FUJIFILM MEDICAL SEMINAR 2015 Report デジタル画像処理技術がもたらす未来

Cross Talk 未来に向けて キーパーソンとFUJIFILM技術者が語るこれからの技術

「2つのモードのトモシンセシスが開く未来」

遠藤登喜子 氏(国立病院機構東名古屋病院放射線科診療部長・乳腺外科診療医長)× 技術者:山田雅彦(R&D統括本部画像技術センター)

富士フイルムのマンモグラフィトモシンセシスは,STとHRの2つのモードが利用でき,1つの装置で検診から精査まで幅広く対応できるのが特徴だ。日本の乳房画像診断の第一人者である遠藤登喜子氏に,トモシンセシスの開発とこれからの方向性を聞いた。

トモシンセシスの共同開発への取り組み

遠藤登喜子 氏

遠藤登喜子 氏

遠藤:二次元(2D)画像であるマンモグラフィには,2Dに投影された画像から乳腺構造を立体的に把握する難しさがありました。トモシンセシスは,多方向から複数枚撮影した画像から断層画像を再構成することで,正常乳腺に重なった石灰化や腫瘤を把握できることがメリットです。「AMULET Innovality」に搭載されたトモシンセシスの開発に協力させていただきましたが,開発初期の画像からブラッシュアップして,見やすく情報量が多い画像を作り上げてきました。
山田:当社の「AMULETシリーズ」の開発から共同研究を進めさせていただき,トモシンセシスについては2012年からスタートして,いろいろと勉強させていただきました。デジタルマンモグラフィの開発チームは若いスタッフが多く,実際に臨床現場に入って先生方の日々の診療の様子や読影の場でのご意見を直接見聞きすることで,この技術に何が足りないのか,ご要望にこたえるには何が必要なのかを真剣に考えるきっかけとなり,技術者が成長する場になりました。
遠藤:技術者の皆さんと一緒に開発過程を体験できたことは非常に意義深いことでした。「AMULET」は,他社よりも細かい50μmというピクセルサイズでの製品化を実現するなど臨床のニーズを反映して開発されていると感じています。実際にそれがヨーロッパの市場でも評価されて販売台数が伸びていると聞きました。乳腺の状態を50μmの2D画像にいかに写し込むかという技術に臨床医が共鳴したのだと思います。

ST,HRの2つのモードによるトモシンセシスを展開

技術者:山田雅彦

技術者:山田雅彦

山田:当社のトモシンセシスでは,撮影角度が大きく高精細・高画質の情報が得られる“HRモード”と,短時間・低被ばくで撮影可能な“STモード”の2つの影方法を用意しています。これらの撮影モードについて,画質の向上と線量低減をめざして現在も共同研究を進めていただいています。
遠藤:2つのモードが利用できることが富士フイルムのトモシンセシスの大きなメリットであり,それぞれのモードの特徴を生かして技術をブラッシュアップしているところです。STモードはより線量低減を,HRモードに関しては線量を下げつつクリアに高画質にという方向で検証を進めています。1つの装置で,まったく異なる使い方ができることへの期待は大きいのですが,同時に2つのモードの使い分けをしっかりと周知していくことも大切です。
山田:技術としてはデジタル画像処理が中心になりますので,HRモードでは本来の信号を識別しながらノイズ成分を除去する方向で進めています。ところで,トモシンセシスでなければ診断できないような画像もあるのでしょうか?
遠藤:FAD(focal asymmetric density)のように病変が乳腺組織に隠れて2D画像でははっきりとわからない部分が,トモシンセシスを使うことにより,「がん細胞の増生により組織の脂肪が失われ,全体として密度が高くなっている状態である」ということがわかってきました。これは2Dでは見えなかったもので,トモシンセシスでの知見が2Dに還元されて,診断学がさらに進歩する可能性があると期待しています。

さらなる線量低減と画質の向上へ

山田:トモシンセシスのさらなる線量低減については,トモシンセシス単独ではなく2D画像との組み合わせで考えています。2D画像の線量低減にも取り組んでいて,デジタル画像処理技術によって組織からの真の信号を識別して,それを保ったままノイズ成分だけを抑える技術を開発中です。撮影する乳房の厚さにもよりますが,線量を30〜40%下げてもノイズを抑えて鮮鋭度が変わらない画像が提供できていると思います。
遠藤:フィルムの時代から,ノイズも含めて画像と認識してきたところがあり,デジタル画像になってノイズが抑制された時に,はたして真の信号は何かということを改めて考えさせられていると感じています。マンモグラフィでは鮮鋭性と粒状性をポイントに画質の評価をしてきましたが,この2つはトレードオフの関係にあります。その中で画像処理によって見えている信号がtrueなのかfalseなのかを見極めていくには,検体の撮影画像の比較や病理の結果と合わせて見るなど,研究を進めていくことが必要です。また,診断というのは画質だけでなく,それを実現している技術まで理解することで成立すると思いますので,画像処理のプロセスをオープンにして技術者と臨床側が議論できるといいですね。
山田:マンモグラフィは一体型のシステムとして提供できることがメリットで,撮影モードに応じて照射する線量と画像処理をセットにして,撮影の目的に合わせたきめ細かい開発が可能です。今後,トモシンセシスを含めて最適な撮影方法を提案できればと考えています。

(2015年8月8日取材)

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