ヨードや水,脂肪などの各種密度値を画像化した物質弁別画像(material decomposition画像:MD画像),また,実効原子番号画像などが作成可能となり,従来のsingle energy CTと比較し,さまざまな臨床的アウトカムを得られる撮影法として,近年,特に臨床応用が進んでいる。具体的な用途としては,低keVのMono画像やヨード密度画像を利用した造影効果の向上や確認のための画像をはじめ,MD画像を利用した頭部術後における出血と造影剤の弁別や,実効原子番号画像を利用した結石の種類弁別,また,脂肪密度画像や各keVにおけるCT値解析を利用したプラークの性状評価など,全身にわたってその臨床応用領域が広がってきている1),2)。
GEでは,2009年にfast kVp switching方式によるdual energy撮影であるGemstone Spectral Imaging(以下,GSI)をリリースして以来,ハードウエア・ソフトウエア共に進化を続け,現在は多くの機種にGSIが搭載されている。国内においては200を超える施設にて,GSIによる撮影が可能となっている。本稿では,このように使用が広がってきているGEのdual energyについて,臨床でのルーチン使用を支えるハードウエアやソフトウエア,また,ワークフローについて概説する。
Gemstoneシンチレータ
dual energyの画像クオリティを上げる要素としては,異なる2つのエネルギー差を大きくすること,また,2つのエネルギーの収集時間のズレを極力短くすることが求められる。GSIでは,その2つの要素を高いレベルでバランス良く満たすために,fast kVp switching方式を採用している。fast kVp switching方式は,異なる管電圧のX線を照射することにより,大きいエネルギー差を確保するとともに,高速にエネルギーを切り替えることにより,2つのエネルギーから収集されたデータの空間的・時間的ズレを少なくすることによって,dual energy処理をする際のエラーを極力少なくすることが可能である。このfast kVp switching方式を支える根幹の技術として,Gemstoneを素材とした検出器が挙げられる。以下に,GE中央研究所(図1)とともに開発したGemstoneの開発の過程を述べる。
GE中央研究所では,CTやMRIなどの医療分野だけでなく,エネルギー技術分野,航空機エンジンや大型列車分野,水質環境分野など,さまざまな分野の開発を行っている。CTに使われるシンチレータの素材について,このGE中央研究所とともにさまざまなマテリアルの研究開発を行った。
まず最初に,数万種類のマテリアルの検討から入り,約100種類のマテリアルから個別のシンチレータを作成し,各種の検討を行った上で4種類まで絞り込み,徹底的にテストを繰り返した。その結果,最終的に下記に挙げた理想的なシンチレータに求められる条件を満たすものとして,Gemstoneを選定することとなった。
・従来に比べ圧倒的に高速応答性を持つこと
・非常に安定した物質であること
・radiation ダメージに強いこと
このGemstoneが今までのシンチレータ素材とまったく違うものであるという点の一つとして,酸素化合物ではないという点が挙げられる。酸素化合物は,生成しやすく安定したものが作りやすいメリットがある反面,透過した光の速度を遅くしてしまう特性を持つ。そのため,光学特性に限界が生じていたが,Gemstoneは1月の誕生石であるガーネットと同じ結晶構造であり,非酸化物で非常に高い光学特性を有し,かつ安定した素材である(図2)。実際に,ガーネット結晶構造の光学特性の高さは一般的に知られており,医療分野ではYAGレーザー(イットリウム,アルミニウム,ガーネットを用いたレーザー)などにも採用されている。例えば,一般的な素材であるガドリニウムオキシサルファイド(以下,GOS)と比べると,その光学特性や耐久性など一目瞭然である(図3)。
従来のGOSに比べて100倍速い応答速度と1/4のアフターグローは,CTにとってさまざまなメリットを生み出すことができる。特に,異なる2つのエネルギーを同時に収集することが求められるfast kVp switching方式で行うdual energyにおいては,必要不可欠な技術である。
3D Collimator
GEのフラッグシップモデルである「Revolution CT」は,160mmのワイドカバレッジ検出器を有し,それに搭載されているdual energy CT技術である“GSI Xtream”は,80mmのカバレッジでdual energy撮影が可能である。ワイドカバレッジ検出器において,従来の検出器と比較して最も問題となる点として,散乱線の影響が挙げられる。その散乱線の影響を抑えるため,Revolution CTには「3D Collimator」が搭載されている。3D Collimatorでは,従来の1D collimatorと比較し,各データ収集装置(以下,DAS)と管球の焦点を結ぶ線上で,それぞれcollimatorの角度を調整することにより,効果的に散乱線を除去することが可能である。また,X線フォトンを効率的に収集するために,各DASも管球の焦点を向くように調整されている(図4)。
図5に,1D collimatorと比較した際の3D Collimatorにおける,scatter-to-primary ratio(以下,SPR)の除去率のグラフを示す。これは,35cm水ファントムに対し,各管電圧において最も散乱線の影響を受けるアイソセンタでの1D collimatorに対する3D CollimatorのSPRの除去率を示したグラフである。すべての管電圧において,3D Collimatorの方が,SPRが50%以上除去されている。GSIのデータ収集には80kVpおよび140kVpが使われており,この散乱線の除去が画質の向上につながっている。
図6に,1D collimatorと3D Collimatorでの水密度画像の精度の比較を示す。こちらは,35cm水ファントムを撮影した際の5mmカバレッジ検出器と160mmカバレッジ検出器での水密度画像の密度値を比較したグラフであるが,5mmカバレッジ検出器では散乱線の影響が少なく,1D,3D Collimatorの両方で,ほぼ水の真の密度値である1000mg/mLの値が計測されている。
一方,160mmカバレッジにおいては,1D collimatorは散乱線の影響を受け,1005.82mg/mLへ測定値がシフトしているが,3D Collimatorでは散乱線の影響を抑えることにより,測定値が1000.96mg/mLと,そのシフトが大幅に抑えられている。
50cm FOV
dual energyを実臨床で使用していくためには,さまざまな患者に対応する必要がある。GSIでは,1管球1検出器のfast kVp switching方式を採用しているため, single energyと同様に50cm FOVでの画像再構成を可能としている。50cm FOVにより,大柄な患者でも臓器すべてを描出することが可能となり,また,ポジショニングが難しい救急の領域でも,制限されることなく実臨床で使用することが可能である。図7に,50cm FOVが有用であった症例を示す。本症例は右肺に結節のある患者であるが,35cm FOV(図7 c)では被写体全体を描出することができないのに対し,50cm FOV(図7 b)では,結節における各種dual energy解析が可能であった。
線 量
実臨床でdual energyを使用していくためには,線量も重要な要素となる。GSIでは,収集する各管電圧のバランスの調整や,“ASiR-V”をはじめとするノイズ低減アルゴリズムを搭載することにより, single energyと比較しても線量を増加させることなく同等の画質を描出し,かつsingle energyにはない臨床的アウトカムを提供することが可能である。GSI Xtreamにおけるsingle energyとの線量および画質の比較を示す(図8)。これは,大・中・小それぞれの患者サイズを想定し,人体ファントム〔Quality Assurance in Radiology and Medicine(QRM)社製〕における線量と画質を評価したものである。それぞれの患者サイズにおいて,CTDIvolは,〜19mGy(大サイズ),〜11mGy(中サイズ),〜7.8mGy(小サイズ)であり, single energyとの差も5%以内となっている。また,同等レベルの線量で撮影された各画像におけるSDについても,single energyと同等である。これらは,dual energyでもsingle energyと比較し,線量を増加させることなく,実臨床で使用できることを示している。
ワークフロー
上記にて示した各種技術で実現したGSIの画像クオリティを実臨床において活用していくためには,ワークフローの向上が必要不可欠である。従来,dual energyでは画像再構成のスピードが遅く,また,dual energyを生かすために各種画像を再構成する必要があるというワークフローの煩雑さがルーチンでの臨床活用の妨げとなっている側面があった。GSI Xtreamは,dual energyのハードルであったワークフローを大幅に改善し,多くの施設で実臨床での使用を実現している。
GSI Xtreamの再構成速度については,ハイスペックな「Xtreamサーバー」および新しい画像再構成プロセスである“GSI Smart Recon”により,従来と比べて約8倍の画像再構成速度を有している。これは,約2500枚の画像を1分弱で画像再構成することが可能であり,各種画像を再構成するために画像枚数が多くなりがちなdual energyを実臨床で活用するために重要な機能となっている。
図9に,GSI Xtreamのワークフローを示す。GSI Xtreamでは,スキャンから画像再構成,転送まで,自動化された一連の流れで進めることが可能である。スキャン前においては撮影目的に応じてGSIプロトコールが選択され,被写体の大きさに応じて線量も自動的に設定される。スキャン後の画像再構成については,検査のワークフローを妨げない方式が採用されている。例えば,dual energy検査において代表的な造影検査を例に取ると,一般的にsingle energyで使用されるエネルギー画像に加え,低エネルギー画像,ヨード密度画像などが追加画像として求められることが多い。また,ほかの検査では,それに加え各種密度画像や仮想単純画像などが求められることもある。従来の画像再構成プロセスでは,再構成する画像の種類が増えるに従って,その分再構成時間も延長していたが,GSI Smart Reconでは,同時並行処理プロセスを使用することにより,複数種類の画像を再構成しても再構成時間が長くなることなく,1種類の画像を再構成するのと同じ時間で再構成可能となっている。また,プロトコールに組み込むことにより,各種画像を任意の転送先に自動的に転送し,必要に応じて読影することが可能である。これにより,実臨床においてワークフローを妨げることなく,さまざまな症例に対応したプロトコールを構築することが可能となる。
◎
GSIをリリースして約10年が経過し,その中でハードウエア・ソフトウエア共に改善していくことによって,画像クオリティおよびワークフローを向上し,dual energyがただ研究目的にのみ使用されるのではなく,実臨床においてルーチンで使用されるようになってきた。実際に,国内においても,ほぼ全例をGSIで撮影している施設も増えてきており,さらなる有用性の検討が期待されている。今後も研究のみならず,日常の臨床において貢献できる技術の開発を継続していく。
マルチスライスCTスキャナ Revolution
医療機器認証番号:226ACBXZ00011000号
マルチスライスCTスキャナ LightSpeed 類型Revolution
医療機器認証番号:21100BZY00104000号
AW サーバー
医療機器認証番号:22200BZX00295000
アドバンテージワークステーション
医療機器認証番号:20600BZY00483000
●参考文献
1) Patino, M., Prochowski, A., Agrawal, M.D., et al. : Material Separation Using Dual-Energy CT : Current and Emerging Applications. Radiographics, 36(4) : 1087-1105, 2016.
2) De Cecco, C.N., Darnell, A., Rengo, M., et al. : Dual-Energy CT : Oncologic Applications. Am. J. Roentgenol., 199(5 Suppl.) : S98-S105, 2012.