技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)
2015年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
心臓MRI最新技術
松永 奈美(MR Clinical Marketing Asia Pacific & India)
MRIでは,他モダリティ検査に比べて比較的低侵襲に心臓の形態,機能,さまざまなコントラストの画像を得られることが大きなメリットであり,心臓MRIが改めて注目を集めている。通常の心血管検査では,FIESTAなどのSteady State法を使用することにより,心筋の壁運動の評価および血管の形態診断を非造影で行うことが可能である。また,心筋の障害や線維化を起こしているケースでは,毛細血管の血流がなくなり細胞外液に浸透した造影剤がwash outされなくなる機構を画像化した遅延造影撮像を行う。これにより,心筋梗塞や心筋症などの心筋の造影効果を見ることができる。遅延造影画像は障害心筋の検出において高い検出能を示し,障害心筋エリアの算出において病理学的検討ときわめて一致した評価を得ることができると言われている。本稿では,安定した遅延造影画像を得るためのGEの最新アプリケーションを紹介する。
■遅延造影を行うための撮像アプリケーション
1.Cine IR
心筋遅延造影撮像では,Inversion Recovery(以下,IR)法を用いることにより,正常心筋の信号を低信号(黒),障害心筋を高信号(白)として描出することで病変の検出を行っている。さまざまな方法でIRのInversion Time(以下,TI)を決定し,正常心筋の信号を落とすのだが,実際の検査において最適なTI値を決定するのは容易ではない(図1)。“Cine IR”は,心筋遅延造影撮像における最適な心筋のNull Pointを決定するアプリケーションである。撮像シーケンスとしては,マルチフェーズのFGRE-Cine撮像をIR Pulseの印加後に行うことで,少しずつ異なったTI値のデータを一度の呼吸停止撮像にて取得する。IR Pulseには,後述するAdiabaticタイプのIR法を採用することにより,均一な心筋信号の抑制が可能となっている。
2.Phase Sensitive MDE
Phase Sensitive IR法は,近年開発された遅延造影撮像の技術である。この撮像は煩雑であったTI値の設定を行うことなしに,正常心筋と造影された障害心筋の描出を行うことができる。通常のIR法を用いた遅延造影画像(マグニチュード画像)では,MR信号を負の信号として取得した場合は正の信号成分として画像化している。このため,正常心筋のNull Pointと設定したTI値が適していない場合には,信号の反転によるアーチファクトが発生して読影が困難となるケースが多かった。この問題を改善するのが“Phase Sensitive MDE”(以下,PS-MDE)である。PS-MDEは2心拍で撮像しており,1心拍目は通常通り画像データを取得する。次の2心拍目でReferenceデータを取得し,本来の縦磁化に応じたコントラストを画像化している。これにより,TI値の違いに依存しない安定した遅延造影画像を取得することができる(図2)。
3.Single Shot MDE
遅延造影撮像の問題点のもう一つが撮像時間である。これまで遅延造影を撮像する場合には,1スライスあたり15秒程度の息止めを必要としていた。このため,左室心筋全域の短軸像を撮像しようとすると,その範囲をカバーするには10スライス以上は必要となるため,患者は10回以上の呼吸停止撮像を繰り返すことになる。これは,特に高齢者や小児の患者の遅延造影撮像の際に大変な労力を強いられることとなる。
この問題を解決するべくGE社製MRIには,FIESTAまたはFast GREシーケンスにIR Pulseを追加したSingle Shotでの遅延造影のアプリケーション“Single Shot MDE”が搭載可能となった。Single Shot MDEは,1心拍あたりに1スライスずつ撮像できるようになっている。これにより,1回あたりの呼吸停止時間を短縮,または呼吸停止なしでの撮像を可能とし,今まで撮像が困難だった患者の遅延造影を撮像することができるようになる。また,Single Shotの撮像法のため,動きの少ない心筋遅延造影撮像が可能となった(図3)。
4.Adiabatic Inversion Recovery Pulse
近年,条件付きMR対応インプラントがますます一般的になってきている。胸骨ワイヤーなどのインプラントが検査範囲の近くに存在すると,高信号や低信号のアーチファクトとなって描出される。心筋遅延造影では,正常心筋の信号を落として病変部を高信号として描出するため,高信号のアーチファクトが心筋に写り込むと病変と見間違う可能性がある。そこで,すべての2D心筋遅延造影のIR PulseをAdiabaticタイプに変更した。AdiabaticタイプのIR Pulseは通常の励起パルスと異なり,振幅のみならず周波数(または位相)の変調を伴う複雑なパルスである。
そもそも磁化は,静磁場B0に対して歳差運動をしている。(仮に静磁場方向をZ軸とする)通常のRF励起においては,Z軸に垂直な軸(これをX軸とする)にB1を印加することによりX軸を中心に回るように磁化が倒され,その量に応じてflip angleが決まる。しかしながら,局所的に不均一なB1を受けてしまうと,実際に倒れるflip angleが不均一となってしまう。この時,磁化は有効磁場Beffに付随したようにして倒れるので,通常のRF励起とは倒れていく面が異なり,Inversion Pulseの場合は最終的にZ軸方向を向く。静磁場B0以外の方向を向いている有効磁場Beffに対しても同様に,それを軸に歳差運動を行う。この有効磁場Beffを操作して全体の磁化を歳差運動させながら一緒についてこさせることで,B1の不均一に依存せずに磁化を倒すことが可能になる。AdiabaticタイプのIR Pulseを使用することにより,金属の影響による不正確なInversion Pulseが引き起こすインプラントによるアーチファクトを大幅に軽減することが可能となった(図4)。
◎
最新のアプリケーションにより,撮像の困難だった患者の画質を担保すると同時に,画質の向上も期待できる。今後,新たな臨床価値を見出すとともにワークフローを簡素化し,より心臓MRIの発展に貢献できればと考える。
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