技術解説(富士フイルム)
2017年8月号
FUJIFILM TECH FILE 2017
AMULET Innovalityの新しい画像処理技術「Excellent-m 2D/3D」
俣野 公志(富士フイルムメディカル株式会社 販売統括本部 MS部)
はじめに
2014年に発売した,デジタルブレストトモシンセシス(DBT)機能を搭載した「AMULET Innovality」は,任意に選択できる2つのトモシンセシス撮影モードを持っている。そのモードは,低線量・高速撮影が可能で,検診/スクリーニング/フォローアップ用途としてのST(Standard)モードと,高解像度で微細な病変形態を確認でき,精査施設での追加撮影などに利用されているHR(High Resolution)モードとなり,多くの医療機関で使用されている。
近年,DBTの診断価値の高さから利用範囲が広がる中,一方で撮影時の被ばくについて多く議論され関心が高まっている。
新しい画像処理「Excellent-m」
富士フイルムでは,X線画像診断領域で,多大な画像データベースを構築し,長年培ってきた知見を活用して,被写体構造をより正確に解析する画像処理技術「Excellent-m」を開発した。
Excellent-mの特徴
Excellent-mには,2D用として,
(1) 線質補正技術(Image-based Spectrum Conversion:ISC),(2) 微細構造鮮明化処理(Fine Structure Control:FSC)などがある。また,3D用として,(3) 逐次近似超解像再構成処理(Iterative Super-Resolution reconstruction:ISR)などがある。
1.線質補正処理:ISC
モリブデン(Mo)陽極で撮影された2Dマンモグラムに対してタングステン(W)陽極のマンモグラムはコントラストが低くなる問題がある。この問題を解決するために,画像解析に基づいて被写体情報を把握し,乳腺/脂肪の量と圧迫厚,X線スペクトルの違いによって生じるコントラストの差を補正する線質補正処理(ISC)により,W陽極で撮影したマンモグラムでありながらMo陽極で撮影したマンモグラムと同等のコントラストを実現させている(図1)。
2.微細構造鮮明化処理:FSC
デジタル画像の線量低減には,画質(粒状性)とのバランスが重要である。微細構造鮮明化処理(FSC)は,撮影画像の被写体情報から人体構造である信号とランダムなノイズ成分を分離し,信号強調とノイズ抑制を同時に行い(図2),ISCとFSCで約30%の線量低減を実現する(図3)。
3.逐次近似超解像再構成処理:ISR
3D用として開発された逐次近似超解像再構成処理(ISR)は,X線で撮影したあらゆる乳房の構造情報が登録されたデータベースを基に,撮影した画像を独自のアルゴリズムで分析する。さらに,乳房構造のパターンに当てはまらないものをノイズとして認識し,画像から取り除く。石灰化や乳腺構造が重なって見える領域であっても,画像全体を劣化させることなくノイズだけを認識できるため,これまで見分けにくかったノイズと微小な石灰化が見分けやすくなるなど,診断に適した粒状性が良い高精細な画像の提供を実現する。
また,本処理は撮影した複数枚の二次元の画像を再構成し,乳房の断層像を推定する際に,逐次近似法を用いて被写体の構造の位置情報をより正確に抽出する作業を繰り返し行うため,乳腺や石灰化など乳房の立体構造を高精度に認識することが可能となっている。逐次近似法は,一般的には処理に時間がかかるが,当社は独自のアルゴリズムを用いることで,スピーディに被写体の正確な構造を認識することを可能としている。
さらに,石灰化や乳腺構造などの微細構造の視認性を向上するための超解像技術も搭載している。超解像(super-resolution)とは,わずかに異なる情報を持つ観測画像を基に,より細かい実効サンプリング間隔を持つ画像を生成する高解像化技術である(図4)。少しずつずれた方向から撮影された複数枚の観測画像セット(図4a)を,観測画像のサンプリング間隔よりも細かな精度で位置合わせし(図4b),同一空間上にプロットする(図4c)。この画像空間では,検出器の画素ピッチより細かな間隔で画素格子を定めても,格子内に対応する情報が含まれることになり,単純な補間処理では不可能な情報の復元が可能である。
超解像処理では単純な位置合わせとは異なり,投影プロセスでの位置ずれを画素ごとに正確に考慮した高精度の位置合わせ処理が要求される。図5に石灰化を模擬したファントムで位置合わせ処理による違いを示す。わずかな位置ずれを考慮しない方法(a)で再構成した断層像に比べ,超解像を応用した手法(b)では石灰化の形状描出性と視認性が大幅に向上した。これにより今まで以上の高画質でありながら,従来比最大約40%*1の線量低減が可能となった。
*1 当社過去画像比(STモード時)
おわりに
現在は2D+DBTで撮影しているが,画像処理技術のさらなる進歩にて,トモシンセシス画像から生成される合成2D画像を用いることで,現在撮影している2D撮影の省略により低線量化することが期待できる。また,AMULET Innovalityが広く利用され,画質向上と診断性能向上に貢献することを期待し,今後も乳がん検査の診断技術のさらなる向上に貢献していく。