技術解説(富士フイルム)

2021年1月号

FUJIFILM TECH FILE 2021

薄型フィルムのTFT基板をセンサーパネルに初めて採用 ~カセッテサイズデジタルX線画像診断装置「FUJIFILM DR CALNEO Flow」

高見 実(富士フイルム株式会社メディカルシステム事業部 モダリティソリューション部)

はじめに

富士フイルムは,X線を読み取るセンサーパネルに軽量な薄型フィルムTFT基板(以下,フレキシブルTFT)を初めて採用し*1,当社画像読取技術ISS*2方式と組み合わせて,さらなる軽量化と高感度化を実現したカセッテサイズデジタルX線画像診断装置(以下,カセッテDR)「FUJIFILM DR CALNEO Flow(カルネオ フロー)」を2020年12月1日に発売した(図1)。CALNEO Flowは,蛍光体に温度や湿度などの環境変化に強いGOS(ガドリニウムオキサイドサルファ)と,X線エネルギーの変換効率が高いCsI(ヨウ化セシウム)を採用した2種類,各2サイズ(14×17インチ,17×17インチ)をラインアップし,高画質・低線量を追究したハイエンドモデルとして展開する。

図1 FUJIFILM DR CALNEO Flow G47(左)とFUJIFILM DR CALNEO Flow C47(右) 販売名:デジタルラジオグラフィ DR-ID 1800

図1 FUJIFILM DR CALNEO Flow G47(左)とFUJIFILM DR CALNEO Flow C47(右)
販売名:デジタルラジオグラフィ DR-ID 1800

 

特長

富士フイルムは,2011年に発売した第1世代のワイヤレスカセッテDRからハードウエア,ソフトウエアの新たな技術開発に挑戦し,他社に先駆けてさまざまな技術の実用化を実現してきた(図2)。ハードウエア面では,照射されたX線をパネル自体で検知するX線自動検出技術“SmartSwitch”や,カセッテDRのサイズ展開は当社が業界をリードしてきた。ソフトウエア面では,当社の散乱線推定技術を用いて撮影画像から推定されたX線の散乱線成分を元の撮影画像から除去する“Virtual Grid”画像処理ソフトウエアを実現した。

図2 富士フイルムFPD技術の進化

図2 富士フイルムFPD技術の進化

 

今回のCALNEO Flowは,最新のスマートフォンやタブレットで使われているフレキシブルTFT(図3)を採用。これにより,第1世代のワイヤレスカセッテDRと比べ,重量を約40%減と大幅に軽量化した。GOSシリーズの14×17インチサイズは約1.8kg*3で,当社CRカセッテ(約2.0kg)より軽量になっている。

図3 フレキシブルTFT

図3 フレキシブルTFT

 

また,当社ISS方式を継承し,ISS方式の特長であるシンチレータ層のX線エネルギーの減衰や拡散の影響を低減する効果はそのままに,従来機と比較してX線エネルギーの透過性が向上した。CsIシリーズのDQE*4は,従来機*5から4ポイントアップの58%(1Lp/mm・1mR)を達成した。
さらに,ISS方式とフレキシブルTFTの組み合わせは,さらなる軽量化と高感度化を実現し,フレキシブルTFTのメリットを最大限に引き出すことに成功した。フレキシブルTFTをカセッテDRに採用するには,大型サイズでの製造が難しいという課題があるが,当社は写真フィルムの生産で培ってきた生産技術によって,高品質な大型のフレキシブルTFTおよびX線検出器の安定的な生産を可能とし,カセッテDRへの搭載を実現した。
最後に,CALNEO Flowは,当社の抗菌コート技術「Hydro Ag」*6で,カセッテDRの全面に抗菌コーティングを施した。塗布膜表面の銀イオン濃度が高くなり,従来の抗菌コートと比べて約100倍の抗菌性能を実現し,さらに,その効果が長期間持続する(図4)。銀系抗菌剤を含有した超親水性膜により,カセッテ表面に付着した汚れも拭き取りやすく,清潔で衛生的に使用することができる。

図4 当社抗菌コート技術「Hydro Ag」

図4 当社抗菌コート技術「Hydro Ag」

 

おわりに

富士フイルムは今後も新たな挑戦を続け,さまざまな医療現場のニーズに応え,医療従事者のワークフロー効率化・医療の質の向上,人々の健康維持増進に貢献していく。

*1 2020年12月1日現在,当社として初めて採用
*2 Irradiation Side Samplingの略。従来型のFPDと反対側のX線照射面側にセンサーを配置し,X線の照射面側よりX線から変換された光信号を読み取る当社方式。パネルの蛍光体層でX線を光信号へ変換する。蛍光体にはGOS(ガドリニウムオキサイドサルファ)とCsI(ヨウ化セシウム)がある。
*3 GOSシリーズの14×17インチサイズは約1.8㎏(バッテリーを除く重量),17×17インチサイズは約2.1kg(バッテリーを除く重量),バッテリーの重量は約180g
*4  Detective Quantum Efficiencyの略。X線情報を検出システムがどの程度無駄なく捕捉して画像に役立たせているかの尺度。DQEが高いほど高画質な画像が得られ,低線量化が可能となる。
*5 販売名:デジタルラジオグラフィ DR-ID 1200,認証番号:第226ABBZX00085000 号
*6 2014年7月に当社が開発した抗菌コート技術。従来の銀系抗菌剤を使った抗菌コートに比べて約100倍の抗菌性能を実現。抗菌規格JIS Z 2801に適合,国際規格ISO22196 に対応したSIAA(抗菌製品技術協議会)登録商品

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