TOPICS 第2回 Hi Advanced MR セミナー
泌尿器・婦人科領域のMRI診断
後閑 武彦(昭和大学医学部放射線医学講座放射線科学部門教授)
2015-9-25
本講演では,腎,尿管,副腎,前立腺,卵巣を中心に,泌尿器・婦人科領域において日常臨床に役立つMRIの知識を解説する。
腎腫瘤の鑑別診断
腎腫瘤の診断ではまず,充実性腫瘤か囊胞性腫瘤かの鑑別が必要となる(図1)。嚢胞性腫瘤であれば,Bosniak分類に当てはめてカテゴリーを評価する1)。Bosniak分類は元来,造影CTによる分類であり,造影MRIを用いるとカテゴリーが上がると言われている2)。
造影MRIは,石灰化が激しく,CTでは造影効果が判別しにくいような症例でも,石灰化の内部に腫瘤があることが観察できる。また,若年者におけるカテゴリーⅡF(気になる非定型的な囊胞:悪性5%)でのフォローアップは,被ばくの懸念のないMRIの方が適している。
充実性腫瘤であれば,腎細胞癌との鑑別は重要である。粗大な脂肪があれば良性の腎血管筋脂肪腫と診断される。粗大な脂肪がなければ,次に浸潤性か膨張性かを区別する。
腎癌は浸潤性腎癌を除けばほとんど膨張性に発育し,なかでも組織型で淡明細胞癌が7〜8割を占める。淡明細胞癌は細胞質中に脂質を含むため,MRIで検出することができる。
多血性で,偽被膜を有する淡明細胞癌のMRIでは,中に出血性壊死があるため,T2強調画像で不均一な信号を示す。偽被膜の描出には,MRIのT2強調画像が最も適している。偽被膜が破れていなければ,その腫瘤が限局性であることがわかり,部分切除の指標に役立つ。また,偽被膜の有無によって,ある程度の腫瘤の鑑別にも役立つと言える。
また,腎腫瘤のタイプは血流でも鑑別できるが,MRIのT2強調画像における信号の違いも役に立つ(図2)。特に,淡明細胞癌はin phaseに比べてopposed phaseでは低信号となることがある(図3)。
尿管疾患に対するMRU
尿管疾患では排泄性尿路造影に代わって,CTUが第一選択となりつつある。MRUは空間分解能がCTより劣ることや,尿路結石の診断が難しいことなどの理由から,適応は限定的とされるが,尿路造影剤が使えない場合や,被ばくを避けたい場合,特に小児などには有用である(図4)。
またMRUは,T2強調画像を利用して造影剤を使用しない方法と,T1強調画像を利用して少量の造影剤を使う方法とがある。前者では囊胞も消化管液も白くなり,尿路描出が不良となることがある。後者で脂肪抑制をかけると,CTUのように尿路が明瞭に確認できる。
副腎腺腫のMRI診断
腺腫は頻度が高く,転移も多いので,良悪性の鑑別は非常に重要である。
大きさが3cm以上で両側性であり,不均一な性状であれば,副腎転移の可能性が高い。副腎腺腫の多くは3cm以下であり,辺縁整,内部均一で,両側性の頻度は低い。
単純CTにおいて,CT値が10HU以下なら,98%は副腎腺腫である。CT値が10〜30HUの場合は確実には診断できないため,CTヒストグラムや化学シフトMRIで細胞内の脂肪を確認する。
また,化学シフトMRIのopposed phaseで信号が下がれば副腎腺腫,下がらなければ転移と診断できる(図5)。CT値が30HU以上の場合は,造影CTを施行する。
前立腺癌におけるMRIの役割
前立腺癌は通常,PSAが高値で,直腸診で結節を触れればTRUS(transrectal ultrasonography)に進み,生検で確定診断される。生検で癌と診断されれば,MRIでステージングし,局所にとどまっていれば手術,精囊に浸潤していれば放射線療法かホルモン療法で治療する。MRIによる前立腺癌の局所浸潤診断は,日本医学放射線学会の画像診断ガイドラインにおいてもグレードBで推奨されている。
MRIは精囊浸潤に関してはTRUSを凌駕し,経直腸コイルを用いた高分解能MRIはCTを凌駕するとされている。最近では,Multi-parametric MR imagingも報告されている。T1強調画像とT2強調画像では前立腺の解剖を,ダイナミックMRIでは腫瘍の局在を,DWIでは分子イメージングとして腫瘍の悪性度を,そしてMRSでは,分子イメージングとして腫瘍の代謝を確認できる3)。
従前の前立腺癌の生検は,TRUS下に数か所〜十数か所の組織をランダムに採取していたが,最近ではMRIで事前に病変を検出し,TRUSとMRIのフュージョン画像やMR画像ガイド下にターゲットバイオプシーを実施することで,診断能の向上を図ることが可能になっている(図6)。
近年,海外を中心に,前立腺癌の局所治療(focal therapy)が実施されるようになり,MRIガイド下にRFAや凍結療法などが行われている。局所浸潤の評価,生検のための病変の検出,待機治療の判断と進化してきた前立腺癌におけるMRIの役割は,将来的には局所治療に生かせると考えている。
卵巣腫瘤に類似する卵巣外病変
婦人科領域では,子宮近くに腫瘤が認められれば卵巣腫瘤,卵巣囊胞と診断しがちであるが,他臓器由来の腫瘤の可能性もあることに留意したい(図7,8)。
造影MRIで,直腸の粘膜下腫瘍のGIST(消化管間質腫瘍)が直腸前方に圧排されている場合も,卵巣腫瘍と間違える可能性がある。
また,右下腹部痛で超音波検査の結果,卵巣腫瘍と診断された症例のMRIでは,T2強調で均一な高信号,T1強調で低信号を呈する囊胞性の腫瘤が認められた。しかし,同側に卵巣が確認されたため,虫垂の粘液瘤であることがわかった(図9)。
卵巣腫瘍と間違いやすいこれらの疾患を見分けるためには,まず同側の卵巣を確認する。また,栄養動脈や導出静脈,周囲臓器との位置関係を確認することと,類似病変の存在を念頭に置いておくことで,誤診を防ぐことができる。
●参考文献
1)Bosniak, M.A.:The current radiological approach to renal cysts. Radiology, 158, 1〜10, 1986.
2)Israel, G.M., et al:Evaluation of cystic renal masses : Comparison of CT and MR imaging by using the Bosniak classification system. Radiology, 231, 365〜371, 2004.
3)Hoeks, C.M., et al:Prostate cancer;Multiparametric MR imaging for detection, localization, and staging. Radiology, 261, 46〜66, 2011.
後閑 武彦(Gokan Takehiko)
1980年昭和大学医学部卒業。同年昭和大学医学部放射線医学教室入局。84年米国エール大学放射線科留学。85年国立大蔵病院(現・国立成育医療研究センター),86年昭和大学を経て,91〜93年米国ロチェスター大学放射線科クリニカルフェロー。2005年より現職。
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