技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)
2013年12月号
デジタルトモシンセシス技術報告
真のブレストトモシンセシスを考える“SenoClaire(セノクレア)”
東尾 良介(Detection & Guidance Solutions部)
FFDM(Full Field Digital Mammography)が2000年に日本で販売開始されてから,すでに十数年が経過し,その間にFFDMは多くの施設で使われるようになった。特に,医用画像のデジタル化に伴う施設内のインフラ整備も整い,昨今急激にFFDMの台数は増えつつある。マンモグラフィはデジタル化によって,診断能の向上や検査効率の改善など多くのベネフィットをもたらしたが,さらに求められている課題もある。大きな課題の1つは,「見落としの低減」であり,もう1つは「偽陽性率の低減」である。これらの課題に挑戦する新しいツールとして,GEのデジタルブレストトモシンセシス(DBT)“SenoClaire(セノクレア)”は,真のブレストトモシンセシスを追究し,More clarity(よりクリアに…),More confidence(見つかる安心を…),Less dose(やさしさをあなたへ…)というコンセプトで,高画質と低被ばくの両立をGE独自のテクノロジーにより実現した。これらのテクノロジーを中心に,DBT SenoClaireについて解説する。
■SenoClaireを支えるテクノロジー
真のブレストトモシンセシスとして,高画質と低被ばくの両立を実現するために必要なSenoClaire独自のテクノロジーを紹介する。
1.ロジウム陽極を有したデュアルターゲットX線管
SenoClaireを搭載可能なFFDM「Senographe Essential」(図1)には,陽極材質にモリブデン(Mo)とロジウム(Rh)を有するデュアルターゲットX線管(GE特許技術)が搭載されており,SenoClaireで用いるロジウム陽極/フィルターは少ない管電流(mA)で高い線量率を得ることが可能である。特に,日本人に多いとされるデンスブレストにおいても特性X線のスペクトルを利用できる点が特徴で,連続スペクトルを利用したタングステンターゲットのように,厚い付加フィルターで多くを吸収し,強力にスペクトルを整える必要なく,管電流に対して約2倍の出力が得られる。
2.高DQEフラットパネル
DBTを考える上で,低線量における検出器性能は,患者線量を低く抑えつつ高画質を得るために非常に重要である。1回のスイープ撮影における各パルス照射線量を低く抑えなければ,一連の収集で被ばく線量が増大してしまう。また,斜入X線による収集画像が多いため,平均被写体厚が大きくなることも被ばく線量増大につながる。ここでの指標としては,1回のスイープ撮影の中で複数回のパルス照射を行い画像を収集することから,1パルス照射あたりの線量は非常に少なく,その少ない線量において必要な情報を得ることが重要となる。その客観的評価尺度としては,量子検出効率(DQE)が適しており,とりわけ臨床視点から1〜3LP/mmの周波数帯域におけるDQE値が重要である。Senographe Essentialに搭載されているフラットパネルは,0〜3LP/mmにおけるDQEが,DBTを想定した線量であっても高い水準を維持できることが特長である(図2)。
3.高画質と被ばくのバランスを考慮した撮影方法
ブレストトモシンセシスの撮影方法について,振り角やX線照射回数(データ収集枚数)は最適な画像収集に重要な要素である。振り角の大小は,高さ方向(Z軸方向)の分解能に大きな影響を与え,データ収集枚数は,二次元平面上のアーチファクトなどにより描出能に大きく影響を与える。ただし,乳房撮影においては,撮影時間が長くなることは受診者の負担に直結し,息止めが困難であれば体動によるアーチファクトも懸念される。SenoClaireでは撮影時間を10秒以内とし,その間に25°のスイープ撮影を実施することにより,0.5mmのplane画像を得ることが可能となっている。0.5mmのplane画像は,マンモグラフィに求められる石灰化の描出能を担保する上で有用であると考えられる。
4.逐次近似法ASiRDBTを採用した画像再構成技術
三次元再構成のアルゴリズムについては,複数の方法が研究され,当初は画像再構成時間がコンピュータの処理能力によって制限されるため,CTなどで普及している簡素化された再構成法フィルタ補正逆投影法(filtered back projection:FBP法)が用いられていたが,昨今では臨床結果を改善するような新たな方法へと進化し,SenoClaireでは逐次近似法を応用したASiRDBT(Adaptive Statistical Iterative Reconstruction for Digital Breast Tomosynthesis)を採用している。図3は,画像再構成法による画像の違いを示しており,FBP法(左)とASiRDBT(右)によるものである。逐次近似法ではシステム光学モデル化され,実際に得られたrawデータと,画像から投影された仮想rawデータ間の誤差を計測し,画像再構成時にこの違いを最小にしていく。これらのモデリングの過程には複雑な演算処理を必要とし,再構成に要する時間が長く実現が困難とされていた。しかし,SenoClaireでは,画像再構成に必要な高性能なシステムを設けるなどの工夫により,臨床に即した運用が可能となっている。
5.Step&Shootを採用したガントリーコントロール
SenoClaireでは,撮影方法にStep&Shoot(ステップ&シュート)法を採用している。GEでは,すでに一般撮影領域でのトモシンセシス撮影機能を2006年からデジタル一般撮影装置に搭載しており,そこで得たフィードバックがSenoClaireには生かされている。SenoClaireでは,マンモグラフィで求められる微細な石灰化の描出能を高めるため,各パルス照射のタイミングでX線ガントリーを静止させ,照射タイミングとシンクロさせて撮影することを可能にしている。この撮影方法を実現するため,X線管は軽量なケーシングレスⅩ線管を新たに設計し搭載することにより,スムーズな動きを実現した。これらのテクノロジーにより,SenoClaireは,DBTに求められる高画質と低線量の両立を実現した。
SenoClaireによるブレストトモシンセシス撮影時の平均乳腺線量を図4に示す。従来の2Dマンモグラフィと遜色のない線量で,ブレストトモシンセシス撮影ができていることがわかる。
■臨床的アプローチ
DBTの臨床へのアプローチにおいて,「DBTの用途選択を検診や精密検査など,どのように位置づけるか」「従来の2D乳房撮影の取り扱いをどうするか」「MLO・CCなどの撮影方向の選択」など,従来のアプローチとの違いがあり,これらは臨床でのワークフローや生産性を大きく左右する。例えば,DBTで得た多量のスライス画像を観察するには多くの時間を必要とし,観察者のラーニングカーブが見られることもわかっている。SenoClaireでは,石灰化などの微細な分解能に優れた0.5mmのplane画像と,重ね合わせたslab画像を併用することによって診断能を担保するとともに,効率的な読影を可能としている。また,再構成によって得られた2DイメージとなるVolumePreview画像も併用することで,違和感なくトモシンセシス画像の観察を行うことができる。
■ブレストトモシンセシスの魅力
DBTに求められる臨床ニーズとしては,従来のFFDMでの課題を解決し,受診者やスタッフの負担は決して増えないことが求められる。SenoClaireに関するいくつかの臨床評価のうち,米国のマサチューセッツ総合病院における検証では,同一受診者における2D画像とGEのDBT画像を比較した場合,従来のDBTで苦手とされていた石灰化の描出能でさえも,2Dと比較してGEのDBTの方がより明瞭に石灰化を示すという結果が出ている1)。また,別の検証においては,3000人を2DとGEのDBTで比較した結果の偽陽性率が7.8%から4.6%に減少し,読影時間については従来の単純マンモグラフィと同等であると報告されている2)。この結果を見ると,精密検査に加え,SenoClaireではスクリーニングにも実用できることが示唆されている。特に,デンスブレストが多いとされる日本国内においては,このブレストトモシンセシスへの期待がますます高まるところであり,今後より多く普及することが期待されている。
ブレストトモシンセシスは非常に有用な検査である一方,いまだ新しい検査でもあり,いくつかの課題も考えられている。例えば,画像データ量は少なくとも従来の2D検査の10倍以上になり,増加するデータ量と得られる医療上のメリットとのバランスを考慮した,画像ハンドリングシステムの構築が求められる。臨床応用へのアプローチについても,今後はより臨床ニーズに即した検査が少ない負担で行えることが必要であると考える。GEは,今後も皆様と協力して,受診者のために技術革新を現実のものとしていくことを切に願う。
*SenoClaireは下記オプションとなります。
医療機器認証番号:21600BZY00218000
販売名称:セノグラフ2000DSシリーズ
Senographe Essentialは,上記医療機器の類型「2000DS-S Essential」DOC1458511
●参考文献
1)Kopans, D., et al. : Calcifications in the Breast and Digital Breast Tomosynthesis. Breast J., 17・6, 638〜644, 2011.
2)Kopans, D., et al. : Digital Breast Tomosynthesis(DBT)NCI 3000-Women Trial. RSNA 2009, Scientific Session SSE01-01 Breast Imaging, 2009.
【問い合わせ先】
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
Detection & Guidance Solutions部
〒191-8503
東京都日野市旭が丘4-7-127
TEL:042-585-9370
www.gehealthcare.co.jp