セミナーレポート(富士フイルム)
富士フイルムメディカル株式会社は,2018年6月21日(木)〜23日(土)に朱鷺メッセ(新潟県新潟市)で開かれた第22回日本医療情報学会春季学術大会のランチョンセミナー1にて,「医療の質・安全性の向上と働き方改革に向けたICTの活用」を共催した。
2018年9月号
第22回日本医療情報学会春季学術大会ランチョンセミナー1
医療の質・安全性の向上と働き方改革に向けたICTの活用
甲斐 聖人(社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院医療情報部長)
ICTを活用した働き方改革の目的には,業務の効率化と医療の質,安全性の向上がある。当院では,JCI(Joint Commission International)受審をきっかけに,診療プロセスの標準化,多職種協働によるチーム医療の推進と可視化などに取り組んだ。富士フイルムメディカルの診療文書管理・診療業務支援ソリューション「Yahgee」や統合診療支援プラットフォーム「CITA Clinical Finder(以下,CITA)」といったICTの活用を含めて,当院の取り組みについて述べる。
JCI受審をきっかけとした診療プロセスの標準化
JCIは,国際的な医療施設の認証機構として,患者の安全と医療の質向上が,組織的かつ継続的に取り組まれているかを審査,認定する。国内の認証取得施設は24施設(2018年3月現在)だが,当院は2013年に初めて認証を受け,2017年に2回目の審査を受け更新した。
JCIの審査項目は14章1146項目におよび,すべてが患者安全の実現を前提とした項目となっている。審査は外来から入院・退院までの診療プロセス全体に行われ,あらゆる場所,委託職員を含めた全スタッフが対象となる。5日間の審査期間の約半分は,診療記録を参照して“患者トレース”を行う時間にあてられる。患者トレースとは,入院から転退院まで患者に対する診療やケアが,診療方針に則って行われているかを確認する作業である。その際に求められるのが,正確な診療記録の記載である。JCIでは,病院が作成した診療方針と手順に基づいて,実際に一貫した診療やケアが行われているかを審査する。“チーム医療による多面的評価”や“手術の際のサインイン・サインアウト”などが,診療の実態として実施されたかは診療記録でしか説明できず,漏れなく確実に記録することがポイントとなる。
当院では,JCI受審にあたって電子カルテのテンプレート,Yahgeeなどを用いて記録の整備を行った。文書は500種類以上あるが,書式や台紙の多さがポイントではない。診療プロセスを標準化し医療の質を向上するには,診療方針に基づく記録の構造化が必要となる(図1)。
ICTを活用した標準化された診療記録の作成
当院では,電子カルテのダイナミック・テンプレートによる構造化された診察記事の記録と,Yahgeeによる診療関係文書の効率的な作成を行っている。Yahgeeの特徴は,電子カルテや部門システムと連携して,データの自動転記やドラッグ&ドロップによって文書作成ができることである。退院時サマリ(図2)では,入院時に台紙(中央)が自動作成される。入力時には患者基本情報は電子カルテより自動転記され,そのほか必要な情報は右側の病名,処方,検査などのタブからドラッグ&ドロップで流し込める。画面左側では履歴管理や記載者などのステータス確認ができる。
当院では,入院診療計画書,手術記録,退院時サマリ,看護サマリ,栄養管理計画書など200種類以上をYahgeeで作成している。Yahgeeによって,退院時サマリなど代表的な文書の記録で年間7000時間超が省力化できたと試算された。
CITA導入によるチーム医療の推進とデータの可視化
当院の病院情報システムは全体で100を超え,そのうち約60システムが電子カルテと連携している。これらのシステム間のデータ連携と閲覧の課題を解決するため,2017年10月にCITAを導入した。CITAは,電子カルテをはじめPACSなどの検査画像やレポートなどのシステムと連携し,診療場面や目的に合わせた最適な閲覧を支援するシステムである。
1.クリニカルフロー
クリニカルフローでは,診療プロセスの全体像を可視化し,必要なタスクの抜けや漏れを防止すると同時に,多職種間でのリアルタイムの情報共有をサポートする。実際には,電子カルテ(患者属性,入院情報,検査結果),Yahgee(文書作成状況),「SYNAPSE」(検査実施状況,レポート作成状況)と連携して情報を表示する。図3は,当院で構築した“入院中に必要な作成書類の管理”の画面である。Yahgeeと連動して,退院支援計画書,栄養管理計画書など,入院中に必要な書類の作成状況が一目で確認できる。必要な文書は,クリックしてYahgeeを起動し作成,編集ができる。この画面では,入院経過日数や転棟情報などの基本情報も確認できるようになっている。
2.データ参照
データ参照機能には,時系列で全体像を把握できる“タイムライン”,視覚的に素早くデータを検索できる“サムネイル”,必要なデータを一括表示する“レイアウトビュー”がある。タイムラインでは,検査値の推移,処方内容,検査結果(画像やレポート),診療文書(Yahgee)などを時系列で表示でき,時間のスケール(1か月〜10年)を操作して簡単かつ素早く表示できる(図4)。
レイアウトビューは,権限さえあれば誰でも簡単に画面設定の変更が可能で,複数パターンのレイアウトを設定できる。図5は,心エコー検査前のチェック時に参照される画面である。前回の超音波の動画像,CT画像,心電図,検体検査結果を一画面に集約表示し確認の上,検査が行える。特に検体検査結果は,以前は患者ごとに電子カルテで参照する必要があり手間がかかっていた。CITAによって,検査前の電子カルテ閲覧時間がほぼ0になり,年間で約420時間の省力化につながっていると試算できた。待ち時間の短縮,担当検査技師の負担軽減にもつながっていると考えられる。
CITAを用いた「既読管理システム」の運用
最近,画像検査レポートの見落としによる医療事故が相次いで報告されている。当院では,2018年3月からCITAの既読管理システムを導入して運用を開始した。CITAでは,未読通知や患者一覧での未読状況の確認,患者単位の既読化などの機能が提供されている。
以下に,CITAでの既読管理の運用を紹介する。
・ログイン時の通知:未読の通知は,まず院内ポータルのログイン時に通知される。通知の対象となるレポートは,自身のオーダで3日間未読状態のものと重要フラッグが付されたもの,既読後改版があったものである。通知ボタンをクリックすればレイアウトビューで画像とレポートを確認できる。
・管理画面での未読確認:管理画面では,リスト表示で既読が青,未読が赤の網掛けで表示される。リストのクリックで画像とレポートを確認できる。
・タイムライン(クリニカルフロー)での未読確認(図6):タイムラインでは,既読ステータスがアイコンで表示される。アイコンは自身のオーダか,自科か他科か,未読でも重要か改版ありかで色と形が変わるようになっている。
・レイアウトビューでの既読操作:画像とレポートを開いた際に,未読かどうかがウィンドウのバーの色で判断できる。レポートを表示しないと既読操作ができない仕組みになっている。
運用に当たっては,放射線科医が読影時に重要画像と判断する定義を定めた。(1) 新規の緊急性病変で治療・検査介入が行われていないもの,(2) 画像検査申込時に想定されていない悪性腫瘍疑い,(3) 放射線科医が何らかのアクションが必要と考えるもの(精査やフォローアップなど)であり,このうち(1)と(2)に該当する場合は放射線科医よりオーダした主治医に直接電話連絡することとした。
2018年3月26日から1か月間の試行運用で,重要画像報告に対する7日以内の既読率は95.0%だった。TQM部による週1回の確認,品質管理室長(医師)による電話確認によって未読件数は0になった。また,すべての画像報告に対する7日以内の既読率は88.8%だった。CITAによって既読の状況は把握可能になったが,人間が介在しなければ既読につながらない問題がある。今後,確実な既読の運用方法の検討と同時に,患者や家族への説明が漏れなくされたかどうかまで確認する方法も考える必要がある。
まとめ
当院での働き方改革に向けたICT活用の取り組みを紹介した。今後,構造化された診療記録の利活用による診療プロセス,患者アウトカム改善や機械学習などAI技術を取り入れた診療支援などに取り組んでいきたいと考えている。