技術解説(富士フイルムメディカル)

2013年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心エコー検査におけるDual Doppler技術

徳永 淳一(日立アロカメディカル株式会社 第一メディカルシステム技術本部)

■Dual Dopplerとは

心エコー検査は,そのリアルタイム性を生かし,心臓の形態や機能および血流情報を非侵襲的かつ短時間で得ることができ,また動いている心臓をリアルタイムに観察できる。これまでにも,心エコー検査では,心機能評価のさまざまな指標を求める計測機能がルーチン検査に取り入れられてきた。例えば,僧帽弁口血流速波形からE波を計測し,さらに僧帽弁輪運動速波形e’波を測って,E/e’を計算することにより,左室拡張能の評価を行う。または,僧帽弁通過血流波形と左室流出路の血流波形を測って,左室機能の総合的な評価指標の算出を行う,などである。本来,このような指標は同一心拍で計算されるべきであるが,ほぼ安定した心拍であれば問題となることはない。通常,サンプルボリュームが1つなので,E/e’などでは異なる心拍で2回の撮像が必要である。また,2回撮像する必要があったが故に,不整脈では正確な診断が困難であった。ドプラ法において,2つのサンプルボリュームが存在すれば,同一心拍で2か所のドプラ波形を得ることができる。
このような要望を実現するために,同一心拍で2か所のドプラ波形を観察可能となる“Dual Doppler”が開発された。E/e’など,2つの異なる波形を用いた計測を,1つの画像のみで簡便に行うことが可能である。血流波形/血流波形,血流波形/組織ドプラ波形,組織ドプラ波形/組織ドプラ波形という3つの組み合わせで表示することが可能であり,次のような診断に活用できることが期待される。
(1) 組織ドプラ波形と血流波形を組み合わせた,左室拡張能の評価(2回の撮像が必要であったE/e’の計測が,1回の撮像で可能となる)(図1
(2) LV inflowとPV flowなどの同一心拍による左室拡張能の評価
(3) 2つの組織ドプラ波形による,CRT等心不全治療の効果判定

図1 ‌E/e’を計測する場合のSingle Doppler法とDual Doppler法の比較

図1 ‌E/e’を計測する場合のSingle Doppler法とDual Doppler法の比較

 

■‌Dual Doppler時の時間分解能と速度レンジの制御

Dual Dopplerは,2か所のドプラ波形を観察可能であるが,その引き換えとして,2方向にビームを送信することにより,速度レンジが従来の1方向に送受信するドプラ法に比較して低下することが懸念される。また,1方向ドプラの場合では,図2のように速度レンジを上げるために,送信繰り返し時間(PRT)をできるだけ小さくすることが可能であるが,Dual Dopplerでは,図3のように,一方が送受信していない時間を使ってもう一方が送受信を行うため,1方向ドプラと比較して速度レンジの最大値が低下し,かつそれぞれが適切な速度レンジを選択できず,計測に必要なドプラ波形を得られなくなることも考えられた。
当社では,それぞれのサンプルボリュームにて送信のPRTや速度レンジの最適化を常時行うことで,速度レンジが心エコーでの血流観測に十分使用可能なレベルを実現した。計測可能な速度レンジの最大値を向上させるために,2か所のドプラ波形の参照周波数を異なる値に設定できるようにするとともに,参照周波数の見直しを行い,E/e’を評価する際に必要となるE波の高速な血流波形の取得も実現した。

図2 Single Doppler時のPRT

図2 Single Doppler時のPRT

 

図3 Dual Doppler時のPRT

図3 Dual Doppler時のPRT

 

■臨床例

臨床では,Dual Dopplerの特長である,同一心拍で組織と血流の区別なく2か所のドプラ信号を計測することが可能となったことを生かした応用,もしくは従来の評価方法の改善がなされている。ここでは,成人心エコーと胎児心エコーに適用された例を提示する。
心房細動は,臨床現場で最も一般的に見られる不整脈で,心不全のリスクを増大させる因子であることから,左室機能を評価することは臨床的に重要であると言われている。一方で,従来,心房細動患者においては心室の興奮が不規則となるため,安定したR-R間隔が得られず,正確な評価が困難であった。そこで,Dual Dopplerを用いることにより,同一時相における僧帽弁口血流速波形の拡張早期波(E波)と,僧帽弁輪運動速波形の拡張早期波(e’波)の計測が可能となり,より正確な拡張能評価が可能となった(図4)。

図4 Dual DopplerによるE/e’の評価

図4 Dual DopplerによるE/e’の評価
(画像ご提供:徳島大学病院循環器内科超音波センター・山田博胤先生)

 

また,成人の心エコー検査のみならず,胎児心疾患の診断にも応用されることが期待されている。このうち,胎児不整脈の症例を提示する。胎児不整脈は1〜2%の妊娠で認められる,比較的よく遭遇する疾患である。治療を必要としない場合が多いが,胎児水腫や胎児死亡を引き起こすことがあるため,正確な診断や管理が必要となる。胎児では,心電図をとることが難しいため,さまざまな方法により診断が行われている。その中で,Dual Dopplerを用いて,肝静脈と下行大動脈の同時血流計測(HV-DAo法)という新しい診断方法も報告されている(図5)。肝静脈血流には,S波,D波に引き続き,心房収縮による逆流波A波を認め,下行大動脈血流には心室収縮によるV波が表示される。したがって,得られたA波同士,V波同士およびA波とV波の間隔から,胎児不整脈を評価できる。従来の1方向のドプラ法では,静脈血流と動脈血流が重なるケースにおいて,A波とV波の分離が難しかったが,別々に表示できることにより,心房収縮と心室収縮の関係や,それぞれのリズムを理解しやすいといった利点が挙げられる。

図5 Dual Dopplerによる胎児不整脈の診断

図5 Dual Dopplerによる胎児不整脈の診断
(画像ご提供:徳島大学病院産婦人科・加地 剛先生)

 

循環器領域の診断に有用なアプリケーションとなりうるDual Dopplerを紹介した。Dual Dopplerは,「HI VISION Ascendus」「HI VISION Preirus」および「ProSound F75」に搭載されている。2か所のドプラ波形を同時に観察可能であることから,紹介した臨床例以外にも応用されていくことが期待される。
今後も循環器領域の超音波診断をサポートできる魅力的なアプリケーションをご提供していくとともに,検者の使い勝手が良くなるように,より一層の操作性の向上を図る技術の開発に取り組んでいく。

*‌ HI VISION Ascendus,Ascendus,HI VISION Preirus,Preirusは,株式会社日立メディコの登録商標です。
*‌ ProSoundは,日立アロカメディカル株式会社の登録商標です。

●参考文献
1)楠瀬賢也・他 : Dual-Doppler Systemによる心房細動の左室拡張能評価. MEDIX, 52, 23〜26,2010.
2)加地 剛・他 : Dual Dopplerを用いた肝静脈および下行大動脈血流同時記録による胎児不整脈評価の実際. MEDIX, 56, 8〜11, 2012.

 

【問い合わせ先】日立アロカメディカル株式会社 マーケティング本部 TEL 0422-45-5124 http://www.hitachi-aloka.co.jp

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