FUJIFILM MEDICAL SEMINAR 2015 Report デジタル画像処理技術がもたらす未来
2015年6月6日(土)に,北海道旭川市の旭川市大雪クリスタルホールにて,富士フイルムメディカル創立50周年記念イベントとして,“低線量撮影を追及したX線画像診断システムと最新画像処理技術 FUJIFILM DR Low-Dose Solutions”が開催され,領毛雅樹氏(大樹町立国民健康保険病院放射線室)がCALNEO Smartの新機能による画質向上と線量低減をテーマに講演した。
2015.6.6 in 旭川
CALNEO Smart導入報告〜新機能による画質向上と線量低減
領毛 雅樹(大樹町立国民健康保険病院放射線室)
当院では,病院の新築・移転に合わせ,2014年10月から富士フイルムメディカルのカセッテDR「FUJIFILM DR CALNEO Smart」(GOSモデル)の運用を開始した。CALNEO Smartの導入に当たっては,撮影環境の改善と同時に,富士フイルムメディカルが推進している“Low-Dose Solutions”によって提供される効果に期待した。Low-Dose Solutionsを患者の利益に置き換えると,“被ばく少なく情報多く”ということだと考えている。本講演では,当院におけるCALNEO Smartの運用と作業環境の変化を踏まえ,新機能がもたらす画質向上と線量低減について報告する。
CALNEO Smartの特長
当院で使用しているCALNEO SmartのG47(14インチ×17インチ)とG77(17インチ×17インチ)は,フレームにマグネシウム合金を使用したことでG47が2.6kg,G77が3.2kgと軽量である。Virtual Gridソフトの使用によりポータブル撮影でグリッドが不要になるので,従来のCR撮影とパネル撮影の使用環境での重量を比較したところ,14インチ×17インチのCRカセッテ+グリッド(8:1)の合計重量3.215kgよりも,14インチ×17インチのCALNEO Smart(バッテリー含む)の方が軽量であった。
CALNEO Smartシリーズから,内蔵メモリに最大100枚の画像を保存できる“メモリモード撮影機能”が搭載されている。この機能により撮影室で使用しているFPD 1枚のみを持ち出すことでポータブル撮影をFPD化できる。また,Virtual Gridによりグリッドレス撮影が可能になったことで取り回しが非常に楽になり,複数CRカセッテ運搬時に起こりがちな落下・破損のリスクも軽減された。さらに,パネル側面がシェル形状となっているため平置きしても縁に指をかけやすく,ベッド上での撮影部位への挿入や抜き取りも以前より容易となった。一方,表面の形状はフラットで,銀処理コーティング“Hydro Ag”により汚れが付きにくく拭き取りやすくなった。
ワークフローの向上
CALNEO Smartを導入以降,当院ではワークフローが大幅に改善された。具体的には,(1) CRと比べて処理スピードが30秒以上速く,画像確認までの時間が短縮したことで一般撮影の利点である即時性が向上した,(2) CRカセッテの装填・回収が不要なため撮影時の動線が短縮した,(3) ポータブル撮影をFPD化できた,などが挙げられる。特に,(3) については,入射するX線信号を自動的に検出する“Smart Switch機能”とメモリモード撮影機能により,外付けPC(モバイルコンソール)の購入や新たな無線環境の構築も必要なく,低コストでポータブル撮影をFPD化できるため,メリットが大きい。
画質の向上
CALNEO Smartと画像処理ユニット「Console Advance V8.0」には,画質改善および線量低減を実現するさまざまな新機能が搭載されている。その主なものとして,CALNEO Smartでは(1) 読み取り技術(ISS方式)が高感度化を促進し,散乱・減衰を大幅に抑制するため少ない線量でもシャープな画像が得られる,(2) 蛍光体粒子を最適なブレンド比率にしてGOS(ガドリニウムオキサイドサルファ)のX線吸収量をアップ,(3) ノイズ低減回路で低濃度部の感度が向上し,撮影画像のノイズを低減,また,Console Advanceでは(1) 画像内のノイズ成分を自動抽出・分離することで粒状性を改善する“FNC2ノイズ抑制処理”,(2) モニタ診断に最適な画像を提供する“Dynamic Visualization”など画像を最適化する処理技術を搭載,などが挙げられ,この結果,CRと比較して画質が劇的に向上した。
例えば,胸部撮影においては肺野内の血管影が末梢まで明瞭に描出されており,縦隔や横隔膜,心臓の周囲も明瞭に観察することができる。頸椎撮影では下顎や後頭部近傍や側面撮影においても肩との重なり部分の描出が非常に向上した。また,CRで整形外科領域の撮影を行う際には,骨梁がはっきりと見えるよう強調表示をかけて出力していたが,CALNEO Smartではそれよりもかなり画質が向上している(図1)。
胸部ポータブル撮影では,強調表示により中心静脈カテーテルなどの先端が確認しやすく医師の評価も高い(図2)。また,Virtual Gridを用いることで,撮影線量を低減しつつ,高コントラストで良好な画質の画像が得られるほか,新機能が寄与することで,ポータブルの画像がCR使用時よりも一般撮影に近づいた。
線量低減
CALNEO Smartの運用に当たり,当院では胸部一般撮影におけるCRでの撮影条件とCALNEO Smartの初期設定条件における線量を検証し,CALNEO Smartを用いた最適な条件設定を検討した。その際,FPDでは画像処理によりCRよりも線量低減が可能なため,日本診療放射線技師会の「医療被ばくガイドライン2006」に記載されている胸部単純X線撮影(正面)における目標線量は0.3mGyであるが,まず0.15mGyの線量で評価を行い,その後0.10mGyを最終的な目標値とした。
図3に,CRでの撮影条件とCALNEO Smartの初期設定条件を示す。CALNEO Smartの入射表面線量は0.172mGyと,目標値に近い値であったことから,一般撮影の撮影線量指標であるExposure Index(EI)を用いて臨床データから当院のEIを収集し,画質を考慮して,まずはEIの目標値であるTarget EI(EIT)を当院での最頻値である320に設定した。
EIと,EITに対する撮影線量の偏差を表す数値であるDI(Deviation Index)を指標に,フォトタイマーを変更するなど撮影条件の補正を行いながら実際の臨床写真で画質評価を繰り返した。図4に,当院でのDI偏差による線量の指標を示す。画質評価の結果,0.0883mGyでの撮影が可能となり(図5), CRと比較して31.55%の線量低減率が達成できた。それでも画質はCRよりも向上しており(図6),視覚的には数値以上の効果を実感している。現在の撮影条件ではDIがマイナス側に偏差することが多く,目標よりも低い線量で撮影できていることから,将来的にはEITを230程度まで下げられるのではないかと考えている。
CALNEO SmartとVirtual Gridを適用したポータブル撮影においても,線量低減の可能性を検討した。従来のCRの撮影条件の120kV,4mAs,グリッド8:1,130cm,0.3459mGyに対して,100kV,1.2mAs,Virtual Grid(8:1設定),110cm,0.193mGyで画質を満足する結果が得られた。線量を比較すると,CRと比較して31.59%の線量で撮影できており,大幅な線量低減を図ることができた。
このように線量を低減できたことで,患者さんはもとより診療放射線技師の被ばく低減にもつながると考えている。また,線量は目に見えないため,EPD計算値やEIなどの簡易的な指標で可視化することの重要性を感じた。
まとめ
CALNEO Smartの撮影条件をEIを指標に見直した結果,胸部一般撮影およびポータブル撮影では30%以上の線量低減率を達成できた。また,管電圧,管電流は固定で,フォトタイマーにより撮影時間が自動で決定されるが,パネルの感度の高さを受けてハイスピードに変更したことで,撮影時間が短縮し,体動の影響の軽減や線量低減へとつながっている。
EIを用いて線量を簡単に可視化することが可能となり,線量低減への意識が向上した。また,さまざまな新機能が,少ない線量でも良い画像が出せるという安心感を与えてくれており,これが富士フイルムメディカル社が掲げる“Low-Dose Solutions”の,われわれ診療放射線技師に対する答えであると考えている。
1994年 中央医療技術専門学校卒業。
同年 大樹町立国民健康保険病院入職。
2010年〜放射線室技師長。
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