セミナーレポート(富士フイルム)
2016年9月号
第24回日本乳癌学会学術総会ランチョンセミナー8 乳癌における最新画像診断〜マンモグラフィ・乳腺解析〜
最新画像処理におけるトモシンセシス検査の有用例紹介
遠藤登喜子(国立病院機構東名古屋病院 乳腺科)
2012年から富士フイルム社とトモシンセシス(DBT)の共同開発を進めてきたが,DBTの課題である線量低減について,同社が開発した最新の再構成法を画像を含めて紹介し,その可能性について述べる。
画質優先と低被ばく撮影の2つのモードのDBT
「AMULET Innovality」のDBTは,撮影角度±20°のHR-modeと±7.5°のST-modeでの撮影が可能で,HR-modeは画質と高分解能を,ST-modeは撮影時間の短縮と低被ばくを優先する。われわれは,DBTについて同社と共同研究を行い,臨床での画像評価の結果をフィードバックすることで画質の向上,改善に取り組んできた。今回,DBTの課題である線量低減を可能にする再構成法として新たに開発された“Excellent-m 3D”による画像について評価を行った。
最新の再構成法“Excellent-m 3D”の特徴
Excellent-m 3Dでは,逐次近似超解像再構成処理“Iterative Super-Resolution reconstruction:ISR”によって,“異なる深さにある人体構造の写り込みアーチファクトを低減”“低線量撮影時の粒状を低減”“微細構造の復元・鮮鋭度の向上”などを可能にする。
異なる深さの人体構造の写り込みアーチファクト低減では,画像全体の再構成と再投影を繰り返すことで,石灰化や腫瘤の他の断面層への写り込みを低減する。従来法(FBP)では,粗大な石灰化がDBTの焦点面以外で撮影方向に対する尾引きアーチファクトとして現れていたが,これが低減されれば画像改善が期待される(図1)。
低線量撮影時の粒状性はDBTでは常に課題だが,ISRでは逐次近似再構成処理の際に粒状性を改善する。さらに,鮮鋭度の向上では独自の超解像技術を用いることで,石灰化などの微細構造の視認性を向上させている。
DBTの症例提示
Excellent-m 3Dによる画像を含めて,症例画像を供覧する。
1.HR-modeの症例画像
図2は,石灰化があり明らかなカテゴリー5の症例だが,こういった場合でも石灰化だけでなく,それを生成した背景の乳腺組織を確認して診断することが重要である。Excellent-m 3D(図2 c)では石灰化がシャープに描出され,かつその背景乳腺の状態がよくわかる。この症例は,範囲の広い乳頭腺管癌と診断された。
2.ST-modeの症例画像
通常の2D画像では病変の指摘が難しい高濃度乳腺の症例でも,ISRを適用したDBTでは腫瘍と微細なスピキュラが鮮明に描出されている(図3)。10mmの管状癌と診断された(図3 c)。
Excellent-m 3Dを適用することで,DBT撮影での粒状性が低減し,画像の鮮鋭度も向上することがわかった。これらの画像はfull doseの撮影だが,さらに線量を下げたDBT撮影も期待できる。
さらなる線量低減を可能にする“S-View”
検診などスクリーニングでDBTを利用するためには,さらなる線量低減が必要であり,DBT撮影のデータから2D画像を作成する合成2D(S-View)の研究も進めている。S-View+DBTの臨床での適用可能性を確認するため,通常の2D-MGとの比較検討を行い,75%の線量によるS-View+DBTは,全症例,腫瘤,石灰化症例では有意差はないが,非石灰化病変に対してはsensitivityが高いことをRSNA2015で発表した。
さらに,このS-View画像にExcellent-m 3Dを適用することで,画質の向上,線量の低減の可能性を期待して研究を行っている。図4は,ST-modeで撮影した非がん症例(石灰化)のS-View+Excellent-m 3D画像だが,ノイズやにじみが抑えられて,より診断しやすい画像が得られている。今後,症例を重ねて,画質や診療での使用方法について研究を進める予定である。S-View+DBTで診断可能との研究結果が出れば2D撮影が不要となり,現状の2D+DBTに比べ,約半分の線量で検査が可能となる。
まとめ
乳腺画像診断におけるDBT追加の効果と,新しい画像再構成法であるExcellent-m 3Dを用いた線量低減の可能性について概説した。DBTを検診で安心して使用していくため,富士フイルムにはさらなる研究・開発を期待したい。