技術解説(富士フイルム)
2018年7月号
医療関連メーカーのAI開発最前線
富士フイルムが取り組む診断支援AI(人工知能)技術
鍋田 敏之[富士フイルム(株)メディカルシステム事業部]
当社は,医療ITを軸に据え,X線・内視鏡・超音波画像診断装置などのすべての医療機器がITにつながり,画像診断が効率的に行える環境を提供することをめざし,さまざまな画像処理技術および画像認識技術を開発して,医用画像情報システム(以下,PACS)および3Dワークステーション上に搭載してきた。最近の深層学習などの技術の発展に伴い,当社が培ってきた画像技術の上にこれらの新技術を組み合わせることによって,従来の画像認識よりも高いレベルで診断を支援するAI技術の開発を進めている。
当社の強みは,診断の高度化に向けた“探す力”を持っていることである。例えば,内視鏡で微細な血管を強調して表示する機能や,わずかな色の違いをわかりやすく強調して表示する画像処理機能などである。また,特殊光観察モードを搭載した内視鏡や,高感度にX線画像をデジタル化するX線検出器などの,病変を見えやすくするためのセンシング技術を持っている。これらの技術を通して病変を見落とさない良質なデータを集められることで,効果的なAI学習データに結び付けられることも強みである。
以下,当社が開発中のAI技術の概要について,簡単に紹介する。
PACS上で管理されるCT・MR画像などに対して当社は,(1)臓器認識(セグメンテーション)AI,(2)個々の疾患の検出および鑑別AI,(3)ワークフロー支援AIの3つの技術アプローチで開発を進めている(図1)。
(1)臓器認識AIは,全身の各臓器およびその副構造を病態に依らず正確に認識する技術で,その後の検出・鑑別や所見作成のフローのベースとなり,性能を左右するキー領域である。
(2)の検出および鑑別AIは,各疾患別にAI技術を開発しており,がん病変の検出(肺がんなど),脳卒中(脳内出血,クモ膜下出血,脳梗塞)の検出・計測を行うAI技術(図2)などを開発している。また,見落とし防止だけでなく,検出〜経時変化の定量化〜転移の検出など,診断のワークフローに即した機能にどのように落とし込むかについても検討を重ねている。(3)は,例えば,放射線科に向けては読影レポートを半自動で生成するAI技術,鑑別する際に参考に用いる類似症例の検索AI技術などを開発している。
われわれは,個別のAI技術単独ではなく,上記の3種類のAIをPACSなどのシステム上で統合的に提供することで,AI技術の価値を最大化できると考えている。医師の読影フローの効率化を支援することで,医師が本来時間を当てるべき診断に使える時間を最大化できることをめざしている。
CT・MRI以外の画像についても,内視鏡で腫瘍検出をリアルタイムで支援するAI技術や,超音波画像診断装置において臓器認識や計測を支援するAI技術などの開発も進めている。
1つのAI技術ではなく,いくつかのAI技術を束にすることで価値が提供できる。画像診断支援や医療現場の業務フローの改善などに活用できるAI技術を集め,「REiLI(レイリ)」というブランドの下で展開していく。今後,各国で医療法規制における必要な認可を取得でき次第,順次上市を進めていく。また,自社でのAI技術開発と並行して,国内外の優れたAIベンダーとも共同研究などの提携を進めている。優れたAI技術を当社PACSや医療機器・システムに搭載し,シームレスに使えるように統合的なソリューションとして提供することで,さらに診断の効率化,医療の質向上に貢献していく。
【問い合わせ先】
メディカルシステム事業部
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