技術解説(富士フイルム)
2018年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
腹部領域における「SYNAPSE VINCENT」の技術紹介
大島 俊介(ITソリューション事業本部事業推進部3D営業技術グループ)
■異なるモダリティ間の非剛体位置合わせ
肝細胞がん(以下,HCC)の画像診断で用いられるダイナミックCTを利用して,肝臓,脈管系,腫瘍を抽出し,ワークステーション上で系統的亜区域切除術前の支援画像を作成することが日常的になっている。一般的にはCTのみで支援画像の作成を行うが,早期のHCC,乏血性結節症例では病変と正常肝でコントラストが保てず,正確な病変部を支援画像へ適切に反映できない。このような疾患において肝臓MRI造影剤を用いると,本造影剤の性質により境界明瞭な画像を生成でき,正確な腫瘍領域の抽出が可能となる反面,呼吸相,モダリティの違いによる位置ズレの問題が発生する。
この位置ズレは平行移動量,拡大・縮小,回転補正に加え肝臓領域内の形状の補正が必要だが,今まではモダリティの異なる画像間の補正は技術的な側面で難しい課題であった。最新バージョンでは,CTを基準にMRI(肝臓MRI造影剤を利用したT1強調画像)を変形させる非剛体位置合わせ機能を“肝臓解析(CT)”に搭載した(図1)。本機能により,より正確な病変部領域を反映した支援画像の作成が行えるようになっている。
■PETの閲覧機能強化
日本核医学会PET核医学分科会登録施設数は,2017年11月28日時点で237施設1)存在し,PETは肺がん,悪性リンパ腫など保険診療に含まれる悪性腫瘍の検出目的で利用されている。また,近年では,自由診療ではあるが認知症,てんかんなどの中枢神経疾患に対してβアミロイドPETを実施する報告もあり,悪性腫瘍以外の分野で利用され始めている。
このような背景から,最新バージョンでは,核医学画像の閲覧や薬効評価の結果をレポート出力できる“オンコロジービューア”をリリースした。評価パラメータとして,SUVmaxに加え,SUVpeakの算出,腫瘍の予後評価の可能性があると言われる2)metavolic tumor volume(MTV),total legion glycolysis(TLG)の算出が可能である(図2)。
■腎臓領域半自動抽出
常染色体優性多発性囊胞腎(ADPKD)患者へ処方される薬剤の利用可否を検討する際,薬剤使用上の注意点として両側総腎容積が750mL以上,腎容積増大速度がおおむね5%/年以上であることと記載されている3)。従来は,腎臓を回転楕円体であると仮定し,CT画像の長径,短径を回転楕円体の公式に代入して近似値を求める方法や,アキシャル画像から手動で境界を設定して体積を算出し,薬剤投与の可否を検討していた。囊胞腎解析では,単純CTの腎臓領域に対し長軸を設定することで,囊胞を含む微細な腎境界を検出して半自動で抽出する機能を搭載しており4)(図3),腎容積を求める際に必要な操作者間の再現性や,短時間で処理できる利便性向上に寄与したいと考えている。
■血流解析(MRI)
血管性病変の画像診断は,造影CTやMRAが用いられ,それらをワークステーション上で画像処理することで形態評価が可能となる。しかし,これらの処理結果は時間情報を持たない純粋な形態画像であり,脳動脈瘤,胸部,腹部大動脈瘤など,血管の形態異常が発生して初めて疾患の原因として指摘できるが,近年では病変部における負荷の定量化,また,病変部以外の領域に大きな血流負荷がかかっている箇所の可視化などの研究および発表が盛んに行われている。
近年では,この負荷情報の計算を行うための画像を撮像できる手法が装置メーカー5)から開発,販売されている。最新バージョンで搭載される“4Dフロー”では,血管モデルを生成するための形態モデル用画像と,x,y,z軸方向に位相エンコードした3方向の時間軸情報を持つ流速計算画像を用いて,血管壁における瘤形成に影響を及ぼすと報告のある,血管壁剪断応力の算出などの各種測定パラメータの計算および可視化が可能である(図4)。血流の可視化,定量評価が,血管領域における治療戦略の立案や,今後起こりうる疾患の予測などに利用できればと考えている。
■IVRへの対応
肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)に代表されるような,IVR手技前に治療対象となる腫瘍への栄養血管の解剖学的位置,また,栄養血管の本数を同定することは,IVR手技中の造影剤投与量,被ばく線量の低減に効果的であると言われる。
最新バージョンで搭載されている“IVRシミュレータ”では,造影CTから疑似透視画像を作成し,腫瘍の半自動抽出,栄養血管の自動・手動抽出を行うことで,IVRの手技に必要な情報を提供できる(図5)。
◎
近年,人工知能の実用化に向けた動向が,医療業界を含めさまざまな分野で注目を集めている。富士フイルムメディカルも,最新の技術情報,市場動向に注視し,日本,世界におけるヘルスケア業界へ貢献できるようにしていきたい。
●参考文献
1)日本核医学会PET核医学分科会 : PET施設一覧.
http://www.jcpet.jp/1-3-4-1
2)Satoh, Y., et al. : Volume-based parameters measured by using FDG PET/CT in patients with stage I NSCLC treated with stereotactic body radiation therapy ; Prognostic value. Radiology, 270・1, 275〜281, 2014.
3)サムスカを処方いただく前に. 大塚製薬医薬関係者向け情報サイト.
https://www.otsuka-elibrary.jp/di/prod/product/file/sa3/sa_pkd_01.pdf
4)Muto, S., et al. : Novel semi-automated kidney volume measurements in autosomal dominant polycystic kidney disease. Clin. Exp. Nephrol., 2017(Epub ahead of print).
5)礒田治夫 : Cine Phase-Contrast MRIを用いたヒト脳動脈瘤インビボ血流解析. GE today, 29〜32, 2007.
SYNAPSE VINCENTについて詳細はこちら
https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/healthcare-it/it-3d/vincent
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