FUJIFILM MEDICAL SEMINAR 2015 Report デジタル画像処理技術がもたらす未来
2015.7.11 in 山梨 講演『CALNEO flexの使用経験』より
ワイヤレスFPD におけるVirtual Gridの運用と画質評価
弓削 誠(山梨大学医学部附属病院放射線部)
山梨大学医学部附属病院は,病床数618床,外来患者数は1日1300名である。当院では2013年10月,ノートPC型コンソールとワイヤレスFPD(FUJIFILM DR CALNEO C1417 Wireless SQ)で構成されたX線撮影装置「FUJIFILM DR CALNEO flex」を2台導入し,1台はポータブル撮影用として,もう1台は撮影室にて運用している。もともとは救急外来や停電時・災害時のポータブル活用を想定して導入されたが,診療放射線技師が主体となって運用方法を検討し,臨床現場でも積極的に活用している。また,2015年春には新画像処理ソフトウエアVirtual Gridが搭載され,臨床応用に向けた検討を進めている。
Virtual Gridの画像を実際に確認したところ,近い将来グリッド撮影は不要になると思うほどの衝撃であった。そこで,Virtual Gridの効果を確認するため,ファントムを用いて検証を行った。
Virtual Gridの初期検討
最初に,腹部ファントムを用いて,リアルグリッド(RG)とVirtual Grid(VG)で撮影し画像を比較した(図1)。その結果,VGでは骨盤部の厚みのある部分の骨構造がより明瞭で,また,腸管内のガスも良好に観察可能であった。さらに,VGにて撮影距離120cm,管電圧74kVに設定し,1.4mAsから7.2mAsまでmAs値を変えて撮影したところ,撮影線量を下げても画質は担保されており,線量の大幅な低減が可能と考えられた。
VGでは散乱線除去技術だけでなく,“FNCノイズ抑制処理”技術が搭載されており,大幅なノイズ低減が実現できている。胸部ファントムの正・側面の撮影を行ったが同様の結果が得られた。
Virtual Gridの視覚的評価
これらの結果から,撮影部位の中で最も散乱線が多い腰椎側面撮影にVGを活用したいと考え,VGの腹部パラメータを用いてファントム実験を行った。方法は,据え置き型FPD(東芝社製TFD-3000A1)の撮影条件(84kV,32mAs,120cm,AEC使用)を基準とし,CALNEO Cを使用してRG 6:1,VG 6:1について,基準線量の画像と1/2(16mAs)にして撮影した6画像について,シェッフェの一対比較(中屋の変法)を用いて視覚的評価を行った。評価の内容は,画像の基本特性である粒状性,コントラスト,鮮鋭度,総合評価とし,当院の診療放射線技師8名で評価した。
その結果,まず,粒状性はVG 6:1が最も良く,RG 6:1,VG 1/2,RG 1/2の順で低下し,据え置き型FPDが最も悪かった。統計学的には上位4つに有意差はなかった。コントラストおよび鮮鋭度はVG 6:1が最も良く,VG 1/2,RG 1/2,RG 6:1,据え置き型FPDの順で低下したが,上位2つには有意差はなかった。総合評価はVG 6:1とVG 1/2が圧倒的に高く,しかも有意差がほとんどないため,線量を大幅に低減できる可能性が示唆された(図2)。
本検討は視覚的評価のため,評価のポイントをどこに置くかで結果が変わる可能性はあるが,大まかにVGの優位性が証明できたと言える。さらに,臨床医と協議しながらVG撮影の際のパラメータを調整することで,VGの評価がより向上する可能性もあると考えられる。
今後の展望
VGによって,従来のFPDやRGを使用した撮影より,低線量でも画質を担保した画像が得られる可能性が示唆された。今回は腹部のパラメータを用いたが,今後,腰椎にメーカーが最適化したパラメータを使えばさらに画質が改善し,さらなる線量低減も可能になると期待される。しかし,実際にどの程度線量を低減できるかについては,読影医との協議が必須であり,視覚的評価だけでなく,被ばく線量推定ソフトウエア(EPD)での計算値や診断参考レベル(DRL)を参考にしながら検討する必要がある。デジタル画像がもたらす価値を生かすためにも,その最適化について診療放射線技師の役割が大きいと考える。
ワイヤレスFPDとVGの導入により,一般撮影検査は今後,ワイヤレスFPDを用いたグリッドレス撮影が検討され,普及していくものと実感した。
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