技術解説(富士フイルムメディカル)
2018年9月号
MRI技術開発の最前線
1.5T MRI「ECHELON OVAL」における新搭載機能
八杉 幸浩[(株)日立製作所ヘルスケアビジネスユニット]
「ECHELON OVAL」(図1)は,楕円形状の開口を持つオーバルボアガントリが特長の超電導MRIである。今回,最新バージョンのリリースにより,画像診断に有用な新たな撮像機能を搭載したので解説する。
■TOF-MRAにも対応した動きのアーチファクト低減機能“All Around RADAR”
モーションアーチファクトを低減する日立のラジアルスキャン撮像機能である“RADAR”は,適用シーケンスが幅広く,ルーチン撮像に活用できる機能であるが,新たにグラディエントエコー(以下,GrE)シーケンスにも対応できるようになった。GrEシーケンスでは,被検者による磁場の不均一や傾斜磁場パルスのわずかな誤差でエコー信号ズレが発生する。図2に示すように,直交系サンプリングでは信号ズレが各エコーで同様になり画質への影響は生じないが,RADARでは放射状に計測するため,ズレの影響がアーチファクトとなる。このため,GrEシーケンスにRADARを適用する際には,これまで以上に高精度の補正技術が必要であった。
改良した高精度信号補正により,GrEシーケンスにもRADARを適用可能とし,3D TOF-MRAを含めた頭部ルーチン検査に必要なシーケンスで,RADARの併用が可能となった。
図3は,RADAR 3D TOF-MRAを鎖骨下動脈撮像に適用した画像例であるが,動脈の描出が明瞭に向上し画質が改善されている。
■強化された静音撮像機能“Soft Sound Suite”
本機の静音撮像機能Soft Sound Suiteは,傾斜磁場波形を最適化することで,図4に示すように,撮像時間や画像のコントラストに与える影響を最小に抑えて効果的に静音化が可能である。
この手法のメリットの一つとして,適用可能なパルスシーケンスの拡張が容易であることが挙げられる。今回のバージョンより,位置決め用のスキャノグラムを含めたプリスキャンも,撮像音を最大1/10以下に低減した静音撮像が可能となり,頭部の自動位置決め機能“AutoPose”にも対応した。さらに,ラジアルスキャン手法のRADARも併用可能となり,モーションアーチファクトを低減した上で,静かな撮像環境でのMRI検査を提供できる。
静音撮像機能を位置決めからすべての頭部ルーチン撮像に適用したことで,特に脳ドック健診にて,自動位置決め機能や動きによる再撮像のリスク低減を含めて,効率的なMRI運用を可能とした。これにより健診のスループットが向上し,病院経営に対するメリットであると言える。
■定量的磁化率マッピングQSM
QSM(Quantitative Susceptibility Mapping)は,局所的な磁化率差を推定し,画像化する機能である。図5に示すように,位相画像を利用し,局所的な位相変化を抽出した上で,繰り返し演算による推定処理を行うことで磁化率マップを算出する。
T2*画像や磁化率強調画像に相当するBSI(blood sensitive imaging)では判別が難しい,軽微な磁化率の差を抽出することができる。
QSMによる臨床画像例を図6に示す。QSM撮像では,従来のBSI画像を同時に得ることができるが,BSIでは黒く描出される脳出血領域の一部が,QSMでは白く描出されており,石灰化が疑われる。
■金属磁化率アーチファクト低減撮像法“HiMAR”
HiMAR(High quality Metal Artifact Reduction)は,金属周辺に発生するメタルアーチファクトを低減する撮像技術である。
これは図7に示すように,3DのFSEをベースに照射および受信周波数をシフトした画像(スペクトルビン画像)を複数取得し,合成した画像を出力することでスライス面内の信号欠損を回避する手法である。通常のFSEでは,周波数シフトにより,信号欠損の生じている人工骨頭ファントム画像において形状が判別できる程度に補正されている。
図8に整形外科用インプラントによる臨床画像例を示す。通常のSTIR画像は金属ボルトの影響で画像の変形と高輝度アーチファクトが生じているが,HiMAR STIR画像ではボルトの形状を正確に認識することができる。なお,条件付きMRI対応医療機器などが植込みまたは留置された被検者の撮像に関する取り扱いについては,十分な注意が必要である。
■拡散強調計算画像処理cDWI
撮像した拡散強調画像(以下,DWI)から任意のb値の「cDWI(Computed DWI)」を計算し,出力する機能である。1次指数関数近似に基づいて,b=0を含む2点以上のb値を用いて計測したDWIから任意のb値のDWI計算画像を作成できる。高いb値の画像をSNRの良好な状態で再現することができる。図9はb値=1000の頭部DWIから計算したb値=2000のcDWIであり,良好な画像が得られている。
◎
高機能なMRIにおいては,最先端の撮像機能の搭載が不可欠である。定期的なアプリケーションのバージョンアップにより,画像診断に貢献する新たな価値を提供していきたいと考えている。
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