技術解説(富士フイルムメディカル)

2014年3月号

US Today 2014 領域別超音波最新動向

血流の速度ベクトル表示Vector Flow Mapping(VFM)

岡田  孝(日立アロカメディカル(株) 第二メディカル技術本部) 板谷 慶一/宮地  鑑(北里大学血流解析学・心臓血管外科)

カラードプラ法1)は1980年代に開発され,断層面内の血流情報をリアルタイムに表示できることから広く普及し,超音波検査において,なくてはならない機能となっている。ドプラ法によるため,超音波ビーム方向の速度成分しか求めることができず,カラードプラ法が開発された当初から,血流が断層面内をどちらの方向に流れているかを求めることが大きな課題であった。われわれは,カラードプラ情報と心壁の運動情報から,流体の質量保存則に基づき超音波ビームと直交方向の速度成分を求め,血流の速度ベクトル表示(Vector Flow Mapping:VFM)を実現できたので紹介する。

■左室のVFM

等容収縮期の左室の速度ベクトル表示例を図1に示す。拡張期に流入した血液が左室の基部から中部にかけて大きく旋回し,渦が発生していることがわかる。さらに,図2図1のベクトルをつないだ流線(streamline)表示である。流れの様子が視認しやすくなり,渦の同定にも有用である。

図1 左室の速度ベクトル表示(等容収縮期)

図1 左室の速度ベクトル表示(等容収縮期)

図2 左室の流線表示(等容収縮期)

図2 左室の流線表示(等容収縮期)

 

■VFMの原理2)

図3 速度ベクトルの速度成分

図3 速度ベクトルの速度成分

カラードプラ法により,超音波ビーム方向の速度成分は計測できる。超音波ビームと直交方向の速度成分を求めることができれば,血流の速度ベクトルを求めることができる(図3)。以下に,流体の質量保存則に基づく超音波ビームと,直交方向の速度成分の推定法を示す。
図4 右は,左のような心壁付近を拡大した模式図である。超音波ビーム方向の速度成分V1V2V5V6V8V9は,カラードプラにより計測できる。質量保存則が成り立つと仮定すると,緑色で示した微小領域Sにおいて,流入する血流と流出する血流は等しくなる。したがって式(1)が得られる。

V1V2)=(V3V4)    (1)

V1V2はカラードプラにより既知であるので,V3がわかればV4が求められる。ここで,V3は心壁のトラッキングにより求めることができ,V4が求められる。同様に,V4が求められたことによりV7が求められ,さらにV10を求めることができる。この演算を繰り返すことにより,超音波ビームと直交方向の速度成分を推定することができる。

図4 質量保存則に基づく直交方向速度成分の推定

図4 質量保存則に基づく直交方向速度成分の推定

 

■VFMのための撮像の注意点

上記の原理より,VFMで速度ベクトルを求める上で必要となる撮像のための注意点は,下記の通りとなる。
(1) カラードプラの表示領域は内腔全体をカバーする。
(2) 両側の心内腔壁または血管壁がBモード画像で明瞭に得られている。
(3) エイリアシングは可能なかぎり少なくなるように速度レンジを設定する。
(4) フレームレートは可能なかぎり高く設定する。

 

今後,VFMが心疾患の治療前後の血流の改善度評価に適用されることが期待される。

 

●参考文献
1)滑川孝六, 原田烈光, 河西千廣 : 超音波ドップラーによるリアルタイム血流映像装置. 電子情報通信学会論文誌 D, 70-D・7, 1432〜1440, 1987.
2)Itatani, K., Okada, T., Uejima, T., et al. : Intraventricular Flow Velocity Vector Visualization Based on the Continuity Equation and Measurements of Vorticity and Wall Shear Stress. Jpn. J. Appl. Phys., 52, 07HF16, 2013.

 

【問い合わせ先】
日立アロカメディカル マーケティング本部 TEL 0422-45-5124
http://www.hitachi-aloka.co.jp/

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