技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2012年10月号

Digital Radiography(DR)を極める【静止画編】

「Volume RAD」(トモシンセシス)の臨床的有用性

中川光紀(X-ray Sales & Marketing部)

2011年の北米放射線学会(RSNA)や今年4月に行われたJRC 2012で,トモシンセシスについて聞かれた方も多かったのではないだろうか。現時点で,一般X線撮影装置にこのトモシンセシス機能が搭載されているのは,GE製3機種〔「Definium8000」「Discovery XR650」「Discovery XR656」(図1)〕だけである。ここでは,このGEのトモシンセシス,“Volume RAD”について紹介したい。

図1 Discovery XR656

図1 Discovery XR656

 

■Volume RADの技術的特長とメリット

1.立位撮影
このVolume RADが臨床現場で有用であるのは,第1に立位での撮影が可能である点である。例えば変形性膝関節症の重症度評価のための関節裂隙の計測では,Volume RAD撮影が断層面での距離情報を提供するため,加重位でより高い計測精度での評価が期待できる。また,病変の指摘が難しい胸部異常影など前後の重なりの少ない画像が得られるため,整形外科領域をはじめとしたさまざまな分野で,一般撮影より評価が容易になっている。

2.被ばく低減
第2に被ばく量の低減である。副鼻腔炎での撮影ケースでは,立位・座位撮影による少量の液面形成の測定でも十分に評価が可能なメリットに加えて,ファントム実験にて被ばく量をCTと比較したところ,放射線感受性が高い水晶体の被ばく量はVolume RADの撮影でCTの1/300~1/500と,大幅に低減するという結果が得られた。被ばく量を気にされる患者が多い中,Volume RADは有用な検査法と言える。

3.診療報酬と運用面のメリット
第3に,診療報酬,運用面でのメリットである。Volume RADは特殊撮影での請求が認められており,一般撮影とは別に断層撮影料が加算される。そのため,CTまで必要ではないような症例の場合は,Volume RADで患者のコスト負担を低減させることができる。また,予約検査としてではなく,一般撮影での追加撮影としての検査が可能であるため,一般撮影だけでは確認が困難な手の舟状骨骨折などの微細な骨折を追加撮影し,迅速に確認することができるため,その後の治療方針をより的確に決定することができる。また,意識障害などにより開口位が困難な症例でも,開口することなく環軸椎回旋位固定の評価ができ,麻痺を伴う骨折のケースでも,重なりを生かした評価ができるため,患者に無理な体位をとっていただくことなく撮影をすることが可能である。同時に,CTと比較し人工関節などによる金属アーチファクトの影響もほとんどないため,骨折後の骨癒合の観察,人工関節の緩みの原因となる周囲の骨吸収像の評価にも有効に活用できる。

Volume RADがCTと比較しすべての点で優れているというものではない。例えば,データ収集角度はCTと比べ限られているし,コントラスト分解能もCTには及ばない。しかしながら,上記のように追加撮影ができ,被ばく量が低減できるというメリット,また金属アーチファクトの影響が少ないということを考えると,CT検査の一部を置き換えることは十分に可能であると言える。Volume RADはこのように一般撮影装置とCTの中間的特長を生かしつつ,かつ一般撮影の延長として撮影が可能であるため,幅広く応用ができ,患者の被ばく低減,医療コストの低減にも寄与するというメリットを生かし,最大限に活用していける選択肢となりうる。

●参考文献
1)町田治彦, 油原俊之, 上野恵子 : 鼻副鼻腔トモシンセシス一般撮影の臨床的有効性. GE Today, May, 2012.
2)町田治彦 : フラットパネル一般撮影における注目のアドバンスドアプリケーション 放射線科医から見た臨床的有用性. GE Today, Nov., 2009.

*販売名称:据置型デジタル式汎用X線診断装置 Discovery
医療機器認証番号:221ACBZX00068000
Discovery XR656は,上記医療機器の類型Discovery XR656です。

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