技術解説(富士フイルムメディカル)
2013年12月号
デジタルトモシンセシス技術報告
HOLOGIC「Selenia Dimensions」最新のデジタルトモシンセシス乳房撮影装置の特長
落合 是紀(XR営業本部)
乳房の画像診断に画期的な診断能の向上をもたらすデジタル・ブレスト・トモシンセシス(デジタル乳房トモシンセシス)技術を搭載した乳房X線撮影装置が発売され,約3年が経過した。この間に,市場では二十数台の装置が稼働し,その臨床的効果が学会などで発表されている。
乳房トモシンセシス(3D)は,圧迫された乳房を短時間でスキャンし,複数の角度で静止画像を収集し,画像を再構成する技術である。収集した個々の画像は,一連の薄い高解像度断層像に再構成され,1画像ずつ,または連続的にシネモードで表示することができる。再構成された3D画像は,従来の通常のマンモグラフィ(2D)撮影における組織の重なりや構造ノイズに起因する問題を,減少あるいは排除することができる。また,デジタル乳房トモシンセシスは,診断や検診精度の改善,再検査の減少,放射線科医の確信度向上,および病変位置の特定などが期待できる。
■トモシンセシスとは
従来のX線マンモグラフィは,関心病変の上下からのX線信号の散乱のため,関心病変を視覚化するのが往々にして困難な場合がある。これは,フィルムカセッテまたはデジタル検出器上のX線信号が,その位置の上部の全組織での全X線吸収で決まるためである。
トモシンセシス1)〜5)は,組織の重なりを効果的に減少または排除することができる技術である。図1に,乳房トモシンセシスシステムを搭載した「Selenia Dimensions」(HOLOGIC社製,以下,Dimensions)を示す。乳房を圧迫している間に,検出器に対してX線管を回転させ,多数の異なる方向からの乳房X線像を収集する。乳房の異なる高さにある対象物は,各投影像にそれぞれ相対的な位置が異なって表示される(図2)。
■トモシンセシス(3D)の撮影
3D撮影においても,乳房は通常の方法で圧迫される。圧迫した乳房に対しX線管を±7.5°,計15°回転させる。この間に,15回の低線量照射がほぼ1°ごとに行われ,画像を収集する。撮影に当たっては,従来の2D撮影と同じく,CC,MLOをはじめとするあらゆるビューに対応することができる。
撮影モードについては,2D撮影のみ,3D撮影のみ,3D+2Dの連続(コンボモード)撮影の3種類から選択できる。コンボモードにおいては,まず約4秒の3D撮影が行われ,数秒の休止後2D撮影が行われる。圧迫は同じ状態に保持されるので,2D画像と3D画像の比較読影を容易に行うことができるなどの利点がある。また,3Dの撮影時間が4秒と短いため,被検者も息を止めていることができ,運動ボケの少ない撮影が可能になる。さらに,被検者や術者にとっても,圧迫時間や撮影スイッチの保持時間が現状の2D撮影に比べ数秒延びるだけであり,負担はほとんどないと言え,撮影のスループットに対しても影響は非常に少なく,現状の検査効率を維持することが可能である。
■画像再構成と表示
Dimensionsでは,得られる15枚の角度の異なる画像からfiltered back projection(FBP)法で画像処理し,撮影台に並行に高さを変えた位置で再構成したスライス像(3D画像)を作成する。通常,これらの画像は1mmのスライス間隔で再構成される。したがって,5cmに圧迫された乳房トモシンセシス検査では50枚の3D画像が得られるはずであるが,Dimensionsでは50枚+αの3D画像からなっている。ここで+αの3D画像を作る理由は,実際の撮影においては圧迫圧力による圧迫板の変形があり,厚みの表示が5cmであっても,実際の乳房はそれ以上の厚みになっているのが普通であるためである。Dimensionsの3D画像を観察すると,最上層の3D画像はややボケた画像になっていることに気づくと思うが,これはその高さに被写体である乳房がないことに起因する。それより数枚下がった3D画像からボケの少ない画像を観察できるが,これはつまり,ややボケた層まで表示することで,圧迫された乳房をほぼカバーして表示することを担保している。一方,最下層の3D画像はボケの少ない画像が観察できるが,これは撮影台が圧迫圧力により変形しないことがその理由である。
スライス間隔を1mmより細かくしても診断能の向上にはつながらないだけでなく,例えば0.5mmとすると,3D画像は2倍の枚数になり読影時間の増加につながる。一方,スライス間隔を厚くすると,集簇した石灰化の評価などに効果がある場合もある。
■トモシンセシス臨床試験6)
2010年11月22日から2011年12月31日にかけて,オスロにおいてDimensionsを使用して1万2631人を対象としたスクリーニング検査が行われた。この検査では,がんの検出率,偽陽性率,陽性的中率,検出されたがんのタイプなどが,2D画像単独と2D画像に3D画像を加えた検査で比較された。結果を表1に示す。
報告によれば,検診において3Dを追加することで,がんの検出率,特に浸潤癌に対する検出率の顕著な向上と偽陽性率の顕著な低減を見たと結論されている。また,がんの検出率は,あらゆる密度の乳腺に対して3Dの追加で向上している(図3)。
■臨床画像
図4に臨床画像7)を示す。いずれも2D画像に比べ,3D画像で対象が明瞭に描出されている。
●参考文献
1)Dobbins, J.T.Ⅲ, Godfrey, D.J. : Digital x-ray tomosynthesis ; Current state of the art and clinical potential, Phys. Med. Biol., 48・19, R65〜106, 2003.
2)Newman, L. : Developing technologies for early detection of breast cancer. A public workshop summary. Institute of Medicine and Commission on Life Sciences National Research Council, 2000.
3)Niklason, L.T., Christian, B.T., Niklason, L.E., et al. : Digital tomosynthesis in breast imaging. Radiology, 205・2, 399〜406, 1997.
4)Rafferty, E.A., Kopans, D.W., Wu, T., et al. :
Breast Tomosynthesis ; Will a Single View Do? RSNA 2004, Session SSM02-03 Breast (digital mammography), 2004.
5)Rafferty, E.A., Niklason, L., Halpern, E., et al. : Assessing Radiologist Performance Using Combined Full-Field Digital Mammography and Breast Tomosynthesis Versus Full-Field Digital Mammography Alone ; Results of a Multi-Center, Multi-Reader Trial. RSNA 2007, Session SSE26-02 Late Breaking Multicenter Clinical Trials, 2007.
6)Skaane, P., Bandos, A.I., et al. : Comparison of Digital Mammography Alone and Digital Mammography Plus Tomosynthesis in a Population-based Screening Program. Radiology, 267, 47〜56, 2013,
7)落合是紀, Smith, A. : 乳房トモシンセシス─マンモグラフィの性能向上. MEDIX, 54, 30〜36, 2011.
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