セミナーレポート(富士フイルム)

2016年11月21日(月)〜24日(木)にパシフィコ横浜会議センター(神奈川県横浜市)ほかで開催された第36回医療情報学連合大会において,富士フイルムメディカル株式会社共催のランチョンセミナー14「SYNAPSE VNAの採用経緯〜ベンダーチェンジを伴ったPACS更新〜」が行われた。本多正幸氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療情報学教授)を座長として,三原直樹氏(大阪大学大学院医学系研究科医療情報学准教授)が講演した。

2017年2月号

第36回医療情報学連合大会ランチョンセミナー14

SYNAPSE VNAの採用経緯 〜ベンダーチェンジを伴ったPACS更新〜

三原 直樹(大阪大学大学院医学系研究科医療情報学准教授)

三原 直樹(大阪大学大学院医学系研究科医療情報学准教授)

大阪大学医学部附属病院(以下,阪大病院)では,2016年1月1日にPACSのシステム更新を行い,富士フイルムメディカルのPACS「SYNAPSE」と「SYNAPSE VNA」を導入した。大学病院での大容量かつ多種多様な画像情報システムを統合管理し,さらにベンダーチェンジに伴う過去データの活用も考慮して採用した,VNA導入の背景と構築のコンセプトについて述べる。

PACS更新時の課題

阪大病院では,2005年に電子カルテ・PACSを導入して完全フィルムレス化し,2010年には各科検査のnon-DICOMデータもデジタル化した。今回の病院情報システム(HIS)更新に向け,2013年に院内の画像情報関連のシステム導入状況を調査した。DICOMデータについては,放射線科読影用(汎用)のCT,MRI(静止画+MPR),循環器専用のXA,US(マルチフレーム表示)をはじめ,多くの専用ビューワ(システム)が導入されており,non-DICOMデータについても眼科,皮膚科,耳鼻咽喉科など各科の検査画像のための専用システムが存在していることがわかった。次期システムでは,個々のシステムが提供する高い機能は維持しながら,画像データについては一元管理することが求められた。
また,年々増大する画像データの継続的な保管,管理も要求された。大学病院という性格上,高度な画像診断機器がいち早く導入され,多列化CTや高磁場MRIなどの登場で,画像発生容量は爆発的に増大し続けている。今回の更新時点(2015年末)で,実効容量210TB超(1/3圧縮で物理容量約70TB)の過去データがあった。画像発生量は毎年2割ずつ増加しており,このままでいけば次回更新の2022年には700TBが必要となる。さらに,今回はベンダーを変更したことから,210TBのデータ移行に13か月を要した。次回のベンダーチェンジでの移行時間を単純に見積もると,3年半程度の時間が必要となり,事実上不可能となる状況が想定された。
これらのことから,今回のPACSの更新に当たっては,(1) 各科の多種かつ高機能な複数のビューワ機能を一元管理できること,(2) 分散管理されている大容量データを一元管理できること,(3) 将来的なデータ移行にも対応できること,を考えたシステムの選定が必要になった。

VNA選択の経緯と理由

上記の課題を解決する方法として採用したのがvendor neutral archive(VNA)である。
従来のPACSでは,表示速度向上のため,画像表示命令や圧縮方式などに各社が独自形式を採用していた(図1)。このため,システム更新で従来のような転送速度や高機能ビューワを引き続き利用するには,DICOM規格であっても同じベンダーに入れ替えるほかなく,結果的に“ベンダーロックイン”になっている。
また,HIS全体として考えた時にも,現在は電子カルテ・医事,PACS,部門のシステムごとに“垂直統合”された状況であり,ネットワークやクライアントなど一部は共用されているものの,システムごとにメーカーへの技術依存度が高い(図2a)。これがベンダーを変更しにくい一因になっている。近年,仮想化技術や規格の標準化などが進んできており,それを利用することでハードウエアを含めてサーバやストレージ,ネットワークなどのインフラ部分を“水平統合”し,その上に各ベンダーの高機能なアプリケーションを搭載することが可能となりつつある(図2b)。
個々のシステムを一元管理する方法として,ストレージ部分を統合して共用する統合ストレージがあるが(図3),ストレージだけを統合しても,その中に専用領域を設けたのでは見かけ上の統合に過ぎない。そこで新たな共通プラットフォームとして,2008年頃から米国を中心に登場したのがVNAである。VNAは統合ストレージと比較されるが,そのポイントはストレージだけでなくデータベースも中央に置いて管理することである(図4)。各システムのデータベースをVNAに移行して一括管理することで初めて,ストレージを一つに統合し効率的な管理が可能になる。VNAは各社からさまざまなソリューションが提供され始めているが,保存するデータやデータベースに関する標準化が進んでおり,少なくとも画像情報システムに関しては,今後,統合管理が可能になると思われる。

図1 従来のPACSの形

図1 従来のPACSの形

 

図2 垂直統合から水平統合システムへの移行の検討

図2 垂直統合から水平統合システムへの移行の検討

 

図3 一元管理のためのストレージの統合

図3 一元管理のためのストレージの統合

 

図4 統合ストレージとVNAによる管理の違い

図4 統合ストレージとVNAによる管理の違い

 

SYNAPSE VNAによるシステム構築

阪大病院で構築された「SYNAPSE VNA」の概要を説明する(図5)。
当院では,システム導入では安定稼働を優先するというポリシーから,今回のPACS更新では,従来型のPACSも併用しており,SSDをベースに構成された超高速仮想サーバ領域上に,従来PACS(SYNAPSE)のレイヤーと,VNAのレイヤーの両方を構築している。ストレージとしては,700TBの高速ストレージとバックアップ用の低速ストレージ,さらにSYNAPSEのバックアップ用のテープメディア(LTO)の3重保管となっている。データフローとしては,CR,CT,MRI,PETなどの画像は,最初にSYNAPSEのDICOMサーバでデータベース(DB)に書き込み,高速ストレージにデータを格納する。SYNAPSE側のサーバでは直近2年分のデータが保持され,高速に表示されるようになっている。さらに,SYNAPSEのDICOMサーバはこの画像をVNAサーバに転送する。VNAサーバはDBに情報を書き込み,高速ストレージに画像を保存する。こちら(VNA)側が真正性,保存性を担保する全データのストレージの扱いとなる。
阪大病院は,従来型PACSが同時稼働しているが,VNAのデータを参照できるビューワ(ユニバーサルビューワ)があれば,VNAのみで問題なく運用できる。実際に富士フイルムはSYNAPSEの次バージョンでVNA対応ビューワをリリース予定で,また,ほかのベンダー各社にもVNAへの対応を依頼しており,今後はVNAを中心とした運用が本格的に進められると考えている。

図5 「SYNAPSE VNA」による阪大病院の画像情報管理システムの概要

図5 「SYNAPSE VNA」による阪大病院の画像情報管理システムの概要

 

VNAによるデータ管理

従来の病院情報システムは,電子カルテをはじめとしてPACSやRISなど部門システムが,相互に連携し情報をやりとりすることでスムーズな情報共有を可能にしていた。しかし,そのために各システムに情報が分散しており,1人の患者やあるイベントに必要な情報を集めるためには,手間と時間が必要となるのが現状である。われわれは,どのようなデータがどのタイミングで必要とされるかについて,PACSのログを取得し画像へのアクセス状況を解析することで検討を行った1)。その結果,キーとなるイベントに注目して関連性の高い画像をあらかじめ選択して表示できる可能性が示された。
富士フイルムでは,こういったコンセプトに基づいた統合診療支援ポータル「CITA Clinical Finder(CITA)」や診療業務支援ドキュメントシステム「Yahgee」などを発売している。CITAでは,“メディカル・ガジェット”と呼ばれるフレームを使うことで,必要な情報のウインドウを画面上に配置できる。VNA導入によるデータの統合管理と,こういったビューワを利用すれば,今後,イベントごとに重要度の高い情報を表示するような診療支援システムの構築も可能になると考えられる(図6)。

図6 イベントごとに最適化されたビューワ表示

図6 イベントごとに最適化されたビューワ表示

 

まとめ

VNAのような共通基盤の構築は,今後の地域医療ネットワークでも重要なコンセプトとなると考えられる。しかし,VNAをはじめとする水平統合を進めるには病院側が保守や運用を担う必要があり,院内の体制づくりや人材育成の仕組みづくりを進めることが必要なことも述べておきたい。

●参考文献
1)三原直樹・他:PACSの最適な画像保管方法とは〜短期保管領域,長期保管領域における収集ログ解析報告;第2報〜.第73回日本医学放射線学会総会,2016.

 

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