技術解説(富士フイルム)

2017年5月号

FUJIFILM TECH FILE 2017

高機動性を実現!軽量移動型デジタルX線撮影装置の開発 〜FUJIFILM DR CALNEO AQRO〜

中島 智明(富士フイルム株式会社メディカルシステム事業部)

はじめに

フラットパネルディテクタ(以下,FPD)を搭載した移動型デジタルX線撮影装置には,FPD制御ユニットやコンソールなどが組み込まれており,撮影した画像をその場ですぐに確認できる特長があり,最近では病棟だけではなく,救急医療現場や新生児集中治療室,手術室などの専用機としての導入も進んでいる。本稿では,特に限られたスペースで迅速な検査が求められる医療現場でのニーズに応えるべく開発した軽量移動型デジタルX線撮影装置「FUJIFILM DR CALNEO AQRO(カルネオ アクロ)」(以下,CALNEO AQRO,図1)について紹介する。

図1 FUJIFILM DR CALNEO AQRO

図1 FUJIFILM DR CALNEO AQRO

 

特長1:軽量コンパクト設計による今までにない高機動性

救急や新生児集中治療室などにおいては,輸液装置や生体情報モニターなど医療機器が多く配置され,多数の医療従事者で混み合った環境下での迅速な検査が求められる。これに対して,一般的な移動型デジタルX線撮影装置は,重量が重く,サイズが大きいため,そのような環境下での軽快な取り回しが困難であった。軽量な装置を実現するためには,X線管球が配置されたヘッド部を含めて軽量化することが求められる。しかしながら,これまでヘッド部の軽量化はX線出力低下による画質劣化につながり容易ではなかった。
これに対して当社は,自社の画像読取技術であるISS方式※1とノイズ低減回路※2によって,低線量でも高画質なX線撮影を可能にしたFPD「FUJIFILM DR CALNEO Smart(カルネオ スマート)」(以下,CALNEO Smart)※3と,X線の散乱線成分を除去し,低線量の撮影でも粒状性を向上させる画像処理技術「Virtual Grid処理」により,小さいX線出力でも適切な画像を生成することに成功した。これらの技術を最大限活用すべく,X線出力を必要最小限に抑えた小型のモノタンクX線発生器を新たに開発した。FPD,画像処理,X線技術を集結させ,さらにはリチウムイオンバッテリーやアルミニウム材料の採用など,装置全体の最適化を図ることにより,小型化に加え,総重量90kgと従来機※4と比べて約1/5以下までの軽量化を実現した。
また,その場での回転や任意方向へのスライドなど小回りが利く4輪キャスター構造や,片手で操作できるコンパクトコリメータ,任意の位置でロックせずに止まるフリクションアーム機構を採用したことで,自在な取り回しや,円滑なポジショニングを可能とした。コンパクトでスリムなデザインのため,移動時に操作者の前方視界が確保でき,エレベータ乗降時やすれ違い時の安全な走行に貢献する。

特長2:ポータブルの使い勝手を追求した一体型撮影システム

FPDとX線制御部とが一体化されたシステムである移動型デジタルX線撮影装置の使い勝手を追求し,以下の特長的な機能を搭載した。
本体手前のSmartスロット(図2)は,CALNEO Smartを挿入すると常時充電が可能であり,FPDのバッテリー切れの心配がない。このスロットに一般撮影室やほかのシステムで使用しているCALNEO Smartを挿入することにより,接続コンソールを切り替えてCALNEO Smartを共有できるため,ユーザーの運用に合わせた機器構成での導入が可能となっている。駐機時には,CALNEO Smartをスロットに挿入したまま鍵をかけて収納するためのSmartロック機構も備えている。
X線撮影とFPDを制御する操作部を一体化した操作パネル(図3)を上下左右に可動させることで,被検者のそばでの条件設定や,ベッドサイドのさまざまな位置からの画像確認などワークフローを大幅に向上させることが期待できる。また,X線制御部とコンソール間で撮影情報を送受信しており,撮影実績に応じてVirtual Grid処理を最適な条件で適用させることができる。
高性能リチウムイオンバッテリーにより,15分の充電で1時間使用できる急速充電が可能であり,4時間のフル充電から12時間連続で使用でき,日中の稼働時間中に充電の必要がない。さらには,バッテリー残量が低下しても,AC充電しながらの撮影も可能にして,装置のダウンタイムの最少化をめざした。
加えて,人体の厚さを三次元情報として推測し,厚みの異なる部位や構造物を認識して,コントラストと濃度を最適化する「ダイナミック処理(Dynamic VisualizationⅡ)」(図4)がオプションで使用可能となっており,白飛びや黒つぶれを抑えて,被写体全域を高精度に描出する画像を提供する。

図2 多彩な機能を提供するSmartスロット

図2 多彩な機能を提供するSmartスロット

図3 自在に動かせる操作パネル

図3 自在に動かせる操作パネル

 

図4 ダイナミック処理の効果

図4 ダイナミック処理の効果

 

特長3:抗菌コート技術「Hydro Ag」により清潔確保

手術室や集中治療室といった特に清潔性が求められる環境での使用を想定して,清掃性を高めることにも配慮した。検査中に撮影者がよく触れる操作パネル,X線照射スイッチ,CALNEO Smartを超親水性バインダーに銀系抗菌剤を含有した自社の抗菌コート技術「Hydro Ag※5」でコーティングしており,表面に付着した汚れを落としやすく,清潔で衛生的に使用できる。さらに,操作パネル表面の凹凸を減らし,モノタンクX線発生器と本体部とを結ぶアームからケーブル類の露出をなくし,汚れを拭き取りやすいデザインとした。
また,Smartスロットに挿入した状態でCALNEO Smartを手前にチルトさせることができ,カバーをかぶせやすい機構を設けている。

おわりに

以上,CALNEO AQROは,富士フイルムのCALNEO Smartの高感度かつ低被ばくを実現するハードウエア技術,そして高画質を提供するVirtual Grid処理やダイナミック処理などに代表される自社の画像処理技術,そしてX線技術を結集して生み出された。
本製品は,富士フイルム社製としては,初めて取り組んだ移動型デジタルX線撮影装置であり,企画,開発から販売開始に至るまで困難の連続であったが,2016年11月の発売以来,導入が徐々に進んでおり,実際に臨床使用したユーザーからの反応が集まり始めている。特に,軽量な取り回しや使い勝手は好評であり,これまで使用されていた大型回診車と比べても遜色のない画像が得られている(図5)とのお言葉もいただいている。また,白色を基調とした医療機器が多い中,高機能性の印象や所有感を高めることをねらった黒/銀のカラーリングに対しては懸念もあったが,ユーザーからは「格好良い」や「斬新」と評価されている。このようなユーザーからいただく満足の声は,われわれメーカーにとって何よりの喜びである。
今後,本製品の導入がさらに進み,X線検査の効率化と医療の質の向上の一助となることを期待している。

図5 CALNEO AQROで撮影した臨床画像の例

図5 CALNEO AQROで撮影した臨床画像の例
a:胸部画像(90kV,1mAs,120cm)
b:腰椎画像(100kV,5mAs,120cm)
c:新生児胸腹部画像(70kV,0.32mAs,120cm)

 

※1 ISS(Irradiation Side Sampling)方式。従来型のFPDと反対側のX線照射面側にセンサーを配置し,X線の照射面側よりX線から変換された光信号を読み取る方式。
※2 X線情報をセンシングする性能を高め,かつX線を低ノイズで検出することを可能とした電気回路。
※3 販売名:デジタルラジオグラフィ DR-ID 1200/認証番号:226ABBZX00085000
※4 一般的な移動型デジタルX線撮影装置の重量を400〜600kgとした。
※5 2014年7月に当社が開発した抗菌コート技術。従来の銀系抗菌剤を使った抗菌コートに比べて約100倍の抗菌性能を実現。

製品名 FUJIFILM DR CALNEO AQRO
販売名 富士フイルム DR-XD 1000
認証番号 228ABBZX00132000

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