技術解説(富士フイルムメディカル)
2020年4月号
腹部領域におけるUS技術の最新動向
腹部領域における超音波診断装置「ARIETTA 850」の最新技術
川本幸一郎[(株)日立製作所ヘルスケアビジネスユニット第一製品開発本部]
日立のプレミアムクラスの汎用超音波診断装置「ARIETTA 850」*1に搭載されている機能について,腹部領域における「日常診療」「マイクロコンベックスプローブ」「造影超音波」の観点から,最新技術にフォーカスして紹介する。
●日常診療に寄与する画像性能
1.“eFocusing”による高画質化
eFocusingは,多方向同時受信を用いて,フレームレートを低下することなく送信フォーカス依存性を低減する技術である。1回の大口径送信で多方向,広範囲の受信信号を得て,その受信領域が重なるように位置をずらした複数回送信により得られる受信ビームを合成してBモード画像を形成するため,高空間分解能,高コントラスト,高ペネトレーションな画像を提供する。
2.“Carving Imaging”による組織分別能向上
Carving Imagingは,組織構造の視認性の良さを追究した画像処理であり,組織構造特性を空間的に解析し,エッジ強調,構造のつながり向上およびノイズ除去の処理を行うことで,明瞭な形態描出を実現し,ノイズレスでクリアな画像を提供する。
●マイクロコンベックスプローブ C23RV/C23*2
従来のマイクロコンベックスプローブ(以下,マイクロコンベックス)は,標準的な腹部用コンベックスプローブ(以下,腹部用コンベックス)と比較しコンパクトな形状のため,さまざまな技術的な制約を受け,画質が劣るといった課題があった。そこで今回,「材料」「放熱性能」「形状」を工夫し,腹部用コンベックスに近い画質(図1)を得られるマイクロコンベックス「C23RV/C23」を開発した(図2)。
C23RV/C23では,高感度・広帯域化を図るため,圧電材には単結晶を採用した。一方,腹部用コンベックスに比べ形状が小さいことにより,プローブ表面温度が上がりやすく,高い音圧を出力することが困難であった。そこで,放熱構造,新規材料の採用により温度上昇が抑制され,高い音圧の出力を可能とした。
形状においては,これまで広い視野角を実現するために体表接触面の曲率を小さくする必要があったが,体表からプローブ表面が浮く場合があった。今回,曲率を従来より大きくし,体表との接触面積,つまり音響口径を維持することで,体表からプローブ表面が浮くことによる画質の低下を抑制した。視野角については,“Wide Scanning”により,従来以上の広さを実現した(図1 d)。
これらの技術により,超音波ガイド下の治療・診断支援だけではなく,日常診療にも広く貢献できることを期待する。
●造影超音波
1.日立のLow MI法“Definition PI”
造影超音波では,一般的に知られている造影用のPI(Pulse Inversion)法やAM(Amplitude Modulation)法のほかに,通常Bモードの音圧を下げて造影剤を観察するLow MI法が使われている。Low MI法は,空間・時間分解能が高いことが特長であり,主に血管相で使用される。しかし,Bモードを使用するため,造影モードから切り替える手間や造影モード特有の機能が使えないというワークフロー面の課題,SNRや造影感度が低下する性能面の課題がある。そこで,造影モードの一つとしてLow MI法を組み込み,設定を最適化した新しい血管イメージングDefinition PIを作成した。また,コンパウンド対応により血管走行の描出力向上を図っている。図3 aで,動脈相におけるPI法とDefinition PIの画像を比較する。Definition PIでは,感度および血管走行の描出能が高く,図3 a→のように,より明瞭に腫瘍の濃染が確認できる。各造影手法は,“QSS(Quick Scanning Selector)”にて1ステップで最適な条件へ切り替え可能となっている。
2.高音圧ドプラ法“CHI-eFLOW”
CHI-eFLOWは,高音圧で造影剤を破壊し,疑似ドプラ信号を発生させ,造影剤を感度良く検出し,後血管相での病変の輝度変化を観察しやすくする。図3 b→に示すように,背景Bモードの影響を受けずに病変部の微細な染影欠損を深部まで観察可能である。操作は2ステップと簡便であり,意図しない造影剤の破壊を防ぐため,モード遷移後に低音圧状態でROI設定が可能である。そのため,プローブを体表から離さず対象領域を設定できることも特長である。
3.最新技術と造影モードの融合
先に述べたeFocusingとCarving Imagingを,モニタモードのガイド画像(以下,モニタ像)で最適化し,装置搭載した。モニタ像は,造影剤を壊さないように,ファンダメンタルモードで,かつ低い音圧で送信するため,通常Bモードに比べ空間分解能,コントラスト分解能,ペネトレーションが低い画像になる。その結果,ガイドとして使用したいはずのモニタ像で,対象病変が見つけづらいという課題がある。そこで,eFocusingをモニタ像向けに最適化することにより,eFocusingの特長である高空間分解能,高コントラスト,高ペネトレーションなBモード画像を,低い音圧でも得られるようになった。また,その画像に組織構造の視認性の良さを追究した画像処理Carving Imagingをプラスすることにより,通常Bモードから切り替えても違和感ないレベルの画像が提供できることを期待する(図3 c)。
さらに,造影画像にもeFocusingを対応させている。フォーカス依存性が低減し,浅部から深部まで均一性の高い画像が得られることを期待する(図3 d)。
◎
ARIETTA 850に搭載されている最新技術を紹介した。これらの技術が,超音波検査の質の向上および効率化に貢献することを期待する。
*1 販売名:超音波診断装置 ALOKA ARIETTA 850
医療機器認証番号:第228ABBZX00147000号
ARIETTA,ALOKAは株式会社日立製作所の登録商標です。
*2 販売名:C23RV プローブ/C23 プローブ
医療機器認証番号:第301ABBZX00055000号
*3 販売名:C22P プローブ
医療機器認証番号:第225ABBZX00099000号
*4 販売名:C252 プローブ
医療機器認証番号:第228ABBZX00133000号
●問い合わせ先
株式会社日立製作所
ヘルスケアビジネスユニット
〒110-0015
東京都台東区東上野2-16-1
上野イーストタワー
http://www.hitachi.co.jp/healthcare